桜田門の賊

皆中きつね

第1話

 21世紀半ばに起きた戦争では、世界各地の上空でEMP兵器(高高度核爆発)が使用された。そのため先進各国では電子機器が壊滅的被害を受けた。

 ハードの被害は数年をかけて復旧したが、ソフトの被害は甚大だった。

 中でも既に電子化が標準となっていた出版と映像の分野は致命的で、2世紀近くに渡る人類の知的資産が消去されてしまったのだ。


 世界が文化的暗黒時代になった21世紀末、ある非合法な武装集団が桜田門の警視庁へ侵入した。各種証拠物件を保管してある地下倉庫に押し入り、しかも侵入も逃走も地下から行われるという事件が発生した。

 武装集団が何を狙いどうやって侵入逃走したのか警視庁はついに公表しなかった。

 だがその数年後、日本再生を旗印にした謎の集団が、もはや幻とまで言われた日本のマンガを始め、各種サブカルコンテンツをネット上に大量に放出。瞬く間に複製が世界中を覆い尽くし、世界のマンガ資産は旧に復した。


 最初にネット上に公開されたデータは、警視庁が押収保管していた、マンガやアニメの海賊版運営サイトのサーバーから復元されたものらしいというのが、その後の研究で判明している。


「と、いう所までは調べはついていたんだがなあ。あの老人、犯行グループのリーダーで間違いないと思ったんだが、とうとう喋ってくれなかったよ、どうやって桜田門の地下に侵入と逃走ができたのかの謎については」

今際いまわきわにやっと喋ったのが『ばあちゃん』の一言だけでしたからね」


 記者2人は、火葬場からたなびく煙を見上げて呟いた。


「まったく、たいした男だったよ、あの黒田って爺さん」

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桜田門の賊 皆中きつね @kit_tsune

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