第5話 幽霊軽トラ、その名はボブ

 入学式が終了し、教師と生徒は会場をあとにした。

 そこに残されたのは太一だけであり、式典の片付け作業に勤しんでいた。

 蘭子先生にやれと命令されたので、こうして奴隷のように働かされている。

 命は助かったものの、家に帰ることは許されなかった。

 この学園の生徒として在籍し、生徒以上の奉仕活動を条件に、命の保証が約束されたのだ。


「坊主、命拾いしたみたいだな」


 そこへ幽霊の軽トラが低空飛行で近づいてきた。


「なんだよ、おっさん。俺をからかいにきたのかよ」


 口振りにトゲも出る。

 この幽霊に拉致されたようなものだし、腹立たしさは拭えない。


「そう怒るな。男同士、仲良くやろうじゃないか」

「ふざけんな。誰のせいでこうなったと思ってる」

「たしかに坊主を連れてきたのはこのオレだ。しかしな、オレにも事情ってもんがあるんだ」


 すると幽霊はその事情とやらを語りはじめた。

 彼の名前はボブ。

 享年三十五でこの世を去り、幽霊になってからの歳を合わせると五十を超える。

 そんなボブは生前、この学園に用務員として雇われた。

 しかし、住み込みで働いたはいいものの、あら仰天。

 教師から生徒、その誰もがデュラハンということは、彼も知らされていなかった。

 もちろん、雇用の破棄を訴えたのだが、それも叶わず。

 当時の学園長に殺すと脅され、不本意ながらも用務員生活を送るはめとなる。


 しかし、働いてまもなく、人生最大の悲劇が訪れた。

 交通事故である。

 庭仕事で軽トラを運転していたところ、アクセルとブレーキを踏み間違えて壁に激突。

 あっけなくこの世を去った。

 そして彼は幽霊となり、成仏もできぬまま、DH女学園の呪縛に囚われ続けている。

 以上がボブの語った、笑っちゃうような身の上話だ。


「なるほどな。おっさんにもそんな事情があったわけか」

「もう二十年近く前の話だ。それなのに天国からのお迎えは一向にやってこない。オレにまだ無念があるからかもしれんな」

「だからって、なんで蘭子先生の言いなりになるんだよ。おっさんはもう死んでるんだし、殺される心配なんてねーんだぞ」

「それはそうなんだが、こんな軽トラとワンセットの幽霊に行く場所なんてないしな。それに今じゃ、この学園がオレの家みたいなもんなんだ。さて、無駄話はこれぐらいにして、オレは庭仕事でもしてくるか」


 一服は終わりとばかりに、軽トラはフラフラと飛び去っていった。

 なんやかんや理由をつけているが、どうせエロ目的でここにいるのだ。

 ボブは幽霊という特質上、透明人間のスキルを有している。

 エロアニメにおけるゴールデンパターンといっても過言ではない。

 軽トラはあくまでもキャラ付けであり、それがなくても移動はできるはず。

 すなわち、女風呂にも入りたい放題、おっぱいツンツンなどお手のもの。

 もちろん、子どものお遊びじゃないので、不可視の魔の手はそれだけにはとどまらない。

 そそり起つ暴君――つまり、ボブの黒光りしたエクスカリバーが、欲望の赴くままに、うら若きデュラハンを次々と蹂躙していくのだ。


 それだけの悪行を繰り返しておきながら、姿が見えないので証拠は残らない。

 仮に犯行が露見したとしても、幽霊だし逮捕されることもない。

 まさに最強のエロ用務員である。

 ボブがこの学園に固執する理由もうなずけるところだ。

 デュラハンを性の対象としない太一でも、なんだか股間が熱くなってきた。


「くっそ、エロ本でも持ってくればよかったぜ」


 ネットもできないのでオカズは皆無。

 かといってデュラハンのおしっこ動画で抜けるわけがない。

 それ以外、スマホに保存した動画といえば、嫉妬心から集めたカブトムシの交尾ものばかりだ。

 青島太一、十と五歳。

 性に多感な少年の苦難は、山よりも高く海よりも深かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る