第2話.崇拝のインフルエンサー②

 レジでの夢城真樹ゆめしろまきと客との争いに気づいた店長が、慌てた様子でバックヤードから出て来た。


「お客様、ど、どうかいたしましたか?」


 店長は二人の間に割って入り、中年の客に尋ねる。


「このバイトの女がな!」


 男は興奮しながら、店長に事情を話していた。


「こっ、これは申し訳ありません。真壁まかべ君、お箸多めにお渡しして」


 店長はすぐさま男子学生のアルバイトに指示をした。


 男子アルバイトは震える手で割り箸を鷲掴みにし、男に手渡す。


 男は肩を怒らせながらも箸を受け取り、「この女、クビにしろ!」と怒鳴ってから、店を後にした。


 暫くぶりに店内に静寂が戻る。


「いやぁ、無事に出てってくれてよかったですわね」


 真樹が笑顔で二人に言った。


「夢城さん、君、今日で辞めてくれるかな?」


 店長の目つきは険しい。


「あれ、もしかしてそれは、クビと呼ばれるものですか?」


 真樹が訊く。


「もしかしなくてもそう」


「ね〜こ〜げ〜」


 真樹は独特の驚き声を上げて、困り顔を見せた。


「君、ここに働きに来て何日?」


「えっと、5日ですわね」


「その5日の間に何人のお客様を怒らせた?」


「えっと、6人ぐらい?」


「1日一人以上のペースで怒らせてるね」


「態度の悪いお客には悪い接客を、礼儀正しいお客には良い接客を、公平さを心がけた証拠ですわ」


「そういう公平さ、ここではいらないから。もういいよ。いますぐ帰って。今までお疲れ様」


 店長は入り口を指差して、バックヤードへ戻ろうとした。


「あの……、6日間のお給金はいただけるのでしょうか?」


 真樹が微笑みながら、恐る恐る揉み手をして尋ねる。


 店長は一瞬だけ振り向くと、チッと舌打ちをして、再び奥へ消えていった。


「まあ、6日間働いたし、お給料が入ったら大好きなエクレアが何個ぐらい買えるかしら? ふっふっふ」


 真樹が一人で呟きながら、スマホの電卓機能を使い皮算用をしていると、「夢城さんって……、強いですね」と、その場に残っていた男子アルバイトが声をかけてきた。

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