レッド・カメレオン

リョウ

レッド・カメレオン

 僕の体は赤い。僕は赤いカメレオンだ。しかし僕は体を変色させることができない。仲間のカメレオンは皆体を変色させられるのに、僕だけは赤いまんまだ。これは生まれつきだった。

「どうして僕だけ赤いまんまなんだろう」と僕は、緑、青、黄色に変色させている仲間のカメレオンを眺め、羨んだ。「僕は目だつばかりだ。どこで紛れればいいんだ。赤い枝なんてそうそうないぞ」

 ケースがガタガタと揺れる。僕ら数十匹のカメレオンは、バンでペットショップに輸送されている最中だった。

 憂鬱だった。僕は酷く目立つだろう。しかも悪目立ちだ。赤いばかりで、面白味がない。受けない。つまらないカメレオンだ。それに比べてどうだ、他のカメレオンたちは。変色は自在。まさにカメレオンの理想だ。

 ケースはガタガタと揺れた。あまりにも大きく揺れた。ケースは車の中で飛び上がった。ケースの中でカメレオンたちがこれまた宙を舞った。

 そして驚くことに、バンのバックドアが開いた。カメレオンたちの入ったケースは――例外なく僕も、外に放りだされた。道路のど真ん中だった。

 僕は慌てて辺りを見回した。仲間の姿が視えない。しかしよく目を凝らして見ると、なんと仲間たちは、コンクリートが隆起したのかと見間違う程、それに変色していた。なんと見事な芸だろう。僕はこの危機的状況の一瞬で、さらに仲間を羨望した。

 それから仲間たちは一瞬のうちに車に轢かれた。轢かれた仲間たちは、見事にコンクリートの一部になった。

 僕の眼前で、車が一台停車した。そして運転席から人間が降りてきた。

「こんなところにカメレオンが? いったいどうして?」人間は僕を拾い上げた。「にしても危ないところだったな。こいつは変色しないのかな? いや利口だ。もし変色してたら轢いてたところだ」

 僕は運転手に抱かれたまま、そしてそのまま飼われた。

 数年が経った今でも思いだす。僕は交通の上で悪目立ちしたが、しかしそれは忌まわしき記憶ではなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レッド・カメレオン リョウ @koyo-te

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