第5話 請け負い

 「ヴォルフガンを商会の会合だと言って呼び出す」

 「でぇ、俺達ゃどうすりゃいいんだい、旦那ぁー」


 「夜遅くになる様に、会合を出来るだけ引き延ばす、その間に人を集めるんだ。俺等の商会の前を張ってくれ、ヴォルフガンが帰る時に合図をする」


 「それは良いが、相手は爵位しゃくいが無いとは言え、貴族様だ。捕まったら俺達は、たぁ~だじゃすまねぇ~、幾ら出すんだ」


 「金貨で100だ」「足りねーなぁ200だ」

 「そんなにはだせねぇ~よ」「なら他の奴を探すこった。まっ、いればだがぁ」


 「・・・わかった。金貨で200だ」

 「交渉成立だ。わかってると思うが、俺たちゃ商売人じゃねぇ~、契約書は書かないぜ、…あぁ~それと半金は今もらうぜ」


 「まっ、待ってくれ、今は手持ちがない」

 「そうか、じゃ、又な」「解ったっ、払うっ」どっさっ。


 「おい、噛んでみろ」「へい、…間違いありやせん、れっきとした金貨でさぁ」

 「それで、その会合ってのは何時」「明日だ」

 「お前、ここに残って繋ぎをしろ」「分かりやした」



 俺達は、いつの間にかランプの灯かりだけが頼りの、薄暗い部屋で変な話をする男達を見ていた。

 隙間すきまだらけで、木の板をだた並べて打ち付けた様な壁。

 男二人が、小さなボロボロの机を挟み話しをしている。


 その周りを薄汚うすよごれた衣服の男達が取り囲んでいる。

 机には映画でしか見た事の無い様な古びたランプと革袋が二つ置かれていた。


 「マールっ、ここっ」

 ぴょこん!「クララっ、落ち着くっす。これは過ぎ去った出来事っす」

 「俺達何でこんな所にいるんだよっ」


 ぴょこん!「あきっ、動かない方が良いっすっ」

 「そんな事言ったって」がしゃん。「痛っ、足の小指ぶつけた」


 ぴょこん!「もうぅ、だから言ったっす。私の横に来るっす」

 「ふぅーーーーーー、どうしてマールの横じゃないといけっとっ」


 ぴょこ。「べ、別にいいっすけど、じゃぁ、私の横、クララの横にも来るっす」

 あぁ~要するに間に入れと。「どうしてだよ」


 ぴょこ。「動き回るのは危ないっす」

 「わかった」マールがクララと離れて隙間すきまをつくる。

 俺は手を前に出して、障害物を探る様に移動し、間に収まった。


 「マール、どうしてこうなると」

 ぴょこん!「い、今見ているのはクララが吸血鬼になるちょっと前っす」


 「ねぇ~、マール、後でよかけん、恋バナ教えんね、そうしたら許すけん」

 「じゃ~これは過去のなのか」

 ぴょこん!「そうっす、私のルミナスを少し解放して、時間をさかのぼっているっす」


 「マール~、あきを貸してあげるけん、無視せんで」

 ぴょこ。「ん~~~、少しだけっす」「どげん人」

 ぴょこ。「…人ではないっす」「あぁ~、どげん天使の人」


 ぴょこ。「…あく、あとにするっす、これから起こる事は変えられないっす。クララ、わかるっすね」

 「わかっちょる。わかっとると」


 ぴょこ。「あきが聞いたっすよ。ここに見えているのは過去の幻影、絶対にれる事は出来ないっす。だから変える事も出来ないっす。何時いつかは知ってもらわないといけない事っす。クララが好きなら」


 クララは目をうるませ、マールは俺の目を見据みすえる。

 「…好きだから、教えてくれ」クララが右腕をつかむ。

 ぴょこん!「私も好きっすか」

 「うん、好きだっ。だから知りたい、いたたたたたっ」右腕をつねられた。

 「うぅんもう、知らんっ」ぴょこん!「ほっ、そっ、そうっすか」

 「そうすると、これは過去に起こった事なんだな」

 ぴょこんぴょこん!「そそそそそそ」

 「どうしたマール、おしっこか」

 ぴょこん!「違うっすっ、もうぅ、とにかく現実の物体はそのままなので、動きま回ると危ないっす」


 ぴょこ。「パパさんはこの男達のくわだてを知る事無く会合に向かったっす」



 「ヴォルフガン、今後ともうまくやろう」

 「ヴォルフで良いですよ。今後ともおろししくお願いします」

 「是非ぜひ」「ではこれで」すたすた。かちゃ、きぃー、どたん。

 「行ったか」「…ええ、行ったようです」

 「よし、窓から合図を送れ」「はい」



 電気のあかかりはもちろんなく、たよりの月明かりさえ、今はない。

 寝静ねしずまったヨーロッパ風の田舎町、とある大きめの家の二階の木窓きまどから、ランプの灯りが、一回、二回と回された。

 そのすぐ下に、ランプをともした二頭立ての馬車が来た。

 ごろごろごろ。ぱこぱこ。「どうどう」

 「旦那様、馬車へ」「うん、帰ろうか、我が家へ」

 「はい」かしゃ。とんとん。とんとん。かしゃ。

 「出してくれ」ぴっし。「はぃ~」ぱこぱこ。ごろごろごろ。

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