第55話.終末の気配②

 明導めいどう大学も後期が始まった。


 不思議研究会の部長である最上雪もがみゆきは部室の窓から、キャンパス内の様子を眺める。


 眼下では学生の集団が二手に分かれて、鳴り物や拡声器でそれぞれの主張をぶつけ合っていた。


 片方はミスキャンパス参加者である福地聖音ふくちきよねと神を支持し、もう片方は不思議研究会のメンバーでもある夢城真樹ゆめしろまきと悪魔を支持している。


 夏休み明けから、学内で学生同士の対立が起き、不穏な空気が学校中に充満していた。


「なんでこんなことになってるの?」


 最上部長は、夏休み前とは違う学校の雰囲気に怯えていた。


「みんな日頃の不満やストレスを、この機に発散してるんだろ。神か悪魔、どちらかに従って新世界でリスタートって、そういう鬱憤溜めてる人達に刺さりそうな話じゃないか」


 メンバーである寺元流輝てらもとりゅうきが言った。


「それにしても、こんなにも多くの人達が、そんな終末論に乗るなんて……」


「メディアや有名人が煽ってたりしてるからね」


 メンバーの本庄博之ほんじょうひろゆきも不安のそうな表情をしている。


「そう言えば、元凶のまきちゃんは? 笑実ちゃん知らない?」


 最上部長はメンバーの富樫笑実とがしえみに訊いた。


「なんか、応援してくれる人達とデモ用の横断幕やプラカード作ったり、自分達の支持者を増やすための作戦会議をしたりするって言ってたけど……」


「えぇー、それってもっと対立を深めるつもりじゃない。学園祭までに誰か止めないと」


「もし、夢城さんの言ってることが本当で、終末が起こるとしたら、僕達も神を支持するか悪魔を支持するか、選ばないといけませんね」


 メンバーの稲田誠いなだまことが言った。


「そんなー」


 最上部長は嘆く。


「新世界に相応しく無い方は、終末で消えるらしいから慎重に選ばないと」


「このメンバーで対立するなんて、わたし絶対に嫌だから」


 外から聞こえてくる学生の声が一際大きくなった。

 窓から見ると、双方の距離が近くなっている。


 今にも暴力行為にまで発展しそうだ。


「もう! 校内がこんなになってるのに、なんで学校のトップの人達は動かないのよ!」


 最上部長は憤る。


「そう言えば、校内の騒ぎを止めるどころか、何の声明も出してませんね。昔あったって聞く学生運動も、こんな感じだったんでしょうか」


「わたし、学長に直接、言いに行ってくる」


 最上部長は、学校内の変化と心に湧く不安から、居ても立っても居られなくなった。


「会ってくれるでしょうか?」


 稲田が心配そうに尋ねる。


「会ってくれるも何も、自分の学校のピンチなのよ。学生が訴えればきっと動いてくれるはず」


 最上部長は力強く言った。


「そう言えば、学長ってどんなひとだっけ?」


 本庄がメンバーに訊く。

 全員が首を傾げた。


「えっ、誰も知らないの?」


 最上部長は驚いた。


「知るわけないだろ。偉い人なんだし」


 寺元が答える。


「そう言われれば、わたしも知らないけれど……」


 メンバー全員が一斉にスマートフォンを取り出し、明導大学について検索をかけた。


 だが、五人がかりで調べても、明導大学の学長についての情報は、名前どころか学長に関わる些細なものですら、誰も見つけることができなかった。

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