第3話 穏やかな日常~『竹馬ナイン』の集合~

 玲士朗達はカウンター席に座ったり、立食テーブルを囲んだりして、めいめい異世界カフェを話題に談笑を始めていた。


「あ、そういえば、こずえと連絡取れた人っている?」


 まだ見ぬ幼馴染の消息について、柚希は誰とはなしに問いかけるも、一同は互いに顔を見合わせて言葉を失ってしまう。


 水を打ったように静まり返る場に、大蛇がユグドラシルを齧るという設定の低く不気味な効果音が、スピーカーを通して間の抜けたように響いていた。


 涼風がポツリと懸念を口にする。


「もしかして、また迷子になってるんじゃ……」


「コズって意外におっちょこちょいだし、方向音痴だもんね。意固地になって一人で頑張ろうとして余計に深みにはまっちゃうし」


 あどけない見た目とは裏腹に、なかなか辛辣な人物評を口にする美兎に若干怯みながら悟志は席を立つ。


「連絡がつかないなら、僕、ちょっと見てくるよ」


 柚希がこれに続いた。


「じゃあ、私も一緒に行くよ。玲士朗、ついて来てくれる?」


「……ったく、しょうがない奴だ」


「三人ともよろしくー。梢って強情な癖に泣き虫だから、ちゃんと保護してあげて」


 詩音の軽口を背に受けながら、玲士朗達が店内を移動しようとした矢先、体格の良い大柄な男子生徒が行く手を阻む。全身漆黒のローブを身に纏う姿は面妖ではあるが、無造作な短髪と眠たそうな眼が、何故だか親しみやすさを感じさせる。玲士朗は男子生徒を睨みつけて殊更に不満を表した。


「とうとうお出ましか。大分遅かったな鷹介」


 職場放棄していた皆戸鷹介みなとようすけは、悪びれる素振りすら見せず、むしろ意気揚々としていた。


「真打は遅れて登場するものだからな。そして安心しろ、梢ならちゃんと保護してきたぞ」


 鷹介に首根っこを掴まれ、幼馴染の美南海梢みなみこずえは不貞腐れながら恨めしそうな声で呟く。


「おっちょこちょいで方向音痴で意固地で泣き虫で悪かったわね」


 詩音と美兎はバツが悪そうに視線を逸らした。


「やべ、聞こえてた……」


「ご、ごめんねコズ」


 ふん、と梢は顔を背けた。清楚な私服にハーフアップした髪と大きめのリボンが可愛らしさを印象付けながらも、意志の強そうな目元と固く引き結んだ口元が、つんと澄ました生真面目さを思わせる少女だった。


 詩音は咳払いを一つしてから、まるで警察官が立てこもり犯に告げるような口調で鷹介に通告する。


「鷹介、アンタの罪状は明らかだからペナルティは覚悟しなさい。人質取っても罪が重くなるだけよ」


「人聞きの悪いことを言うな。むしろ途方に暮れる幼馴染を助けた功績で褒められるべきところだぞ」


「とりあえず経緯だけは聞いてあげるわ」


 梢を解放しながら、鷹介は滔々とうとうと語り出した。


「知ってのとおり、俺の役割はこの異世界カフェ宣伝のためのビラ配りだった。当初こそ、こうして妖しげな魔術師になりきって真面目に勤しんでいたわけだが、生徒会から秘密裏に任じられた特殊任務があってな。俺は玲士朗に後を任せ、焼きそばの麺がちゃんと中華麺を使っているかどうか、屋外の模擬店ブースを回って実食検査をしていた……」


