第38話 that's right ゾンビ!

 「奴は物理技は殆ど効かんからな。それにだ、光魔法以外の魔法で倒すなら跡形もなく消滅させないと活動停止しないから気をつけろよ」


 跡形残さずだとどうするんだよ。僕まだ魔法使え無いんだぞ。こいつを倒せる気がしない。

 だが、こいつを倒せないとレイスと戦う事さえできないだろう。やるしかないか。

 覚悟を決めてゾンビに立ち向かう。


 「お前を倒してやる! ...ちょ、グロくてやっぱり無理だよ!」


 ユニコーンから僕にターゲットを変え、叫びながら突進して来る。

 その凄惨な形相が恐ろしく、気持ち悪く、触れたくなく、塀沿いに右へと逃げる。

 ゾンビと言えば噛まれたら僕もゾンビになってしまうのではないかとふと思う。


 「もし噛まれたら僕もゾンビにになっちゃうの?」


 「大輔逃げるな、戦え! 噛まれたってゾンビにはならん。そんな話があるか」


 「そっそうなのか!」


 噛まれてゾンビになるというのは元の世界だけの設定で、この世界なら噛まれても大丈夫なのか。大丈夫と頭で分かっていても噛まれたくはないと体が拒否反応をし、足が止まらない。

 100メートルは走り、ちらりと後ろを見るとすぐ近くにいた。

 なんで僕の足の速さについてこれているの?

 5秒ぐらいでで100メートル走りきったんだよ。

 さらに逃げようと踏み出しそうになる左脚を左手で叩き、体を支える軸にし、つま先立ちとなり半回転し、ゾンビへと駆け出す。


 「覚悟を決めろ。僕」


 自身に言い聞かせ、不整の半透明の石をスラックスの右のポッケに勢い良く押し込む。

 とりあえず、醜い顔面を殴ってみる。

 殴った感触がぬちょっとし気持ち悪く、全身に鳥肌が立つ。

 ゾンビは大きく退き反るもやはり物理技は効かないのか、怯まずに拳を振るって来る。

 ゾンビの攻撃は遅く単調なので簡単に避けることはできるが、倒せそうにない。

 魔法でしか倒す方法がないが僕には魔法が使えない。ライラによると一点に意識を集中すれば使えるらしい。なので手に意識を集中してゾンビを殴ってみるもゾンビはただ倒れだけで直ぐに立ち上がる。

 このままでは体力の消耗と嫌悪感により僕が負けてしまう。

 これではらちがあかないからゾンビの横をすり抜け塀の上でユニコーンとじゃれあっているライラのもとへ駆ける。


 「ライラ! 手に意識してみたけど魔法使えないんだけど! どう使うんだよ!!」


 走りながら声を張り聞く。

 声が届いたようだが僕を一瞥し、一言だけライラは言う。


 「知らん」

 

 ブチ! 僕の中で何かが弾ける音がした。ライラに対して怒りが再燃したのだ。

 この苛立ちをどこに発散したらいいんだ。


 「ぐあああああ!!」


 背後で又しても叫ばれイライラしだす。


 「うるせええええ!」


 腹から怒りが留まる事なく湧いてくる、この苛立ちをゾンビに発散する。

 煩い口を黙らす為に拳を下から突き上げ、ゾンビの顎へ撃つ。

 その瞬間に体の中から何かが溢れ出し、それは体を巡り、突き上げた拳にそれが集中する。

 大きな破裂音と共にアンデットの頭が粉砕し、後ろに倒れこむ。


 「大輔! できるではないか!」


 「な、なんだ? これが魔法なのか!」


 どうして、突如魔法が使えるようになったか分からず混乱する僕にゾンビが起き上がり襲い掛かってくる。


 「うわわーまだ、こいつ動けるのかよ!」


 「油断するな! 言ったではないか、跡形残さず消滅させなければ倒せないと」


 ゾンビの両肩を掴み抑える。抑えられたゾンビは暴れ、粘液が飛散する。それだけでなく、ゾンビの唾液もだらりと垂れてきて僕の上着にねちょりと着く。


 「嫌だあああ! 汚ねえええ! くせええええ! 消えろおおおお!」


 僕の嫌悪感の叫びが通じたのか目の前にいたゾンビから淡い光が立ち込め一瞬にして消滅した。


 「あれ...? 消えた?」


 ライラにこの現象を聞こうとし、ライラへ振り向く。

 塀の上にいたはずのライラは地上に降りており、驚愕の表情をしていた。


 「おい! 大輔今何やった?」


 「いや、こっちが聞きたいよ。何が起きたのさ!」


 ライラは血相を変えて駆け寄ってくる。


 「大輔、石に魔力を注いでみろ!」


 突然のライラの変貌ぶりに付いていけないが取り敢えずポッケにある半透明の石を右手で取り出し、その石に魔力を注ぐように努力する。が、何も起きない。


 「大輔ふざけているのか?!」

 

 冷ややかな目線を送ってくる。


 「まじめにやっているよ!」


 もう一度石に魔力を注ぐイメージをするも魔力が注げない。


 「あれ? おかしいな...」


 「どうして魔法が使えたか考えろ!」


 「どうして使えるようになったのか...それは怒りだと思う」


 定かではないが怒りにより体の中で何かが溢れ出し、それが体に巡って行く感じがした。


 「怒りか......ふむ、貴様は本当に使えん奴だ。お嬢様にはふさわしくない。人間などゴミだな。特に魔法も使えない貴様などな! なあ、そう思うよなユニコーンよ」


「キィィィ」


 鳴き声で肯定するユニコーン。


 「可愛い奴だ、ふむ、こんな魔法も使えんゴミよりもユニコーンの方が役に立つ。なぜなら、わたくしが作ったものだからなあ! はははは!!」


 ライラは口を大きく開け、高らかと笑う。

 こいつはどうして、ここまで僕を苛立たせるのだろうか。ライラに対してふつふつと怒りが湧いてくる。

 両手に力が入る。

 ピキピキと亀裂が入るような音が手に持っている石からする。

 ライラは裁判官が小槌を叩くように左の手のひらに右の拳を打ち付ける。


 「ユニコーンよ、こいつに相応しい名が思いついたぞ。聞きたいか。そうか聞きたいか、こいつはゴミ輔だ。なんていいネーミングセンスなんだ」


 僕の握力に耐えられなかった石が砕け散り白く光り輝く。


 「...やはり大輔...。信じられないが貴様の魔法はひかあああ——」


 腹の底からの怒りが弾けだし、気づくとライラの顔面を思いっきり殴っていた。

 ライラは塀まで吹き飛び、塀で勢いが止まると思っていたが突き破っていく。

 ライラは白目を向き伸びている。


 「はあはあ...拳が薄っすらと光っていたような? まあ気のせいか。これで...お前を気絶させたのは2度目だな。今回は城まで運んでやるもんか、そこで寝ていろ!」


 ライラを放置して城の方へ足を進めるとライラが生み出したユニコーンとすれ違う。

 ライラを心配しているのかユニコーンはライラの周りを鳴きながら飛び回っていた。

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