第36話 ある男の日記 今後の方針

 739日目。


 旅を続けていると、龍族が住処にしている近くの森で血だらけで今にも死にそうな人がいた。私は覚えたての治癒魔法で治療をした。

 本来なら完全に回復するのに週数間は掛かるだろうと思っていたが、1日で全快した。人かと思っていたがどうやら違うようだ。だからこそ異常な回復力に納得した。

 その人はなぜ私を助けてくれたと問うてきた。目の前で死にそうになっている者がいたら普通助けるだろうと返した。すると、驚かれた。

 この世界でそんな理由で見知らぬ人を助ける者などいないと言う。

 私達は異世界から来た人間であると話すと先程よりも驚いていた。人間はこの世界では絶滅していると言う。やはり、2年近く過ごしていて人間に1度もあっていないからいないと薄々感じていた。

 その人は元の世界へ戻る方法を知っており、世界へ戻るには膨大な魔力とある条件が合う場所が必要だと言う。準備には数日かかるのでそれまで待ってほしいとの事で準備が出来次第この家に訪れると約束した。

 何故知っているのかと聞くとある本を盗み見したと言って、見ている最中に見つかり半殺しにされたと笑いながら話してくれた。


 まさかの展開であった。この手記を読んで元の世界に戻れる事が判明するとは思いもしなかった。

 戻り方を知っているのその人とは誰なのだろうか?

 元の世界に戻れる事を知り、僕は興奮しだし、手が戦慄く。

 シノとライラは僕が驚愕していることは気づいていないようだ。

 未だに2人で熱弁に話し合っている。

 今にも声をあげて2人に知らせたいこのはやる気持ちを抑え、黙読を続ける。


 742日目これが最後の手記となっているようでもうこれ以上書かれていない。


 手紙にて知らせが届き、明日この家に来る事になっている。準備が完了したらしいのでようやく元の世界に戻れる。快斗も嬉しがっていた。

 元の世界に快斗には家族がいないらしい。元の世界に戻れたら、できることなら快斗の父親になりたい。こんな事言ったら嫌がるかな。でも明日話そう家族になろうと。


 ここで、手記が終わっていた。彼らは日本に戻る事が出来たのだろうか。無事に戻れていたらいいなと僕は思う。

 結局、戻り方とその人について一切書かれていなかった。

 手記はここで終わりだったが、次のページには様々な化学の考えを取り入れた魔法が書かれていた。

 ここにゲートを開く方法が記されているかと思い目を通したが、どこにも記されていなかった。


 ゆっくりと手記を閉じ、元の世界に戻れる手がかりが書かれていた事を2人に話した。

 この手記に出てくる人に心当たり無いか聞いてみたが2人はかぶりを振る。戻る手掛かりを見つけたが戻り方を知っている人を探せないのでは意味がない。

 落ち込んでいる僕にライラが励ましの言葉をくれる。


 「大輔、元の世界に帰れる方法があるだけでも分かって良かったではないか。この世界は広いがあきらめずに探そう。諦めるな!」


 ライラがここまで僕のことを思ってくれるなんて、本当はいい奴ではないか。憎たらしい奴だと思っていたがライラに対しての認識を改める必要があるかもしれない。


 「お嬢様から早く離れてもらうためにも元の世界に戻ってもらわなければ困る...。ふむ、魔力を与えた奴を探し出すぞ」


 やっぱりライラはこう言う奴だわ。改めようと思っていたが直ぐに思い返すことにした。

 僕と同じようにシノも呆れた顔をしながら魔力を与えた人を探し出す難しさと疑問を投げかける。


 「膨大な魔力となると少なくとも魔王に近しい力を有しているだろうな。魔王と同程度の魔力を持つ者はそこまでいるとは思えんがこの世界は広い、探すとなると骨が折れるぞ。それにだ、命を助けられただけで人間に莫大な魔力を与えるような魔物など、そんな希有な奴が本当にいるのか?」


 ライラは腕を組みながら首を傾げ、心当たりあるようで1人はいますねと言う。

 誰だとライラに視線が集まる。


 「それはお嬢様ですね。ただの人間に命を助けられただけで恋に落ち、結婚してしまう。これを希有と言わズフェェェ...!」


 ハイテーブルがガタリと跳ね上がる。どうやら口止めさせるためにシノがライラの脛を蹴り、痛みで足を上げ、膝で動かしたようだ。


 シノは顔を赤くし、ブルブルと全身を震わせている。


 「ライラ...お前と言う奴はどうしてこう、いらん事を言う」


 「...申し訳ございません」

 

 脛と膝を撫りながら涙目で謝る。


 シノは小さく溜息をつく。


 「全く...それで大輔はどうしたい、元の世界に今すぐ帰りたいのか?」


 頬の赤みは消え真剣な眼差しで見てくる。

 元の世界にいる本田志乃に想いを伝えるために戻りたいが、今の僕にはここでやらなければいけない事がある。


 「...帰りたい、でもシノとの約束、男を見つけ出し、シノの力を取り戻せたら元の世界に帰るよ! それまでは帰らない」


 「そうか...」


 シノは真剣な眼差しから顔に影が落ち、視線を手元にやる。

 何故そんなにも悲しい顔をするのだろうか。その面持ちの意味を知りたく問おうとするが、すぐにいつもの引き締まった顔に戻ったので開きかけた口を閉じる。


 「ならまずは当初の計画通り、レイスがいる白夜高山に行き、八咫鏡があるか確認しに行く」


 さっきの表情の意味は一体なんだったんだろうか。気になるが聞くチャンスを失ったのでもう考えても仕方ないことだ。

 今できるのはシノの言葉に賛成するのみである。


 「分かった」と大きく頷く。


 ライラも肯定し、今後の指針が決定した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る