第33話 シノの力を奪った男が持っていた手記を読む

 僕の目の前には焼きたてホヤホヤのピザがある。マルゲリータ、バンビーナ、クアトロフォルマッジなど種類豊富だ。どれもこれも美味しそうである。

 早くご馳走にありつきたいのにシノが先程から僕をジト目で見てくるせいでピザに手をやれない。


 「あのーそんな目で見られると気になりすぎてピザを美味しく食べれないんだけど」


 ライラは手の動きだけで飲み物を要求して来たシノに紅茶を注ぐ。


 「なんで...お姉様といたのよ」


 語気が常より強い。よく分からんがご立腹のようだ。


 「何でって言われても突如部屋に入ってきて起こされたんだよ。んで、シノのがどうして力を失ったのかを教えてもらった」


 シノは椅子から勢いよく立ち上がり、その反動で倒れそうになる椅子を顔色ひとつ変えずライラが受け止める。


 「お姉様がそんな話をしたの!! いつも、いつもかって何だから!」


 語気を荒げて不満をぶちまけてから溜息をし、何かを諦めた様に椅子に座る。


 「まったく、本当に自由なんだから。で、その話を聞いてどう思った...? 惨めだな、可哀想だなとか思ったか?」


 「いや、シノために何かできないか考えた。そして、シノから力を奪った奴をぶっ倒してやろうと思った」


 先程話を聞いて感じた事を素直に話した。

 それが予想外の返答だったのかシノはきょとんとする。


 「...大輔があの男を倒すだと。卑怯な手を使っていたが私とライラを倒した男だぞ。今の大輔では到底敵う相手ではないのは分かっているな? ...なのに戦うんだな?」


 「...怖いけど僕の目標だよ。今のままでは勝てないけどでも」


 僕は愚かな事を言っているのかもしれない。無謀かもしれない。でも、シノの力になるために全力を尽くしたい。

 チョコさんにも不思議がれていたがどうしてシノの為に頑張るのか自分にも分からない。

 どうして僕はあったばかりの人をこんなにも助けたいと思うんだろう。やはり、好きな子に似ているからか...?

 僕の中にあるシノと言う存在について自問自答をしていると、突然シノは吹き出す。


 「ふふ! ...大輔やっぱり面白い、最高だ。君ならあの男をぶっ倒せるかもな。だが、私も負けられんな」


 シノの力を奪った男をぶっ飛ばしたいが残念な事にその力が無い。戦い方を知らない。


 「で、でも僕はただ頑丈で、膂力りょりょくが他の人よりある以外何もない、魔法は使えない、戦闘センスもない。今のままでは...」


 自分の惨めさに嫌気がさし。手元に視線を落とす。

 ん、んと喉を鳴らす音が聞こえそちらに視線を向けると胸の前で腕を組み横を向いたまま口を開くライラの姿だ映る。


 「大輔、本当は貴様なんかに教えるのは不本意だが、お嬢様の為に仕方なくわたくしが戦いの技術を教えてやろ」


 ライラの言葉に食い気味になり、姿勢が前のめりになる。


 「それはつまり戦い方、魔法を教えてくれるってこと!」


 僕の食い気味な態度に嫌気がしたのかライラはしかめ面になる。


 「煩いなそう言っているではないか。願わくば貴様が訓練に耐えれなくなって城から出て行ってもらえる事を期待しているぞ」


 こいつはどれだけ僕の事が嫌いで追い出したいんだよ。

 だが、嫌いである僕を特訓してくれるからには僕に対してマイナスのイメージがあるだけではなさそうだ。

 ライラから教わるのは僕にとっても苦しいが仕方ない強くなるにはライラの指導が必要だ。

 ライラなんかの嫌味やら、厳しい指導に耐えてみせる。


 「シノの力を奪った男を倒し、シノが力を取り戻すまでこの城から出ていかない。訓練なんか乗り越えて見せる!」


 「ふむ、貴様には地獄を見せてやろう」


 満面な笑みを浮かべ恐ろしいことを発するライラ。

 絶対、僕を訓練と言う名のいじめをして楽しむ気だ。まあ、負けないけどね。

 シノはライラに対して思うところがあるのだろういやはや、溜息をする。


 「料理が冷めてしまう前にいただこう。特訓も大事だがその前に大輔には手記を読んでもらわなければならない」


 そうだった。今の僕がシノの為に一番できることだ。


 「任せてくれってばよ!」


 胸を軽く右手で叩く。

 




 朝食後、僕は高さが100メートルはある円筒型の部屋に案内される。その部屋の壁は書物で隙間なく囲まれており、書物が壁みたいになっている。

 部屋の真ん中に円形のハイテーブルとその高さに合う椅子があり、その椅子に座るようにシノに促される。

 シノは僕の目の前に座り、ライラはシノと僕を一直線に結び、その頂点に当たる所に座る。

 僕らは三角形を作るように腰を下ろしている。

 ライラは魔法を唱え数千冊はある本の中から手記のみを取り出す。そして、手記は浮遊しながら僕らがいるハイテーブルの中心にゆっくりと落ちる。


 「大輔、これがあの男が持っていた手記だ」


 シノが手記を僕の前に差し出す。

 それを手に取ると緊張してきた。さてさて、読めるだろうか。恐る恐る表紙をめくる。

 手記に目を通し、日本語で書かれている事に僕は安堵する。

 所々穴が空いていたり、汚れていたりしているが、前後の文書で予想して読む事ができる。

 手記に書かれている内容を口に出して読む。

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