映画館デート。

第10話



「えー、先週約束したじゃん?」


「だから、同意したつもりないから」



皆藤くんと初めてデートをしてから1週間がたとうとしている頃だった。


放課後、別々に教室を出たはずなのに、玄関で皆藤くんと遭遇。


見事につかまってしまった。



「でもこの前のデートの帰り、寂しそうな顔してたよ」


「してない」


「してた」


「仮にそうだとしてもデートには同意してない」


「やっぱり俺と別れる時寂しかったんだ」



な…!



「だから!今その話と一緒にしないで!?」



皆藤くんと喋るのは初めてのデート以来。


クラスでは皆藤くんから声をかけられる訳でもなく、私から話しかける訳でもなく、何事もなかったかのように今日まで過ごした。



皆藤くんは面倒が嫌いって言ってたし。


学校で話しかけたりするのも、あんまりよくないのかって。


って言っても別に話す用事もなかったんだけど。


ただ、私たちはデートする前に戻ったかのように、クラスでは全く関わらなかった。



なのにいざ喋るとこの調子。


皆藤くん相手だと、やっぱり調子が狂う。



「映画行こ?」


「行かないって」


「今日予定でもあるの?」


「…ないけど」


「じゃあ、行こーよ」


「前回のデートで日誌の借りは返したでしょ」


「えー」



って、そんな悲しそうな顔したって私には通用しないんだから。



「そんなに映画見たいなら、私じゃなくて皆藤くんのことが好きな女子と───」



私が途中まで言いかけた時。



「だからそれは嫌だつってんじゃん」



一瞬だけ空気がピリついた気がした。


皆藤くんは靴を履き替えた直後の私の手を強引に引いて、すたすたと歩いて校門に向かう。



「ちょっと離して」


「ダメ。離したら帰っちゃうでしょ?」


「帰らないから離して」


「信用できない」



何なの!



「人目が気になるから。お願いだから離して」



仮にも人気者の皆藤くんと手を繋いで下校してたとか噂になったりしたら、皆藤くんが嫌がる面倒なことになる予感しかしない。


付き合ってもいないのに、そうなると私も面倒だ。


私の言葉を聞いて皆藤くんはピタッと足を止めた。



「人目がないところだと繋いでいいんだ?」



それは悪魔のような笑みで、皆藤くんは笑う。



「ちがっ…!」



必死な私と裏腹に皆藤くんは余裕そうに笑って私の手を離した。


完全に皆藤くんのペースだ。



「ごめんね。新奈がいい反応するから、ついいじめたくなっちゃって」


「皆藤くんっていつもその調子なの?」


「あ、今苗字だった」


「伊吹!伊吹くんは!」


「ちょっと必死過ぎなんだけど」



皆藤くんは堪えきらないかのように肩を揺らして笑ってる。


だって。


キスは好きになった人としたいじゃん!

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