第37話.清掃中の部室
真樹へミスコンの概要を記した書類を届ける為だ。
恐らくこの時間は、サークルの活動中で部室にいるのではないかと思われる。
聖音は相変わらず、真樹より自分の方が魅力的であることを証明し恥をかかせてやると息巻いていた。
こちらはいい。
心配なのは夢城真樹の方だ。
聖音の挑発されて参加するとは言っていたものの、正岡はどこまで本気か計りかねている。
彼女なら突然気が変わったなどと言い出しそうで怖い。
せっかく参加する気になった真樹を逃すわけにはいかず、なんとしても参加させねばらなかった。
正岡が不思議研究会の部室の前に着くと、室内からなにやら掛け声みたいなものが聞こえていた。
なんだか不気味ながらも、正岡は引き戸をノックする。
返事はない。
引き戸越しに、中からエイッエイッと、男性と女性の声が混じった掛け声が一定のリズムで聞こえてくる。
中に誰かいるのは間違いない。
正岡もう一度ノックし「すみません……」と、そろそろと引き戸を開けた。
中を覗くように顔を入れる。
「入っちゃダメよ!」
聞き覚えのある声が飛んできた。
正岡が驚いて動きを止めると、真樹がテーブルの上に乗り、天井の照明にはたきをかけているところだった。
戸惑っている正岡に真樹が続けて言った。
「心配しなくていいわよ。ミスコンには出てあげるから」
自分の懸念を見透かされていたのか。
正岡は焦った。
「あっ、あの、ありがとうございます。でもそんな心配はしてませんので……」
思わず裏腹の言葉が口を衝く。
「あっ、入っちゃダメよ。夏休み前の大掃除で、床にワックスかけたんだから。
部屋に入るのを阻止しようとする真樹に正岡は書類を差し出す。
「あの、夏休み中にミス明導参加者によるアピール動画合戦がありまして、これがその概要が書いてある冊子になります。読んでおいて頂けますか」
真樹に渡したいが、部屋に入れないため渡せない。
「跨いじゃダメよ、跨いじゃダメ。冨樫先輩、もらっといて」
入り口に近くにいた床ワックス担当の
「帰んなさいよ、何しに来たのよ」
「何しに……、ミスコンの書類を渡しにきたんですが」
冨樫は書類を無造作に受け取った。
「おいコラ、掃除の邪魔だ。出て行け。お前の来るとこじゃねぇんだコラ。邪魔だ、掃除の」
今度は窓拭きを担当している
異様なメンバー達に面食らい、どうもこのサークルの人間には深く関わってはいけない気がしてきたので、正岡は素早く会釈すると、そそくさと部室から去ることにした。
すると、再び部室の中から掛け声が聞こえ始めた。
サークルのメンバーは清掃を再開させたようだ。
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