第57話.終末の気配④
だが、以前来た時とは雰囲気が違い、客の数も少なく、園内には神や悪魔を支持する文言が書かれたTシャツを着た者や、鞄にワッペンをつけたりしている者がいる。
また、神を支持するTシャツを着た男性と、悪魔を支持するTシャツを着た男性が揉めているところへ、キャストが狼狽えながら仲裁に入るというシーンも目にした。
「あんなTシャツ、売ってるんだ」
舞がポツリと言う。
「作ってネットで販売してる人がたくさんいるんだよ。よく売れてるみたいだね」
純真は答えた。
「最近、神とか悪魔とかのTシャツ着てる人、よく見かけますね」
「そうだね。なんか世の中が分断されていってるよね。これって終末の予兆なのかな」
「終末……」
「あの……、舞ちゃんは終末って信じてる?」
純真が舞をちらりと見て訊いてきた。
「えっと……、どうなんでしょうね」
舞は返答に詰まる。
「そっか。もし終末があるとしたら、舞ちゃんは……神側の人間だよ。優しいし、礼儀正しいし。だから僕も一緒に神を支持して、舞ちゃんと一緒に優しい人だけの新世界で暮らせたらいいな」
純真が照れながら言った。
「わたしは……、そんな優しい人じゃないですから。悪魔がお似合いです」
舞は俯く。
「舞ちゃんが、悪魔……」
「あっ、いえ、冗談ですよ。だいたい終末なんて起こるわけないじゃないですか」
「えっ、まあ、そうだね……はは」
微妙に純真と会話が噛み合わないまま、二人はアマテラスランドを後にした。
帰り道でも、神の支持者と悪魔の支持者のデモ行進や、小競り合いを目撃した。
さらに、それを止めに来た警察官までどちらかの支持者のようで、揉め事に加わっている光景までも。
舞は悪魔の先導者として当事者でありながら、この雰囲気に呑まれ、従来の臆病さに心が支配される。
街中の様子に怖がりながら、純真と手を繋いで暫く歩くと、やがて駅に着いた。
「今日は楽しかったです。それじゃまた」
舞が微笑む。
「あっ、あの、良かったらまた、僕の部屋へ来ない?」
純真が誘った。
「ごめんなさい。今日は疲れてるので……、帰ります。また今度」
「あっ、そうなんだ。こちらこそごめん。別に気にしなくていいよ。じゃあゆっくり休んでね」
そんなやりとりでその日は二人別れた。
自宅の最寄り駅で降りた舞は、一人歩道を歩く。
陽も落ちて、辺りも暗くなっていた。
「舞ちゃん、お久しぶりね」
不意に誰かが舞を呼び止める声がした。
舞は辺りを見回す。
すると、電柱の陰に女が立っていた。
「あなたは……」
そこにいたのは、以前、忠告に現れた
「あたしの言ったこと覚えてる? いよいよ、あなたが変われるチャンスが来るわ。あの成星純真をその手で消して、あなたは過去の自分を捨てるのよ」
謎の女は舞に詰め寄ってきた。
舞は黙ったまま佇む。
「もうすぐ、あなたの通う明導大学で学園祭があるでしょ。その日、あたしが成星純真を大学に呼び寄せるから、あなたの奇能で彼を粛清するのよ」
「わたしの、学校で……?」
「そう、あなたの学校で。そのために明導大学は出来たのだから」
謎の女は妖しい微笑みを浮かべた。
彼女は話を続ける。
「学園祭の日、午後1時にC棟の屋上へ行って。その時間はみんなミス明導で盛り上がってるから、人目につかないで彼を粛清するのには都合が良いわ」
一方的にしゃべる謎の女を前に、舞は何も答えず、身を硬くしたままでいた。
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