第23話.神の挑発


 夢城真樹ゆめしろまきは内心苛立っていた。


 福地聖音ふくちきよねの仲間である砌百瀬みぎりももせが、そのアイドルという立場と知名度を生かし、終末論を広げている。

 しかもそれが功を奏し、その動画のコメント欄には百瀬の主張に共感する者が、徐々に増えていっている様子だった。


 それを見た真樹は、まがい物の終末論の拡散を止めるべく、自分達の終末論を世の中に広げようと目論むも、どうも良い手が思い浮かばず、いたずらに時間を過ごしていた。


「お疲れ様です」


 今日も不思議研究会のサークル活動に参加する。


「そう言えば、今度うちの学校でミスコンがあるらしいけど、真樹ちゃんも出てみたら?」


 メンバーの富樫笑実とがしえみからも参加を勧められた。


「出ないですわよ。あんなの。興味ないですし」


「えー、真樹ちゃん可愛いから、優勝狙えると思うのに」


「まあ、あたしが出たら優勝するのは決まってますけど、でも一銭にもならないですし、時間がもったいないですわ」


「優勝したら芸能界からスカウトとか来るかもしれないよ。それでタレントとして売れたら大金持ち」


「芸能界ねぇ……」


 真樹と富樫がそんな会話をしているうちに、最上雪もがみゆき部長が部室へやってきた。


 メンバーが全員集まり、今年のテーマ、行方不明事件の謎の解明に向けて話し合う。


「これが最近起きた行方不明事件の場所をまとめたものなんだけど……」


 そう言って最上部長はメンバーにプリントを配った。


「まあ、みんな勝手に人を消してるわね」


 プリントを見ながら真樹が言った。


「うん? まきちゃん何かある?」


「あっ、いえ、何でもないですわ。部長のプリント、見やすくて参考になって感謝ですわ」


「それはよかった。もうすでに原因不明の行方不明者が10人以上。最近では有名なワォチューバーに、社内で出勤後に消えた広告代理店の課長……」


「この件はうちじゃないわよ」


「うん? どうしたの真樹ちゃん」


「あっ、いえ、こっちの話ですわ」


「さらに怖いことなんだけど、うちの学校からも学生二人が突然いなくなりました。しかも学校内で。二人とも演劇部の子なんだけど、登校してたにもかかわらず、連絡も無く部活に参加しなかったことから発覚して……」


 最上部長は少し怯えた目を見せた。


「それでこの事件について、ちょっと気になることが起きたんだけど」


 みんなの視線が最上部長に集まる。


「みんな知ってるかもしれないけど、うちの大学に在籍してるアイドルの子がいるの」


「砌百瀬さんでしょ」


 稲田誠いなだまことが嬉しそうに発言する。


「僕、イエスプファンだから、よく知ってます。実は彼女がこの大学に通ってること知らなくて、それで同じ大学だって知ったときはマジで嬉しくて、なんとかもう少し近い存在になれないかなとも思うんですけど、でもやっぱり彼女の立場も考えると……」


 稲田は最上部長を差し置いて、一人熱く語っていた。


「お前がそのグループ好きなのはわかったわかった」


 メンバーの一人、寺元流輝てらもとりゅうきがハスキーボイスで稲田を止める。


「その稲田君が話してくれた砌百瀬さんなんだけど、彼女が公式動画で言ってたのが……」


「終末論のことですわね」


「あっ、まきちゃんも観た? あの動画」


「でもあれ、間違いですわよ」


「そうよね。終末なんて話は突飛過ぎるし、実際には起こらないとは思うけど、でも彼女がなぜ、アイドルという立場にありながら終末論を語ったのか、それがこの行方不明事件と関係があるのか、調べてみたいのよ」


 最上部長が提案する。


「それなら簡単ですよ。砌さんに直接取材して話聞いてみたらどうですか?」


 メンバーの本庄博之ほんじょうひろゆきが言った。


「そうね、まずはそれをやってみようか。動画の真意を校内の学生に説明してもらうって形で」


「そうそう、直接会ってエセ終末論を広げるあの女を叩きのめしてやりますわ」


 真樹は息巻く。


「いや、叩きのめす必要はないけど……」


 最上部長は困惑した笑みを見せた。


「ただ彼女は芸能人だから、簡単に取材できるかどうか.……。忙しそうだし」


 最上部長は言う。

 それでも後日、百瀬のところへ行き直接、取材交渉にあたることにして、その日のサークル活動は解散となった。


 みんな下校するため、校門へと向かう。

 真樹もメンバーと一緒に最寄り駅まで行くことにした。


「子供のこと赤ちゃんって言うじゃん。それでさ、何で青ちゃんじゃダメなのか、わたし考えたの。そしたらさ……」


 そんな冨樫のくだらない話を聞きながら校内を歩いていると、


「ちょっと、真樹ちゃん。あれ……」


 最上部長が真樹を呼び止めた。


 何事かと、最上部長が指し示す方を見ると、学校の掲示板である。


 そこには新聞部が作った学生新聞が貼られていた。


 記事の内容は、今度行われるミスキャンパスに関してのことだが、その紙面に載っている写真の人物が気にくわない。

 福地聖音だ。


『不思研の夢城真樹は臆病者』


 そこには参加を表明した聖音がミスキャンパスへ参加しない真樹を名指しで、罵倒や揶揄で挑発する内容が記されていた。


 そして優勝したときには、間もなく来たる終末について、多くの学生に呼びかけたいことがあるとも。


 さらに聖音は、ミスキャンパスエントリー表明会見を開き、そこで改めて詳細を話すと書かれている。


 新聞の内容を読み、真樹はわなわなと震えた。


「ねぇ、真樹ちゃん、この人、知ってる人?」


 最上部長が聞いた。


「知ってるもなにも、とんでもない嘘つき悪女ですわ」


「エントリー表明会見までするんだって。そしてこの人も終末のこと言ってる……。アイドルの子と同じだね」


「こいつの終末論は間違いですわよ」


「えっ?」


「本当の終末論を広めなきゃ」


 真樹は己の決意が、思わず心の外に漏れたかのように呟いた。

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