第37話 what!are you ゾンビ?

 手記を読み部屋でゆっくりしているとライラが現れ、特訓が始まるらしくライラと始めて勝負したところに連れて行かされた。

 ライラは特訓開始する前にこの世界にある魔法について説明するとのことで、自慢を交えながら説明が始まった。


 「ふむ、まずこの世界には様々な魔法があってだな。人それぞれ得意とする魔法が違う。ちなみにわたくしが得意とするのは雷魔法だ」


 手に雷を纏い、手をこねて、何かを雷で作っているようだ。

 手を広げ中身を見せてくる。中には翼を畳んでいる小さなユニコーンがいる。それは羽を広げ僕の周りを飛び回り飽きたのかどこかへ羽ばたいていく。


 どうだ、凄いだろうとドヤ顔する。

 まあ、凄い。凄いけどそのドヤ顔がムカつく。


 「このぐらい精密にコントロールできてからが1人前だ。簡単なようで難しいぞ」


 「へーそうなんだ。んで、他には何があるの?」


 右の指を折りながらライラは説明する。


 「お嬢様が得意とする炎魔法、チョコ様の重力魔法、グレーモスの風魔法。...そうそう誰でもが使う魔法もあるぞ。グレーモスも使用していたはずだが腕力を増強させる魔法、防御を固める防御魔法だ」


 「グレーモスは風魔法か、確かに風が拳を包むように吹き荒れていたわ」


 「圧縮した風を拳に纏い、空気の噴射でさらに威力をあげていた筈だ奴が拳での戦いが好きな奴で助かったな。風魔法を巧みに使うような奴だったら勝てなかったただろうな。仮に再戦した場合、魔法が使えない貴様ではもう勝てない。だからな魔法を覚えてもらう」


 僕に近寄り、じろじろと僕の顔を覗き込んでくる。

 そんな事は重々承知だ。だから、特訓して強くなるのだ。


 「魔法はまだまだあるが説明するときりがないから今回は省くとする。そうだ魔法以外にも大事な話があったわ。魔物には種族ごとに持っている能力があってだな、私ならスピードや変身能力。お嬢様なら具現化能力や超再生力などあるな。けれどな人間にはそんな能力備わってないから1番弱い種族とされている。だから現に滅びている」


 「なるほど、固有能力がないから皆人間を馬鹿にするのか」


 「ああ、そうだ」


 憐れみの眼差しを僕へ向ける。


 「そんな、目で見るなって...。もう説明は以上か?」


 頤に右の人差し指と親指の皿を押し当てながらライラは考えながら言葉を発する。


 「...定かではないが光魔法を使えたのが人間とされている」

  

 「えっ?!」


 少し間がありライラの口が開く。


 「遥か昔からこの言い伝えがあるだけで記録がどこにもないからのう、信憑性があるか分からん。分からないといえば貴様の魔法の種類を確かめる必要があるな」


 燕尾服の左ポケットから何かを取り出し下から上へと投げられ、物は半弧を描きながら僕に飛んでくる。

 それを両手でキャッチし、恐る恐る確認するとそれは透明な不整の石であった。


 「見極め方は簡単だ。その石に触れながら魔力を送るだけだ」


 それなら簡単だ、すげー便利って魔力の送り方知らんし、僕にとって簡単ではない。


 「え...っと、魔力ってどうやって送るの?」


 「はあっ?」

 

 溜息をするかのような声を出し、ライラは真底呆れながら口を開く。


 「そんなこともできないのか!」


 魔力を送るのが当たり前の言い方と拍子抜けしている表情を見ると怒りが湧いてくる。たが、その感情をできるだけ抑えながら出来る限り荒げずに不平を言う。


 「できるか! 前の世界には魔法なんてなかったんだ、突然魔力を送れって言われてもできるか普通」


 「こんな初歩の初歩からやるのか。先が思いやられるわ」


 ライラは頭を左右に振り、かったるそうに溜息をする。

 こいつの態度どうにかならないかな。一発ぶん殴れば態度改めたりしないかな。

 おっといけない落ち着け、物騒な事はさておき、魔力を送る方法だけを考えよう。


 「んで、どうすればいいんだよ」


 「頭を空っぽにしてその石だけに集中して、その石に透明な膜を張ることを想像する。以上」


 「以上って他のアドバイスはないの?」


 僕の投げかけの言葉に対して頭を掻きながら投げやりにライラは言う。


 「煩いの、本来は何も考えなくても魔法は使える! 大輔は歩く時に右足を前に左足を前にと考えて歩くのか? この世界に住む者にとっては魔法はそのぐらい当たり前で、何も考えずに使えるんだ。だから、教え方が分からん」


 「じゃあどうするんだよ。このままでは魔法が使えないじゃないか!」


 「教えてあげているだけでも感謝し...」


 「うおおおおお!!!」


 ライラの言葉は森の中からする分厚い叫び声でかき消される。

 様子を見るため2人は塀の上へ飛び乗る。

 草木を掛け分けながらこちらに何かがくる。

 その正体はライラが雷で作ったユニコーンだった。なんだユニコーンかと思って安堵する。

 だが、あの小さなユニコーンから図太い叫びを出すのだろうと疑問に思っていると、直ぐに声の主がユニコーンではないと理解した。

 それを見た僕は血の気が引いてしまう。

 よくテレビでなら見たことがある馴染みのある存在だが、現実には実在しない化け物。空想上の化け物で日本では絶対に目にしない存在だ。


 「ゾンビだあああああ!!」


 ゾンビを連れてくるユニコーンはこちらに向かってくる。


 「あれ絶対、ユニコーンが引き連れてきているんじゃないのか? こっちに来ないようにさせろよ!」


 「ふむ、それは無理だ」


 ライラは目を閉じながらかぶりを振る。


 「どうして?」


 ライラは目を開けて僕へ顔を向ける。


 「さっきから命令しているのだが、わたくしの命令通り動かんのだ。わたくしはとうとう知的生物を生み出してしまったのかもしれん」


 僕は言葉が口から出ず、苦笑いするしかなかった。

 

 「あはは、要はライラは使えないってことだな。自身で生み出した魔法のくせに何でだよ! あーこっちに来るんだけど!」


 「大輔、魔法は実戦で覚えるものだ。アンデットの中でも最弱なゾンビだ。お前でも倒せるぞ、魔法使えればな。頑張れ!」


 掛け声が送られたかと思えば、背中を押す力が感じられ堀の上から落ちていた。

 地面がもの凄い勢いで迫ってくる。

 いきなりのことなので脳が塀から落とされたという事実を理解するのに数秒かかり、叫びだすのに時間を有した。


 「.....えええ?? はあああああ!!?」


 地面に叩きつかれるギリギリのところで脳が落下している現状を理解し、空中で体制を整え着地する。

 塀の上にいるライラを見上げ、恐怖と怒りの感情がないまぜにしながら声を荒げる。


 「おっ押すな馬鹿! 危ねえじゃねえかよ!」


 僕の叫びに負けじと直ぐ後ろで「うおおおおお!」と叫び声が聞こえた。


 すぐ後方からの突然の叫びに体をピクリと肩が跳ね上がりる。

 恐る恐る上半身を捻り、肩越しに後ろを確認する。


 「あら...ゾンビ。近くで見るとさらにキモいわ」


 ゾンビが直ぐ近くまで来ていたのをライラに対する怒りで忘れていた。

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