「ごめん、途中から何してたのか全然分からない」


 頭を抱える涼風に、玲士朗がそっと声を掛ける。


「そこはもう流してやってくれ」


 涼風と玲士朗のやり取りを意に介することなく、鷹介は続ける。


「で、口直しでたまたまカキ氷屋に立ち寄っていたところ、偶然、梢に見つかってな。案内がてら帰還したという次第だ」


 颯磨と玲士朗がすかさずまぜ返した。


「意外な展開。むしろ鷹介が捕まってるんだね」


「それなのに、さも自分が捕まえたかのように登場したのか。厚顔無恥な奴だな」


「外野はうるせぇなぁ。とにかく、迷子の梢を保護してやった事実に変わりはない」


 鷹介のとくとくとした物言いに、梢が慌てて反論した。


「べ、別に迷ってないから。ここに来る前にちょっと見物してたら、思いの外、時間が経っちゃっただけで……」


「でもお前、模擬店ブースで買うでもなく見るでもなく、ぐるぐる行ったり来たりしてたじゃないか。あれ、絶対迷ってたよな」


 図星を突かれた梢は、興奮して捲し立てた。


「適当なこと言わないでよ! っていうか、何でそんなこと知ってるのよ。見てたなら声掛ければいいじゃない」


「すまんな、お前より焼きそばとカキ氷の方が重要だったってことだ」


 怒りの炎が梢の虹彩にぱっと燃え上がったが、人目を憚る冷静さが、かろうじて憤懣を抑え込む。わなわなと身体を震わせる梢の様子を見て、悟志は狼狽えながらもその場を取り繕おうとする。


「まぁまぁ……何はともあれ、全員無事に集まれてよかった」


「そ、そうだよ。ほら梢、とりあえずここに座って」


 柚希に促されて、梢はしぶしぶとカウンター席に納まった。犬猿の仲である鷹介と梢の小さないざこざは日常茶飯事であり、幼馴染達は苦笑いでお茶を濁すことが慣例だった。


「飲み物用意してくるね。みんなちょっと待ってて」


 カウンターへ走り出そうとする美兎を、詩音が制止する。


「ちょっと待った美兎! くつろぐ前に、晴れて全員集合した『竹馬たけうまナイン』に提案です」


 詩音が発した“竹馬ナイン”なる名称に、柚希が反応して歓声を上げる。


「わー懐かしい! 小学生の時につけたチーム名だね」


「そういえば……最初は草野球チームの名称だったのに、結局、一度も他のチームと対戦しなかったのよね」


 涼風が記憶を辿りながら述懐すると、梢が後を引き取る。


「あれは、鷹介と颯磨と詩音が勝手にやりたがってただけだったから」


 颯磨も当時に思いを馳せて苦笑した。


「そうだったね、練習だけは熱が入ってたんだけど、途中から目的が変わってたんだっけ。というか、『竹馬ちくばの友』を『竹馬たけうまの友』って詩音が読み間違えた名前なのに、未だに恥ずかしい過去を引きずっていてウケる」


「うっさいわね。もうこの名前で定着してるんだからいいでしょーが」


「で、提案って?」


 玲士朗が先を促すと、詩音はにんまりと表情を弛緩させる。


「せっかく本格的なコスプレができるんだから、みんなにもやらせたい」


 もはや詩音の個人的な欲望でしかない提案に、客側の幼馴染達はめいめい戸惑いの声とブーイングを上げるが、詩音はまったくめげなかった。


「私ね、最近ずっと考えてたんだけど、涼風はジャンヌ・ダルク風の女騎士姿とか絶対似合うと思うの! ほら、アンタって生きているだけで集団のイニシアチブ握っちゃうタイプだし」


「推薦理由が意味不明なんだけど。私は遠慮するから、柚希、代わりにやってあげてくれない?」


「え! ど、どうしようかな……」


「ゆーちゃんは特別肌が白いから、エルフとかどうかな?」


「グッジョブ美兎! よし、ゆずきちエルフに決定! 梢はアレかな、小生意気な王位継承権第八位くらいの王女」


「絶ッッ対、嫌! というか何でそんな中途半端な地位なのよ!」


 竹馬ナイン女子の部は喧々諤々、店内でも一際目立つ騒々しさに、鷹介は特に感慨もないような口調で呟く。


「女どもは盛り上がってるな」


「楽しそうで何よりだよ」


 悟志は自前の一眼レフカメラを構え、幼馴染達の和気藹々とした様子を捉えてシャッターを切っていた。


「郷に入っては郷に従え。颯磨と悟志も早速着替えるか。詐欺師と公務員なら用意があるんだ。お前達にはピッタリだろ?」


 颯磨が渋い顔つきを見せる。


「……それ、異世界関係ないけどね」

 



