第41話 仕返しのために光魔法を使う

 「お嬢様! 肌の張りがいい気がするのですが、どうですか? 綺麗ですか?」


 顔を両手で触りながら、シノに自慢するかの様に言う。

 シノは適当に返事しているのが分かるぐらい軽くあしらっている。


 「綺麗綺麗、よかったな。ライラ」


 軽くあしらわれているのに気づかないライラは自慢げな表情を浮かべる。

 この表情がムカつくので僕の回復魔法でライラに仕返しできないものかと考える。

 回復魔法で物質が壊れる前に再生させ続ければ、その効力を維持できるのではないか...。

 その瞬間頭の中で閃く。だが、自然治癒能力を上げる魔法も使えないとこの仕返しはできない。だが、今の僕ならできる。いや、仕返しの為ならやれる。

 僕は広角を上げて笑う。


 「ライラ、よく見るとまだ、顔の傷跡が完全に癒せてないぽいから完全に直してあげるね」


 「そうか、大輔のわりには良い心がけだな」


 ライラは疑いの素振りも見せず、僕の邪な行動を受けいれる。

 横目でシノを見ると僕の行動に訝しるような顔で見てくる。

 右掌をライラの顔に向け、覚えたての回復魔法と見様見真似でシノが使っていた治癒魔法を使う。

 

 恨みだああああ! と心の中で叫ぶ。


 「うわあああおいいいい! 何だこれわ! やめろ大輔! 止めろ馬鹿!!」


 「ふっははは! 僕の心が傷ついた仕返しだあああ!」


 ライラの顔からみるみると毛が生えてくる。

 本来なら毛はある程度生えてきたら、抜け落ちる。だが、その抜け落ちる前に毛根を回復魔法で復活させる。そして、自然治癒魔法を使い毛の成長速度上げる。

 それにより、無限に毛を生やす事ができる。この作戦が功を成しライラの顔から毛が伸び続け、足元まで毛先が届く。

 それをみたシノが後ろに後退り、一言言う。


 「キモ!」


 この言葉がライラの心に相当なダメージを与えたのか力無く床に倒れこみ、小刻みに震えだす。


 「うおおお! 大輔貴様あああ! 許さん! 今日の晩御飯は抜きだあああ!!」


 「だから、子供か!」


 シノはクスクスと笑いだす。

 ライラはシノの笑みをみて落ち着きを取り戻し、ゆっくりと立ち上がるその姿はまさに貞子だった。

 雷魔法を繊細にコントロールを行い、顔から生えている毛を燃やし、綺麗に脱毛する。


 「大輔、覚えておけ。この借りはいつか返すからな。とりあえず、晩御飯は抜きだ」


 ということで晩御飯は本当に出なかった。



 *



 あまりの空腹に腹の虫を煩く鳴り響かせながら現在部屋にいる。

 その空腹を少しでも紛らわそうとマグカップに水を汲み飲んでいるのだ。やはり水では空腹を誤魔化す事は出来ない様だ。


 「腹減った。今日は動いたからとても腹減ったよ」


 誰もいない部屋で独り言を言った瞬間、扉がノックされる。


 「大輔、入っていいか?」


 ライラかと思ったがシノだった。

 突然の訪問に戸惑い、一気に緊張する。


 「えっ! うっうん」


 シノ部屋に入ってきた瞬間、涎が口の中で溢れでる程甘いソースの匂いが部屋中に広がる。

 匂いの在り処はシノがもっているトレーからだった。

 その匂いにお腹の虫が反応し、部屋中に大きな音を響かせる。

 僅少の間はお互い目を合わせ、無言になる。この静寂さはシノの大きな笑い声により破られる。


 「ふははは...! 見事な腹の虫だな! はははは!」


 恥ずかしい。顔が熱い。伏せながら言葉を発する。


 「そんなに笑わなくていいじゃん!」


 「いや...いや...ごめんッぷはあああ!」


 シノは笑わない様に我慢していたが、我慢出来ず語尾が吹き出してしまったようだ。

 その姿も愛おしいんだけどね。

 シノは数十秒後落ち着きを取り戻し、話し出す。


 「ここに来たのは、大輔にご飯を届けるためよ。今日は結構動いたと思うからお腹が空いていると思ってね。ライラに内緒で持って来ちゃった。持ってきて正解のようね」


 手にもっていたトレー差し出してくる。そのトレーにはハンバーグが乗っていた。

 美味そう。肉汁がじわじわと滲み出ている。


 「ありがとう。何て美味そうなんだ」


 トレーを受け取り、円卓の上に置く。

 椅子に座るとシノは対面にある椅子に座り、両肘を円卓に置き両手で顎を支えながら僕を見つめてくる。

 シノの目線が気になり、食べづらい。


 「...では、いただきます」


 「ええ、冷めないうちに食べてくれ」


 ナイフでハンバーグを食べ頃サイズに切り分けてから食べる。

 

 「美味しい!」


 噛むと噛むほど口の中で肉汁が溢れだす。何故だか懐かしい味がする、そうだな家庭的な味って奴だ。

 それにハンバーグの見た目もライラが作ったにしては整っていない気がする。でも美味しいからそんな些細な事は気にしないけどね。

 僕が美味しく食べながら顔を皿から上げるとシノはほっと息を吐き、口角が少し上げていた。 

 なるほどね、シノにお礼しなくてはいけない様だ。完食してからお礼をすると決める。 

 


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