第25話 ライラからのお礼のシチュー
「誰ってあたしよ、チョコよ」
女性としては長身であり、肩より長く伸びている髪が艶やかで美しかった。
シノとあまり似ていなかった。が、発するオーラから姉妹の趣きは感じる。
「はっ!」
湯気とタオルである程度は見えないがそれでも目のやりどころに困ってしまう。
困った末僕は目のやりどころを考える事を放棄し、これは仕方がない事であると結論づけ、タオル越しでも確認できる程の立派な双丘を集中して見ることにした。
「なに、そんなにガッツリ見てるのよ....! 普通は目を逸らしてその反応を見た私が可愛いわねって言う流れでしょが!」
「いや、そんな流れは知りませんよ。目の前に女性の裸が現れたら見るものです。見ないのは男の恥だああああ!」
握り拳をつくり熱く語る僕をチョコは訝しげに見てくる。
「やっぱり、君に可愛い妹を任すのはまずい気がしてきたよ!」
右手で更に胸を隠しながら、颯爽と脱衣所へ消えていく。
名残惜しく脱衣所の扉から目を離し、半身を前に向け直す。
「ハムスターに変身しているのがシノのお姉様とはな。ちゃん付けで呼んでいたり、只者じゃないオーラも納得だ。はぁーフォルム綺麗だったな...」
夜空を見上げると月と思われるのが二つあり、片方は満月でもう片方は三日月となっている。
「幻想的だ。本当にここは異世界なんだな」
元の世界とは違うと痛切に感じていると、ふと、暖簾の男の字を思い出す。
「あれ? ここ男湯だよな。それに2人しかいないのではないのか? まあ、もう考えるのは面倒くさい。...僕もそろそろ出よう」
*
お風呂から出た後、先程案内された部屋のベッドでゴロゴロと寛いでいると扉をノックする者が現れる。
「ふぁぁあい、どうぞ」
欠伸をしながら体を起こす。
「邪魔をする」
訪れた主はライラだった。嫌味でも言いに来たのかと気を張るがクリーミーな匂いで気が緩む。
その匂いの発生源はライラが手に持っているトレーからであった。
「お嬢様の分を作ったら余ってしまってな捨てるのも勿体無いから、仕方ないが大輔、貴様にやる」
クリーミーな匂いを漂わせるトレーが差し出される。
このトレーにあったのはシチューであり、その匂いが乗っている湯気が鼻を撫でた途端、この世界に来てからご飯を食べていないと心身が思い出し、腹が鳴りそうになる。
「いらないのか?」
トレーを僕から遠ざけようとするのでつかさず ベッドから勢いよく飛び出てトレーを受け取る。
「いる! なんてうまそうなシチューなんだ」
口の中で溢れてくる唾液をゴクリと飲む。
「食べ終えたら扉の前に置いといてくれ後で回収しにいく」
出口の扉へ歩を進める。
「分かった。早速いただきます」
早速食べようとスプーンでシチューを掬う。がまだライラがノブに手を伸ばすが何か言いたげにその場に留まっているのが気になりシチューを食べれない。
んー気まずい。何か言いたい事があるなら早く言ってくれないかな。どうせ結婚反対、貴様なんて認めないって話であろう。
このままではせっかくのシチューが冷めてしまう。ならばと僕から話しかけてささっと要件を終わらせる。
「あの...ライラ」
「あ...ありがとうな。お嬢様を守ってくれて」
顔が見えないけれどもライラが照れ臭そうにしているのは伝わってきた。そして、感謝している気持ちも。
お礼の言葉を口にし、ノブを回し退室する。
僕は予想外のライラの行動に動揺してしまい手からスプーンが落ちる。
「危なね、セーフ」
空中でスプーンをギリギリキャッチし、クリーミーな匂いとほんのりチーズの香りが立ち込めるシチューへスプーンを差し込む。
「へー案外いい奴じゃん」
スプーンでシチューを掬い口に運ぶ。
「うん、上手い!」
少し遅めの夕食を食べ終え。ふかふかの高級ベットで一夜を過ごしたのだった。
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