第11話



結局、映画館へ来てしまった。



「新奈はどれ見たい?」


「え?見たい映画があるんじゃないの?」


「俺は、新奈の見たい映画が見たい」


「なにそれ」



あんなにしつこく誘うから、見る映画はもう決まってるんだって思ってた。



「じゃあ、あれにする」



私が指差したのは、猫が主人公のハートフルな冒険映画。


予告を見てから、ずっと気になっていた作品だ。



「新奈らしい」


「そう?」



伊吹くんは優しく笑う。


本当にキレイに笑うなー。


うっかり見惚れていると、伊吹くんがこっちを見た。



「なんかついてる?」


「うんん…!」



急に目が合うからびっくり。


って、それだけ私が伊吹くんを見てたってことか。





チケットを買ってドリンクも頼んで、選んだ席に座る。



「ここカップルシートじゃん!」


「カップルなんだからいいでしょ?」



静かにしなよって、そのまま伊吹くんはカップルシートに座った。



「いやいや、カップルではないよね!?そもそも私は伊吹くんのこと好きになっちゃいけないんだよね?ねー、ずっと思ってたけど伊吹くんって言ってる事とやってる事、めちゃくちゃ矛盾してるよ!?」


「ほら、始まっちゃうから静かにしなよ」



もう…なんなの?!


その言い方、怒ってる私が悪いみたいじゃん。


何も言えなくなった私を見て、伊吹くんはクスクス笑ってる。



分かった。


映画が終わったらしっかり問い詰めてやる。


見たかった映画に集中したいから、今は!引き下がってあげるんだからね!




しばらくすると映画館のブザーがなって、辺りが暗くなった。


てか。


我ながら思うけど、伊吹くんは私と映画なんて一緒に見て楽しいの?


映画も私に選ばせてくれたし。


カフェに行った時だって、私の食べたいものに合わせてくれた。


伊吹くんは何の目的があって私に関わってくるのか、本当に分からない。



そんな伊吹くんをこっそり盗み見しようとすると、また目が合ってしまった。


目が合うとニコっと笑う伊吹くん。


私は表情をピクリともさせずに、スクリーンに顔を向き直した。


やっぱり伊吹くんと一緒にいるとソワソワする。



でも映画が始まるとそんな気持ちも少しずつ落ち着いてきて、どんどん作品の世界観にのめり込んでいった。


それはもう、伊吹くんが隣にいることを忘れるくらいに。


そうだよ。


誰が隣にいようと、関係ない。


2時間くらいあっという間だ。


そう思ったのに。


直ぐにまた伊吹くんで頭がいっぱいになる。




…っ!?




伊吹くんの頭が私の肩に乗ったのだ。




もしかして…寝てる?


寝てるの!?



心臓がバカになったみたいにドキドキいってる。


今までにない距離感で、意識せずにはいられなかった。



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