第14話
その声の方向に振り向くと、幼なじみの渉だった。
「こんな時間まで何やってんの?」
渉は私の横に並んでそう聞く。
伊吹くんのことを見ながら。
「映画、見てたんだよねー」
伊吹くんはその目線に答えるかのように明るく返事をする。
伊吹くんは、さっき何言いかけたんだろう。
気になる。
「ってかあんた誰?」
渉の声が駅のホームに響く。
渉、なんか疲れてる?
いつもの雰囲気と違う。
「俺は井上さんのクラスメートでーす」
伊吹くんはニコニコと渉に返事をしている。
井上さん。
クラスメート。
違わない。
何も間違ってないのに、すごく距離を感じる言い回しだった。
「じゃ、幼なじみくんがいれば安心だね。また明日学校で」
そう言って伊吹くんは反対側の電車乗り場へ向かった。
帰りはやけにあっけなかった。
もっと一緒にいたいとか言ってたくせに。
あっさり帰り過ぎじゃない?
って違う違う。
伊吹くんはカレカノ気分を味わいたくて言ってるだけなんだって。
勘違いしちゃだめだよ。
いい加減学習しなきゃ。
伊吹くんの後姿を目で追うのをやめると渉と目が合う。
「新奈が男の人といるなんて珍しい」
「まあね、成り行きで」
やっぱり渉は疲れているように見える。
「もしかして好き、なの?」
「へっ?!ないない!絶対ないから!」
急に変なことを聞くから、びっくりして声が大きくなってしまう。
「新奈、動揺しすぎ」
そう言って渉は笑った。
くしゃっと笑う渉の笑顔はいつもの笑顔で少し安心した。
「でも、なんか見たことあるんだよな」
「伊吹くんのこと?まあ学校一緒だし見たことぐらいはあるんじゃない?」
「いや、学校以外で」
学校以外で?
「そう言えば、伊吹くんも渉のこと知ってたよ」
「え?」
「ほら渉、放課後よくうちのクラスに来てたじゃん。それで私と渉が付き合ってるって勘違いしてたみたい」
私は初めて伊吹くんが私に喋りかけてくれた時のことを思い出した。
不思議だな。
あの時伊吹くんが忘れものをしていなかったら、私たちはこんな関係になっていなかったかもしれない。
「…そのまま勘違いしててもよかったのに」
渉が喋り始めたと同時に電車が来て。
何を言ったのか私のは聞こえなかった。
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