第13話
結局伊吹くんは映画が終わるまで、目を開かなくて。
肩は占領されたまま。
手も繋がれたまま。
私は伊吹くんの密着のせいで、全然映画に集中できなかった。
「伊吹くん。映画終わったよ」
伊吹くんの体を揺らすと「もうちょっと」って言いながらまた目を閉じた。
本当に何なんだろう、この生き物は。
さすがにマイペースすぎる。
他に映画を見ていた人が次々に映画館から出ていく。
「ねー見て、カップルかな?」
「いいなー私も彼氏欲しい」
たぶん私と伊吹くんを見て言ったんだろう。
恥ずかしすぎて堪らない。
周りから見ると、カレカノに見えるのかな。
まあ、こんなに密着してれは勘違いされてもおかしくないか。
「さっきの人たち勘違いしてたね」
伊吹くんの声色はなんだか嬉しそうだった。
「ほら、次の映画始まっちゃうから」
「ちぇっ…。もっとくっついていたかったのにな」
伊吹くんはそう言って渋々立ち上がった。
なんで。
なんで、そんな事ばっかり言うの?
映画館を出た後は、映画とは無関係の話ばかりして。
さっきは本当に寝てたのか寝ていなかったのか、面と向かって聞けなかった。
やっぱり起きてたよね…?
寝ぼけながら手を繋ぐとかある?
もしかするとモテ男はそういう技能を持っているのかもしれない。
暗くなった駅のホーム。
伊吹くんはまた、私の乗る電車が来るのを一緒に待っていてくれる。
「今日は、ごめんね。私の選んだ映画、興味なかったよね」
伊吹くんが映画に行きたいって言うから来たはずなのに。
伊吹くんはきっと退屈だったよね。
ほんと、何やってんだか。
「なんで謝るの?俺は楽しかったよ」
やけに色っぽい顔で、伊吹くんは微笑んだ。
なんで?
ずっと寝てたのに?
…やっぱり伊吹くん寝てなかったの?
「新奈は楽しくなかった?」
「そんなことないけど…」
そんなことないと思う。
映画の内容なんてこれっぽっちも入ってこなかったけど。
居心地はよかった。
…かも。
「なんか帰りたくないなー」
「え?」
「帰したくない」
またそんなこと言って。
伊吹くんがそのつもりなら私だって。
「私も帰りたくない」
なんて。
伊吹くんがいつも惑わすことばっかり言うから、私だって彼女っぽいこと言ってやる。
「なに、今の」
「え、なにって…」
「だったら俺と───「あれ、新奈?」
伊吹くんの言葉に、遠くから聞き覚えのある声が重なった。
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