第16話 青島探検隊再結成
日をまたいだ深夜の一時ごろ。
青島探検隊の三名は、西棟の談話室にこっそりと集結していた。
今宵、マダム殺人事件を解決し、太一がこの西棟にカムバックするためである。
正直、絵馬・ワトソンとしての暮らしは悪くはなかった。
ツインルームの部屋は住み心地が良く、純血御用達の生徒食堂は飯も豪勢だ。
おまけに女風呂でおっぱいも拝み放題。
もはや風俗を完備した三つ星ホテルといっても過言ではない。
だがしかし、そんな天国生活がいつもでも続くはずがなく、いずれ、絵馬・ワトソンの正体は見破られてしまう。
そうなったら本当の地獄が待っている。
純血デュラハン全員の逆鱗に触れ、チンコもろとも体をちょん切られてしまうのだ。
よって、太一はここを引き際とし、西棟へカムバックすることを決めた。
ちなみにシダレ髪はもう必要としないので、その変装は解いている。
首をつなげた隊員二名もふくめ、学園指定のジャージ姿だ。
「いいか、おまえら。俺たちはこれからマダム殺人事件を解決する。いちおう念のため、ここで事件の概要をおさらいしておくからな。耳の穴ガッポリひらいてよく聞いておけ」
「わかったわ」
「わかりましてよ」
談話室の隅っこで車座となる青島探検隊。
あぐらをかいて座る太一は、入念に打ち合わせを開始することにした。
それを受け、女の子座りする理奈とレイカもコクリとうなずく。
「まずマダムを殺したのは用務員で幽霊のボブだ。犯行現場に残された凶器、すなわちドライバーは用務員しか使わない。だからボブが犯人ということになる。俺の推理に疑問はないな?」
「今のところないわ」
「ボブが犯人でしてよ」
「よし」
太一はこれ見よがしに相槌を打つ。
完璧な推理なので自慢気になるのも当然だ。
「犯行の動機は痴情のもつれだ。透明スキルを利用して女風呂で悪さをするボブに、マダムは激しく嫉妬した。そんなマダムが邪魔になって、ボブは殺害を決意した。動機についての疑問はないな?」
「疑問はあるけど、それを否定する根拠がないし、まあよしとするわ」
「わたくしも理奈さんと同じ意見でしてよ」
「よし」
太一はさらっと受け流して次へ行くことにした。
矛盾点をつかれると返す言葉がないので当然だ。
「ここからが一番重要だが、ボブは蘭子先生と地下でなにかを企んでいる。なんの理由もなしに、開かずの扉の中に入ろうとするわけがないからな。おそらく、痴情のもつれ以外に、マダム殺人事件となんらかの関連性があるはずだ。すべての謎は、開かずの扉の向こうに隠されている。その秘密を暴くことこそが、青島探検隊に課せられた使命だ。その目的を成し遂げたときこそ、俺は晴れて西棟のメンバーに復帰することができる。それについての疑問はないな?」
「おおむね同意するわ」
「わたくしもでしてよ」
「よし」
太一は顎を強く引き、事件のおさらい、及び、本作戦の趣旨をここまでとした。
そこで理奈が「はい、質問」と手をあげる。
「なんだよ。全部説明したじゃねーか。耳の穴ガッポリひらいて聞いてなかったのかよ」
「そうじゃなくて、鍵もないのに開かずの扉をどうやって開けるのよ」
「ああ、そのことか」
ボブと蘭子先生も鍵がなくて中に入れずにいた。
鍵は蘭子先生が保管していたらしいのだが、彼女は保管場所を忘れてしまったのだ。
あのとき、二人は会話でそう言っていた。
つまり、開かずの扉を開けるには、紛失した鍵が必要ということになる。
だがしかし、太一とて絵馬・ワトソンで遊んでいたわけではない。
この日のためにと思い、その鍵はすでに手に入れてあるのだ。
「鍵ならここにある」
太一は腹ポケットから鍵を取り出し、理奈とレイカの前でそれをぶら下げた。
真鍮製の輪っかに、同じく真鍮製のキーが通されている。
長さは十センチほどで、蔵とかを開けるような棒状の形をしたものだ。
ちなみに正式名称はスケルトンキーという。
「てか太一、そんなもの、どこで見つけてきたのよ」
「南棟の教職員宿舎、蘭子先生の部屋に忍び込んで手に入れた。それもトイレのカーペットの下からな」
「トイレのカーペットの下を探す、あんたの行動がまったく理解できないんだけど」
「泥棒でもそこは盲点ですわよ」
理奈とレイカが疑問に思うのも無理はない。
だが太一は確信があったからこそ、ピンポイントで鍵を見つけたのだ。
「あのバカ教師はな、大切な物をトイレのカーペットの下にしまう癖があるんだ。それでいて、そのことをすっかり忘れちまうアンポンタンだ。そのアンポンタンが中学の担任だったとき、俺の入学願書も同じ運命を辿ったんだぞ」
「太一の入学願書は大切じゃないから、そんなとこにしまったんじゃない?」
「ウンコと同じ扱いだったのではなくて?」
「ということで、おさらいはここまでとする」
太一はしれっとスルーを決め込んだ。
これ以上、心に傷を負いたくはない。
そこへ――。
「夜の一時七分だよー、夜の一時七分だよー、夜の一時七分だよー」
談話室の生首時計が気まぐれに時刻を告げた。
十日ぶりに耳にする、銀髪ツインテールの幼女の声だ。
「夜の一時七分十五秒だよー、夜の一時七分十五秒だよー、夜の一時七分十五秒だよー」
とくに今夜は気まぐれの度合いがすこぶるひどい。
青島太一の復帰を待ちわびているのか、それとも本作戦における凶兆の前触れか。
というか、これではこっそり集まっている意味がない。
「うっせーぞクソガキ! 秒単位でお知らせする生首時計がどこにある!」
「――ッ!!」
太一が喝を入れると、生首時計の扉がパタリと閉じた。
ビックリして隠れたらしい。
幼女を叱りつけるのは不徳の致すところだが、なにせ相手は機械仕掛けの人形だ。
お嬢ちゃん、かわいいね、グヘヘヘ、なんて紳士的に接する必要はない。
ひとまず、現時刻をもって本作戦を開始する。
「よし、おまえら、出発するぞ」
「OK」
「OKでしてよ」
太一は理奈とレイカを引き連れ、談話室の出入り口から本館へ続く通路に赴いた。
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