 明日までの日程で開催される学園祭。次の日の準備を終えた玲士朗達を待って、幼馴染九人は帰路に就いていた。既に日は沈み、街は穏やかながらどこか物寂しい夜気に包まれていた。


「いやぁ、今日は働いたなぁ」


 鷹介の声高らかな独白に、玲士朗は呆れた。


「ツッコミ待ちか?」


「いや、別にボケてないぞ」


「それはそれで正気かお前」


「まぁまぁ玲君。鷹介君も午後はしっかり働いてくれたし、許してあげよう?」


「ちっ……聖女美兎の慈悲に感謝するんだな」


「うーん……変な二つ名付けるのやめてね?」


 表情こそ笑顔だが、眼は笑っていない美兎の静かな苛立ちを、玲士朗は努めて気付かない振りをした。


「でも、いろんなキャラクターがいて面白かったね」


 華やかで賑やかな異世界カフェの余韻に浸る柚希の発言に、梢も真顔で同意する。


「扮装してた人達も真剣に演技してたから、すごく完成度が高かったと思う」


 涼風は梢の生真面目さに思わず小さな笑みを零す。


「そうね、それに食事も見た目の割に美味しかったかな」


 幼馴染達からの絶賛に気を良くして、詩音は意気揚々と胸を張った。


「でしょでしょ。こんなに好評だとプロデューサーとして鼻が高いわ」


「詩音の個人的な欲望の産物かとも思ってたけど……意外にクラスの結束を固めてたなんて。なんとなくそれっぽいことを言って周囲を納得させちゃう詩音だからこそ出来たことなんだろうね」


「颯磨、アンタってホント素直に褒められない奴ね……」


 九人は人通りの少ない緩やかな坂道を登っていた。両脇には黒い樹肌の桜並木が等間隔に植えられている。アーチ状に迫り出す枝は、今でこそ頭上を覆う緑のカーテンだが、春になれば幻想的な桃色の霞を作る、市内ではちょっとした花見の名所である。


 坂の先に見える遠景では、この街のシンボルともいえる霊峰が群青色の空に雄々しく突き出している。白銀に輝く月華が稜線に優しく降り注ぎ、玄妙な雰囲気を持った一枚絵のようだった。


 柚希は正円を描く月を見上げて、感慨深そうに眼をすがめた。


「今日って満月だったんだね。すごく綺麗」


 詩音も柚希にならい、感嘆の声を漏らす。


「今日は中秋の名月、いわゆる十五夜なのよね。かぐや姫がお月様に帰った日」


 十五夜か、と涼風が意味深に呟く。耳聡く聞きつけた颯磨が尋ねた。


「十五夜がどうかした?」


「その……ちょっと思い出しちゃって。この道って怪談話があるんだけど、みんな知ってる?」


 誰もが小首を傾げる中、悟志が声を上げた。


「聞いたことあるよ。確か、十五夜にこの道を歩くと神隠しに遭うっていう」


 覚えのある逸話に、詩音も得心した。


「それなら私も知ってる。この道のことだったんだ」


「馬鹿馬鹿しい。作り話でしょ」


 梢は興味なさげに言い捨てたが、涼風は珍しく歯切れが悪かった。


「まぁそうだとは思うんだけど、何だか不気味なくらい綺麗な夜だから、その……ね」


 漠然とした不安を吐露する涼風に一同は沈黙した。


 ほとんど人家のない通りだけに、一帯はひぐらしの物悲しい鳴き声と九人の靴音しか響いていなかった。慣れ親しんだ日常が、いつの間にか別のものにすり替えられてしまったかのような居心地の悪さ。ねっとりと頬に纏わりつく生温い風も、不気味な怪物の吐息めいていて少し不快でもある。足元も心なしか頼りな気で、踏めばアスファルトは脆くも崩れ去り、暗い地の底に堕ちて行ってしまうかのような空恐ろしささえも感じる。


