第26話 ひまわりの種、目玉に投球

 ペチ、ペチ、ペチ。何かが頬に当たる。


 「んーあぁーまだ眠い」


 薄っすらと開けた目に小さなアプリコット色が確認するも寝ぼけた脳では気にもとめず直ぐ様2度寝をする。

 

 「ん...」


 次は鼻に何かが当たる。その何かのせいで鼻が痒い。まだ、脳は覚醒せずに寝ている。

 ペチ、次は瞼に食い込み地味に痛く、眠気が消えていく。

 飛んでくる物を確認する為に目を開ける。

 目に鋭利な物が投げられているのに瞼を上げるのは愚の骨頂であった。

 黒い物体が右目に直撃する。


 「いったあああ! 目がぁぁぁ目があああ!」


 ベッドの上で目を抑えながらジタバタしていると体がベッドから外れ、ドスンと鈍い音が僕の背中からした。


 「えっ? ベッドから落ちたのか」


 身体を起き上がらせると何か黒い物が体から溢れ落ち、それを涙目になりながらそれを確認する。


 「ひまわりの種?」


 「やっと起きたかい大ちゃん、おはよう」


 声の主など確認しなくて分かるが方を振り向き確認するとアプリコット色をしたハムスターが目に映る。


 「チョコさん! 酷いじゃないですか、目にひまわりを投げるなんて」 


 「あはは! ごめんよ。まさか、タイミングよく目を開けるとは思わなかったんだよ...! 大ちゃんはやっぱり頑丈だね。あたしは本気で投球したんだよ。目に穴が開くほどでね」


 「は? 目に....穴が空くほど、アホなの?」


 驚きのあまり敬意を忘れる。


 「そうよ。でも、大ちゃんは瞳に当たったのにもかかわらず痛いだけで済んでいる。本当に頑丈ね。あたしは傷一つ付かないと信じていたわ」


 微笑しながらも僕を感心しているのは伺える。いい気はしないけどね。


 「いやいや、信じてでも普通は投げませんよ。もし、穴空いていたらどうなっていたと思いますか? 僕、失明してましたからね!」


 息を荒くして怒る。だがこの人に怒っても無駄だと感じる。僕の怒りなど軽く簡単に受け流されてしまうだろう。


 「死ななかったからいいじゃん。これは罰よ、裸をじろじろ見てきたお返し」


 昨日の場面を思い出し、頬を指先でかく。


 「あれはチョコさんが悪いと思います...まあ、失明しなかったので許す事にします」


 決して良くないがどうせチョコさんにこれ以上反論しても無意味だろ。それに、美しい裸を見れたならこれしきの腹いせなど受けよう。


 閉扉へいひされている両開きの窓に目をやると、朝日が顔をほんの少し覗かせているだけでほんのり空は暗い。


 「こんな早朝から何か用ですかチョコさん?」


 「んー最後に大ちゃんともう一度話しておきたかっただけさ」



 *



 話が長くなると言う事で僕らはベットの上に移動し、僕は正座で座り、チョコさん後ろ足で立ち上がり真剣な顔で話し出す。


 「昨日は話せなかった大切な話だ。あたしの妹可愛くないか? 少し上から目線だけど、時折見せるデレ顔、もう愛おしくすぎる。そうそう、君にあってから恋を知ってどうしていいかわからなく戸惑っているあの表情、もう可愛すぎる。あんな表情もするなんて知らなかったよ。もう見れて良かった」


 妹愛があまりにも気持ち悪く顔をしかめてしまう。


 「……ん、シノの周りにいる奴みんなやべーのしかいないのか!」


 チョコさんはどう見てもこれはシスコンだ。まともな人かと思っていたのにがっかりである。

 ライラは親バカだし、どんな環境でシノは育ってきたんだよ!


 「本当に…どうでもいい話ですね。二度寝していいですか?」


 朝からこんな話を聞かされるとは、疲れる。


 「寝るな! どうでもよくはない! そんな可愛い妹を君は独り占めしようとしているんだ、許せない!」


 昨日はチョコさんを大人らしくかっこいいと思っていたイメージが消えた。もう、シスコンでうるさいお姉さんにしか感じれない。

 あーめんどくさい。


 「えーとよく分かりましたのですみません。もう話がないなら部屋から出て行ってもらっていいですか?」


 僕はできる限りの笑みを浮かべて言う。


 「君のその笑顔、怖いよ...。つい妹の可愛いところの話をしてしまったよ。こんな話できるの大ちゃんしかいないからね。君も薄々気づいているかもだけどこの城にいるのはシノちゃんとライラしか住んでいないからね。ちなみにあたしはここに住んでいないのよ。色々と旅をしていてね、ある用事でここに来てついでに隠れて泊まっているだけよ。あたしがこの城にいるとシノちゃんもライラも気づいていないわ」


 どうしてコソコソするのか訝りながら、チョコさんに気になる事を尋ねる。


 「聞きたいことが山ほどありますが、そうですねーまずはどうしてこの城には2人しかいないんですか?」


 「前は妹の周りには沢山の臣下や民はいたわ。でも、力を奪われた日から臣下が段々と離れていき、妹はこれでは民を守れないと決断し、お母様がいる国へ民を移動させたわ」


 チョコは哀感に満ちた表情をする。


 「力が無くなっただけで家臣は離れていくんですか...? 臣下はその程度の忠誠なんですか? 誰もシノの為に力を取り戻してやろうと思った奴はいないんですか?」


 質問を息をつかずに続けて3つもしてしまう。

 主人が弱くなっただけで見切るなんて勝手すぎる。主人の為に力を奪った奴を探しだすのが本来の臣下の役目ではないのか。

 臣下だった人に苛立ちを覚えていた。


 「この世界では力が全てなのだよ。力がある者には忠誠を誓い、力無き者に忠誠を誓う価値無しがこの世界だ。しかし、力と言っても腕っ節だけではなく、知能とかもあるがな」


 この世界では力が全てとか悲しすぎる、力ではなく心からその人について行こうとする気持ちは無いのだろうか。

 ベッドのシーツを力強く握る。


 「力が全てとは言ったが、中にはライラみたいに力ではなく心の底から忠誠を誓う者はいるがな。特にライラは信頼できる。種族も違う筈なのに今でも妹の側にいてくれるなんて本来なら考えられないことよ。あの2人に何があったのか聞いてみたいわ」


 2人のエピソードはありそうには無い。ただただライラがシノを溺愛しているだけな気がする。

  

 「家臣の事は分かりました。もっとも聞きたいのがシノを力を奪った男行方はどうなっているんですか?」


 チョコさんは俯きながら首を左右に振る。


 「力を奪った日から所在が分からないのよ、あちこち探しているのに一向に男の情報が出てこない」


 「そうなんですね...。その男はどうやってシノの力を奪ったんですか?」


 魔王であるシノから力を奪うなんて、一体どんな男なのか気になる。

 チョコさんは沈黙し、僕の問いに答えるか考えているようで、僕はチョコさんが話してくれるまで声を出さずに待っていると重たい口がゆっくりと開いた。


 「大ちゃんには話そう。それは3年前...妹の前にある男が現れた。そして、魔法とは別の力が宿された鏡によって力を奪っていった。あたしがいれば妹を守れたかもしれない...」


 唇を強く噛み締めた後、過去の事を悔しそうに話しだす。前置きを加えて。


 「これは伝聞になるのだが......」

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