第32話 また会う日まで

 「おい、大ちゃん...どこ見ておる!」

 

 チョコは僕の目線に嫌悪感を露わにしていた。


 「はっ!」


 我にかえる。

 胸元を凝視していたとは口が避けても言えない。言い訳を探すためににチョコさんの体を舐め回すように凝視する。

 決して変な感情は持ち合わせていないよ。決してね。

 目線の最終着地地点はやはり胸元である。そこに赤く光り輝く赤いペンダントがある事に気づく。

 先程からそこにあったのだろうが、それよりも目立つ物があり気づかなかった。

 人間は一つの物に集中すると周りが見えなくなるのは本当のようだ。


 「チョコさん、この胸元にあるペンダント綺麗ですね」


 「やはり、胸見て...」


 「綺麗な赤色の宝石だなと思います」


 言葉を返される前に無理矢理にでもペンダントの話に持っていこうとする。


 「胸...」


 「いや、本当に綺麗なペンダントだと思います」


 「ッ......」


 追求を観念したのかチョコさんはペンダントを首から外し、それについて話し出す。


 「...このペンダントはお母様から頂いたものだ」


 お母様と言えば鬼人王のことだろう。

 冒頭の話にあったが話の進行を止めてしまわないように聞き流していたが鬼人王がシノのお母さんって種族が違う事は驚きであった。

 聞きたかったシノと鬼人王との関係をチョコさんに尋ねる。


 「シノとシノのお母さんって種族が違いますよね? でも家族なんですか?」


 瞬きをチョコは数回してから応える。


 「種族が違う家族はこの世界では珍しくないよ。シノちゃんと血は繋がっていないが大切な私の家族だよ」


 前の世界にも血が繋がっていない家族はいる。それと同じようなものだろう。


 「この世界にも色々あるんですね」


 「ええあるのよ。後はシノちゃんちゃんに聞いてくれたまえ。これ以上過去の事や家族の事を話すと怒られしまうわ」


 微笑しながら言う。もう結構話しているような気がするがまだあると言うのかと思っていると、もう一つ気になることを思い出す。


 「シノお母さんはその、大丈夫なんですかね? シノと戦う前に男と対面したんじゃないですか?」


 「あの男はシノを動揺させる為の虚言を言ったに過ぎない。お母様はそんな奴とは戦っていないと言ってたわ」


 「何だ、嘘か。それなら良いですけどね。なら手紙は誰が書いたのだろうか...」


 「おっと長いし過ぎたようだ」


 またしても疑問が生まれたがそれを話し合う時間はなさそうで、チョコさんは体をピクリとさせここから出て行くような台詞を言って、僕に背を向けベットの端へと向かう。

 僕は頬を人差し指でをかき、最後にこれだけはずっと聞きたかった事をチョコさんの背中に向かって口にする。


 「どうして、会ったばかりの人にこんな話するのですか?」


 チョコさんはベッドから立ち上がり背を向けたまま話す。


 「妹を必死で守る姿を見たからさ。初めて会って間もない妹を守った。そんな姿を見てたら信用したくなったのさ。それに妹が信じた者を信じるよ...。この世界に来てくれたのが君でよかった」


 ん? 今この世界に来てくれたのが僕で良かったって言わなかったか?

 チョコさんはそのまま真っ直ぐに歩き出し、閉まっている両開きの窓の前で止まると窓を開放する。


 チョコは片足を軸にしてターンを決めるようにドレスをひらひらとなびかせながら振り返る。そして、頬を緩ませながらおちゃらけて言う。


 「大ちゃんでも、しっかりと結婚したわけではないのにシノちゃんに手を出したら許さないからね」


 廊下の方ではバタバタと掛ける足音が聞こえてくる。


 「時間切れだね、大ちゃんまた会おう。シノちゃんをよろしく頼む。またね!」


 手を軽く振った後、赤い目をしたカラスへと変身し、窓辺に立つ。そのカラスの視線は僕を捉えておらず、僕の後ろに向けられていた。

 何を見ているのかと半身で振り返ると扉がものすごい勢いで開く。


 「お姉様!!」


 カラスとなったチョコさんがいる窓ではバサバサと羽ばたかせる音がした。姿勢を前に戻すとチョコさんの姿は消えていた。

 室内には黒い羽が舞い、ゆっくりとシノ足元へ落ちる。

 それを拾ったシノは陽光が眩しく差す窓辺に視線をやり口元を緩め呟やく。


 「まったくあの人は...でも元気でよかった」

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