 しかし、それは杞憂である。変わり映えのしない日常は、こうしてどかりと腰を据えて地歩を固めている。グレーゴル・ザムザの受難と違って、平穏な日々が唐突に一変してしまうことはないのだ。


 それでも何となくきまり悪くなって静まり返る雰囲気に、玲士朗は努めて軽快な口調でいった。


「ちなみに、怪談ってのは話題にすると本当に起きちゃうらしいぞ」


 意表を突いた話し出しに、悟志は困惑気味に尋ねた。


「いきなりどうしたの?」


「いやだから、怪談とか迷信とかって言葉にすると現実になる傾向があるってこと。ほら、歴史の授業で習った昭和の取り付け騒ぎは、実際には破綻しない銀行が、噂やデマを信じた人々によって実際に破綻に追い込まれただろ? アレと同じ原理で、不安からくる俺達の意図しない行動が超常現象を引き寄せるかもしれないから、この話題はこれまでということで……」


 それまで重苦しい沈黙に苛まれていた一同は、しかつめらしい顔で突拍子もない講釈を垂れる玲士朗に毒気を抜かれていた。


 美兎は言いにくそうに、言葉を選びながら呟く。


「なんか、それはちょっと違う気もするけど……」


「ていうか、全然意味が分からない」


 梢の容赦ない全否定に、玲士朗も流石に落ち込んだ。鷹介が穏やかな口調で全員を諭す。


「あのなぁお前ら、玲士朗をもう少し労わってやれ。きっと疲労がピークに達して、徹夜明けみたいな変なテンションになってるんだから」


「いらねぇよそのフォロー。というか、俺の疲労の半分はお前の所為せいだろうが」


 まぁまぁ、と颯磨が仲裁に入る。


「まだ明日もあるんだし、早く帰ろうよ。玲ちゃんと鷹介はまた宣伝とビラ配りでしょ。明日も暑いんだってね」


「明日を迎える前に気分が滅入ること言うなよ……」


 一同は歩みを再開した。形状し難い胸騒ぎを紛らわせるように、殊更大袈裟な賑々しさで。


 最後列を歩いていた玲士朗に、柚希が歩を緩めて近づいてくる。穏やかな笑顔は、天真爛漫な柚希には珍しい神妙さを感じさせた。


「玲士朗、ありがとうね」


「悪いが感謝される覚えがありすぎて、いつ、どこの、何に対する礼か見当がつかないぞ」


「はいはい。趣味は善行、特技は人助け、座右の銘は“陰徳あれば陽報あり”だっけ?」


「その通りだ。呼吸するように善を為すため、一体どれだけの功績を人類史に刻んだか数え切れないくらいだ」


「口から出まかせの癖によく言うなぁ」


 柚希はケラケラと笑っていたが、やおら黙り込んで視線を落とす。玲士朗は声を掛けずにはいられなかった。


「どうした?」


「……実を言うとね、私もちょっと不安になっちゃってさ」


「神隠しのことか?」


「似たようなものかな。いつかみんなと離れ離れになる日が来て、今日みたいな楽しい一日も来なくなっちゃうのかなぁって」


 口調こそ明るかったが、目を伏せるその儚げな横顔は、柚希らしからぬ哀愁を強く感じさせた。いつかやってくる別離。その漠然とした予感は、別れそのものよりも長く、しぶとく寂寞せきばくの情を背負わせ続けるものだ。


 高校入学まで、彼ら竹馬ナインは顔を合わせない日はなかった。平日は学校で、週末は街のどこかで日常を共有し合っていた。何をするのも、どこに行くのも、ずっと一緒だった。


