5
————話すことが無いな。
————
そう、少し前まで天文部は廃部寸前だった。
この高校には現在、宇宙関係の部としては、天文部と、宇宙航空科学部がある。この部は高校生達で人工衛星を作って打ち上げようと計画している、とんでもない部だ。
もともと5年前は1つの天文学部だったのだけれど、いつの頃からか人工衛星組と、ただ、天体観測や天文好き達の天文組みに、喧嘩わかれしてしまったらしい。
結局、天文学部は消滅。
宇宙航空科学部、13名と天文部、9名に分かれた様だ。
略して宇宙航科部は、天文学部の時の科学教師、
で、今に至る——の、だけれど……話しのネタにはならないか——
————
「ふふ。
「え? 乃万嶌も充分ダル……ペンギンだよ」
ペンギンの方がマシだ。
——————
————
「時間帯がズレてたんだ。私もこの公園に通って1年ちょっとになるけど、初めて会ったよね」
「そうだな。僕は中学の時から毎回21時過ぎに来てるよ」
「そういうところ、男子は良いよね。! そうそう、それでね、今日20時前に来たのはさ——」
ん? さっきの話か。そういえば、やけに早く来てたんだな。
「望遠鏡のセットに時間かかりそうだったから。と言うか、あまりにも重過ぎて、ここまで来るのにもう諦めてお父さん呼ぼうかと思った。ようやくセットが終わった時に仇川君が来たんだよ」
「はぁ? 重いって、乃万嶌の望遠鏡はポルツーだろ。いつもと——」
言いながら僕は乃万嶌の望遠鏡に目をやる——
同じ……じゃない??
「え? ちょっと待って。部活で使ってるのと違うな。えええ? まさかバイザ?」
僕は立ち上がり、望遠鏡に近づく。
「うわ〜今頃? 全然見てなかったんだね。仇川君が食いついてこないからおかしいなぁと思ってたんだ」
振り返り見た乃万嶌の顔は、ニヤニヤしていた。
「マジでブイシーエルだ」
対物レンズ200ミリ、焦点距離は1800ミリ。集光力は肉眼の約800倍以上になる——
自動追尾式赤道儀付大口径天体望遠鏡だ。
「すごいな。これ。ちょっとのぞいても良いか?」
言って、振り返る。
乃万嶌は目を丸くしてキョトンとしていた。
「あ、うん」
そう言うとすぐに笑顔を作り、
「どうぞどうぞ。ほら、ちょうど部分食が始まっているんじゃない? 欠け——始めてるよね」
と続けた。
部分食からは、肉眼でもはっきりと観える。木蔭が言ったのもわかるけれど、望遠鏡で観るそれは、地球の影が月面を覆っていくのが実感出来る。
月の海を横切り、クレーターのデコボコに合わせて影が変化するさまは、感動ものだ。
「ありがとう」
乃万嶌も楽しみだと言っていたから、いつまでも見ているわけにいかない。
「どうだった? まだ観てても良いよ」
乃万嶌はそう言って、レモンティーを飲みながらこちらに来た。
「いや、満足。乃万嶌がこんなに凄い『愛望遠鏡』を隠していたとは、驚いたよ」
もう一度、乃万嶌の望遠鏡を見てそう言った時、三脚にぶら下がっている何かに気づいた。
人形? ボールか? いや、地球のストラップだ。地球に何かがくっ付いてるみたいだけど————これ、何だっけ? 見たことがある——
「ぷーーあはははは! うふふふくくくくく、苦しい」
…………乃万嶌が爆笑している。いきなりどうした?
「うう、くくく今のそれ、『愛望遠鏡』ってなあに?」
! ええ?! 言った? 僕そんな事言っちゃったか?
「い、いや、違う。マ、マイ、望遠鏡って……」
「くく、苦しい。その言い訳は苦しいよ」
「悪い、聞き流してくれ」
「無理、くふ、聞き流せない。う、あーふーうう。あー苦しかった。死ぬかと思ったよ」
…………
「ふー私も驚いた。あんなにテンションの高い仇川君、初めて見たよ。『マジで?』とか言ってたもの」
僕だって『マジで?』くらい言う。
「それに、あんなにど、動揺してくく、あ、あい、愛」
「わかったわかった。もうそれは許してくれ」
「はー……わかった! 許す」
…まいったな……
「ただね、隠してたわけでは無いんだよ。ミキちゃん達は知ってるし。私達って話しても部活動の事だけで、プライベートな話とかしないから」
望遠鏡を覗きながら乃万嶌は言った。
プライベートな話は普通しないだろ。
……するものなの?
確かに、僕は普段から雪臣以外の誰ともプライベートな話なんてしない。ただ、誰とでも普通に話してると思うけど。聞かれれば答えるし、用事があれば話しかけもする。頻度は……少ないか。1日誰とも話さないことも、あるにはある。
別に、それは今ままでと変わらない……普通だ……
乃万嶌は話しを続けている。
「部活で毎日の様に会ってても、仇川君がこの公園に通ってた事をさっき知ったし」
乃万嶌が望遠鏡から目を外し、こちらを見た。
ニット帽から肩へ——流れる様に出ている純黒の長い髪がひだり腕を隠している。
真っ直ぐに立ち——
真っ直ぐに僕を見て言った。
「もっとたくさん、もっと何かを話そうとしても……何て言うのか——仇川君には、踏み込めない空気が、踏み込ませない壁の様なものがあるから」
壁?
乃万嶌を直視したまま、僕は動けなくなった。
「それが、仇川君らしいと言えば、らしいんだけど。中学生の時から————」
そうだったもの
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