第39話 レイスは大輔に話しかける

 城の門を開けるとシノが出迎えてくれた。

 ライラはって顔をするが直ぐに察しったのかため息し、左手で額を3回軽く叩く。


 「ライラはまったく、どうしようもない奴だ。それで大輔は魔法を使えるようになったか?」


 「使えたと言えば使えた。まだ、自分の意思でコントロールできないけどね」


 「もう使えるのか大輔は。自分の意思で使えるようになるまで修行あるのみだな」


 シノは微笑んでいる。

 その姿はなんて可愛いのだろうか。ローファーを脱ぎ室内に上がり、顔を上げるとシノの笑顔は崩れていて、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


 「大輔、大変言いにくいのだが...とても臭いぞ。なんだこの匂いは?」


 シノは鼻声で聞いてくる。

 すっかり忘れていた。ゾンビに襲われてその時に奴の体液が掛かっていたことを。


 「ゾンビが現れてその時に付いたものだよ」


 「こんなところにアンデットが居たのか今までここで見たことなどないぞ...。極まれに魔物がアンデットかする場合があるけれど、レイス討伐を決めた直後に出くわすとかレイスの関与を疑いたくなるな。——詳しいことは後で聞く取り敢えずお風呂入った方がいいな」


 確かに、体液が乾燥して更に臭いが増したような気がする。


 「うん、入ってくる」


 浴室へ向かおうとする僕をシノが呼び止める。


 「大輔、部屋着は浴衣があるが普段着る服は無いんじゃないのか?」


 「そうだった」


 昨日からこの制服を着ているんだった。

 手洗いして乾かして使用しているが、もう一着欲しい。

 今回のように服に付いたベタつきや臭いが一度の手洗いで取れるか分からないしね。


 「これを着るが良い」


 シノから今着ているのと同じ制服と下着を渡される。


 「えっまったく同じ服じゃん。どうしたのこれ?」


 「私に残された吸血鬼の力で具現化しただけさ」


 「そうなのか、ありがとう!」


 「どういたしまして。昨日助けてくれたお礼さ」


 シノは微笑み、頬を人差し指で掻きながら言う。

 僕はシノ助けることができて良かった。いつもシノには笑っていてほしい。

 心が満たされた状態でお風呂に向かうのであった。



 *



 「ふぅー今日も散々だったな...」


 木材の椅子に腰掛け、シャワーでゾンビの体液を洗い流す。

 本当に臭い。

 入念に体を洗うもまだ臭いが取れない。


 「そういえば、僕の魔法は何属性なのだろうか? 拳が白く光り輝いてたような気がするから光魔法が使えたりして」


 右腕を前に伸ばして上下に振ったりと忙しく動かす。だが何も起きない。


 「まさかね、僕が光魔法なんて使えるわけないよな」


 苦笑を浮かべていたらどこからともなく中性的な声がする。


 「それが使えているんだなこれが」


 「誰だ!」


 バッと上半身を捻り肩越しに後ろを振り向くが誰もいない。声だけがお風呂に響く。

 この感じは昨日と全く同じではないか。

 何故皆僕が風呂に入っている時に突然話しかけてくる。


 「誰かって、ぼくはアンデット王のレイスだよ」


 ん? 何処かで聞いたことがある名前だな。どこで聞いたような。腕を組み考える。思い出した、手記に書かれていた白夜高山に住んでいる王の1人。そして、戦う相手。


 「なんだって! レイスだと!!」


 タオルで大事な所を隠しながら立ち上がり、何度も見渡すが人らしき者は見当たらない。


 「探しても無駄、無駄。ここにはいないからね。遠くから魔法で君に話しかけているんだよ」

 

 魔王の威厳が感じられるような話し方ではなく、子供ぽいと僕は思った。


 「魔法って凄いな! ...って感心している場合ではない。何の用だよ?」

 

 何故僕に話しかけてくる。何かあるに違いない。用心しなければ...。

 小さな音でも察知し、体を向ける程今は敏感にならなければ。


 「んーそんなに警戒しなくてもいいよ。ここからじゃ何もできないもん」


 僕を安心させて油断させる罠かもしてない。だから、警戒を緩めず周りに意識を集中させる。


 「んで、何の用だよ!」


 「君に興味があるの。期待以上だったよ。まさか光魔法が使えるとは思わなかった」


 レイスは声を弾ませながら話す。


 「もしかしてお前があのゾンビを寄越したのか? ん? ちょ...あの時僕は光魔法を使ったのか?」


 「そうだよーぼくのアンデットで試しちゃった。君は光魔法を使い、ぼくのアンデットを浄化させたのよ」


 「まじかよ! 僕が光魔法を使えるなんて...」


 伝聞でしかなく、あるか定かではなかった光魔法が存在する事を僕が証明したっていうのか。

 僕がなぜ光魔法を使えるんだ。もっと選ばれた存在しか使えないような気がする。僕なんかが使えていいのだろうか?

 僕に似つかわしくない魔法で申し訳なさに加え使いこなせていく自信がなく、僕よりも使えこなせそうな人に譲渡したくなる。

 けれども、レイスの言う通り光魔法使えるならばこいつを唯一倒せる手段となるので手放すわけにはいかない。

 

 「どうしたの? 驚いたと思えば元気少なくなって、次は腹を括ったようで...。うーん考えても分からないや。分かるとしたら君ならぼくの願望を叶えてくれそうだって事かな」


 「願望? お前の願望を叶えるために光魔法を使うと思うか? この力はお前を倒す為に使うんだ」


 レイスの甲高い笑い声が無駄に広いお風呂場に響き渡り、声に共鳴したのか湯船が波打つ。


 「...ありがとう。君なら本当にぼくの願望を叶えられそうだ。強くなってぼくの前に来てくれるのを楽しみにしているね」


 何故、感謝されたのかさっぱり分からない。


 「よく分からんが、強くなってお前を倒すからな。恨むなよ」


 ふと、大事な件を思い出したので答えてくれるか分からないが八咫鏡が神社にあるのか聞いてみる。


 「レイスに聞きたいことがある。神社に鏡を安置した奴等いなかったか?」


 しばらく沈黙の後、思い出したかのように言う。


 「あーいたね。そんな奴ら」


 「奴等が安置していった鏡は今もそこにあるのか?」


 またしても少し間があり、レイスは言葉を発する。


 「教えないー。知りたいならぼくに会いにきな。そしたら、教えて上げる」


 やはり、教えてくれないか、でも手記に記されていたことは本当の事だと分かっただけでも良しとするか。


 「分かった! お前を倒すから覚悟しておけよ」


 誰も居ないが目の前に真っ黒い人の像を思い浮かべて、その幻影の顔に向かって右拳を突きつける。


 「ええ、楽しみにしているよ......」


 声が遠くなっていく。

 何度体を洗っても取れなかった、体の異臭が取れていく。

 ふと、僕は呟く。


 「奴の考えが分からんし、声色は女っぽいが1人称がぼくだから性別も分からん奴だ」


 「ふぁ、ぶぁあくしょん!!」


 湯冷めしたのかくしゃみが出る。


 「うっ寒み!」


 僕は体をさすりながら湯船に向かった。

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