 それが、去年の春から少し変わった。幼馴染達は、それぞれの置かれた境遇や希望する進路に応じて、別々の高校に進学することになった。全員で集まれる機会は少なくなったものの、それでもこうして昔のように戻れる時間があるのは、きっと誰もが柚希と同じく、緩やかなすれ違いに不安と寂しさを抱いているからこそなのだろう。


 人生は、手を取り合って横並びに歩いて行くには狭すぎる道だ。大人になるにつれて、いつの間にか大きくなっていく自尊心プライドや願望が幅を利かせて、人を孤独にさせる。嬉しくも哀しい、一人ひとりの物語が佳境に入っていくのだ。


「みんなと離れ離れになるくらいなら、大人になりたくないなぁ」


 歳を取らない永遠の少年じみた台詞だった。ひょうげた口振りではあったものの、その言葉は柚希の心の底からの願いに聞こえたし、その気持ちが分からないでもないから、玲士朗は柚希を励ますようにいった。


「せっかちだな柚希は。まだ遠い先の話だし、未来なんてどうなるか分かったもんじゃない。今からそんなんじゃ無駄に気疲れするだけだぞ」


「えへへ、そうだよね。まだまだみんなでいっぱい楽しいこと、出来るよね」


「ああ。差し当って毎年恒例の紅葉狩りが控えているし、クリスマスだってある。お前が行きたがってたランドもシーも詩音達と計画中だ。受験勉強で忙しくなる前に、とことん遊び倒そうぜ」


 楽観的な、それでいて気休めではない、心躍る未来のスケジュール。これまで数え切れないほどの旅行やレジャーの企画に携わり、人一倍、仲間との時間を大切に考えている玲士朗の言葉だからこそ、柚希は心の底から信頼し、安堵出来るのだった。


「ありがとう。玲士朗がいてくれて、本当に良かった」


 朗らかな喜びと、清々しい希望に満ちた柚希の笑顔に、玲士朗は鼓動が高鳴るのを感じた。そしててらいのない真摯な言葉に気恥ずかしさを感じ、柚希から視線を逸らそうとすると、目の端に一頭の蝶を捉える。その蝶は、月光を浴びて淡い幽光を放ちながら優雅に羽ばたき、玲士朗の眼前を横切っていった。


 これまで目にしたことのない幻想的な美しさに、玲士朗は一瞬にして目を奪われた。蝶の羽ばたきの軌跡までも仄かに輝き、夢のように儚く消えていく。


 唐突に、玲士朗の瞳は見ず知らずの世界を映し出す。鬱蒼とした木々に囲まれた坂道を抜けた先、小高い開けた丘に、一人の少女が佇んでいる。月を見上げるその華奢な背中は、まるで世界に彼女一人しか生き残っていないかのような寂寥せきりょう感と、静かな絶望を背負っている重々しさがあった。


 戸惑いや不安を感じる間もなく、一瞬にして少女の姿は消えて、視界には見慣れた光景と幼馴染達の背中が再び納まっていた。


 呆然とする玲士朗の様子に違和感を覚え、柚希が声を掛けようとした途端、周囲が淡い光に溢れ始める。その場にいる全員が不可思議な現象に足を止めた。


 彼らの周囲から夥しい数の蝶がゆっくりと飛び立っていく。見る者を魅了し、戸惑いすら感じる暇を与えない、神秘の奔流。誰もが押し寄せる眩曜の波に為す術なく呑まれていく。


 意識は溺れ、混濁し、もはや何もかもが不確かだった。外界の移ろいまでもがスロウになっていく。ときすらも、この幻惑的な美しさに心奪われ、歩みを忘れてしまったかのように。


 やがてあらゆる存在が静止し、暗転した。流れ続けるが故に安定を保っていた世界は機能不全に陥る。再び定常状態を取り戻さんと無理やり刻が動き出したことで並行世界との世界線が混線し、特異点の中心にいた少年少女達は時空の狭間に取り込まれてしまう。


 の悲劇の王子が嘆いたように、世界の関節が外れてしまった瞬間だった。そして、存在の可能性でしかなかった物語が、ここではないどこかで現実として存在してしまう発端でもあった

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