第42話 美味しいハンバーグとシノの幼稚さ

 美味しいハンバーグを堪能しているとシノが話しかけてくる。


 「大輔は本当に何者なんだ? 何度も聞くようだが本当にただの人間なのか?」


 「正真正銘ただの人間だよ」


 口の中にハンバーグがあるのでもごもごしてしまう。


 「本当に? 光魔法使えるし、体は頑丈だし、いつのまにかお姉さまと仲良くなっているし、あのレイスが大輔に興味を持つなんておりえない。ただの人間とは思えないよ」


 首を傾げ、好奇の目で見てくる。


 「何故だろうね。異世界に迷いこんだただの人間なのにな」


 そう答えるしかない。だってそうなのだから。


 「そっか...ただの人間がまさか私のヒーローになるとわなっ......!?」


 シノは自身の言葉に恥ずかしさを覚えたのか頬を染めていく。

 可愛い。やはり、好きな人に似ているだけはある。可愛すぎる。

 シノをマジマジと見ていたら、「私を見過ぎだ!」と怒られる。


 頬を膨らませ怒っている姿も可愛い。


 「めちゃ可愛いな...」


 お互い暫し見つめ合うも口走ってしまった言葉に恥ずかしさを覚え僕はシノと目線を合わせる事に抵抗を感じ右に向ける。

 シノも僕の反対方向へ顔を向ける。

 お互い無言となる。緊張のあまり、言葉が見つからない。でも、何か話さなくては...。

 顔がやけに熱い。それにシノを真っ直ぐ見れやしない。


 「シ、シノ...」


 「だ、だ、大輔いきなりなんだ。心臓に悪いぞ! 嬉し...可愛いの当たり前だ!私をなんだと思っている。気高く優美で気品溢れる吸血鬼の王だぞ。当たり前だ! 馬鹿たれ!」


 ゆっくりと顔をシノに向けると目線が交わる。

 ほんのりとだが、頬を赤くしているシノは前髪を人差し指でくるくると弄りだす。

 その仕草が子供っぽくてほっこりする。


 「確かにシノ気高く優美で気品があるだけではなくお茶目で子供ぽい一面があるよね」


 僕は言葉に笑いを含みながら言う。


 「うっうるさいな! 子供っぽいって何よ! 気高く優美で大人っぽさしか無いわ!」


 シノは唇を尖らせて怒ってしまう。


 「大人ぽく見えて中身は子供で、笑っている姿が可愛い、女性だよ」


 先程と違いわざと弄るために可愛いと伝えたので恥ずかしさは無い。

 この時間が楽しく、笑みが溢れる。


 「子供ぽいとはなんだ。馬鹿大輔! アホ!」


 顎を上げ睨みつけてくる。その目線からは嫌な気や威圧さが全くしない。


 「そこが子供ぽいと言うんだ」


 悪感情などなくただ睨み返す。お互い数秒睨み合い。吹き出す。


 「はははあ!」と口を大きく開けお互い笑う。


 「大輔は面白い奴だ。この私にここまで言う者はいないぞ。一緒に居て楽しいわ」


 「僕もシノと話してるのが楽しいよ」


 またお互い笑いあう。

 シノは笑い涙を目頭に浮かべており、両目を左袖で涙を払いながら席を立つ。


 「じゃあまた明日ね大輔」


 僕にはシノに言わなければならない事がある。

 とっさに僕も椅子から立ち上がり部屋を出ようするシノの左手を掴む。

 シノは肩をビクッと振るわせる。


 「へえ!」


 勢いで手を掴んでしまった。暖かいな...。いやそうじゃない。邪な気持ちを払う。


 「お、お礼がまだだった、ハンバーグありがとう。これはシノが作ってくれたんでしょ?」


 「な、何故わかった?」


 「ライラが作る料理はきっちりしていて、お店にでるような感じだけど、このハンバーグには温かみのある家庭的な感じがしたからシノが作ったと思ったんだ」


 「そうかお店のような味でなくて家庭の味で済まなかったな」


 後ろ姿で表情を確認出来ないがシノの声のトーンが低く、声が小さいことから気分を悪くしたと分かる。

 

 「えっえ、そんなつもりで言ったわけでは無いよ。僕は家庭の味の方が好きだよ」


 僕の何気ない一言で気分を害してしまったのか。僕はただ感謝を伝えたいだけなのに。

 この状況に困惑してしまいどうしたらいいかと悩んでいあるとシノは半身になって、肩越しに僕を見てきた。

 眉間に皺を寄せた表情をしていると僕は思っていたが、予想と反しシノは頬に笑窪を作り笑っていた。


 「全然怒って無いよ、ビビった?」


 まさかの演技であった。演技で本当によかった。けれども僕は心にダメージを負った。


 「そりゃ、まあね。僕の何気ない一言で傷つけたと心配したよ!」

 

 次に僕が口を尖らせそっぽ向く。


 「ごめん、ごめん。まさか私が作ったとバレるとは思わなかったよ」


 「許すよ。シノの手料理美味しかったよ」


 ゆっくりとシノに顔をやり、口元を緩めて言う。

 部屋にあるアンティークの古時計が暖かな音色で20時の時を知らせる。


 「美味しか。ふふふ、嬉しい。口に合って良かったよ。......——じゃあ、おやすみ」

 

 シノは何故だか焦っている様で早口で言い尽くし颯爽と部屋から出ては後ろ手で扉を閉めていく。


 「お、おやすみ...」


 僕の挨拶はシノには届かず、虚しく扉に伝わるだけであった。

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