第24話 瞳に映る柔らく大きな双丘

 チョコさんは腹を抱えて笑っていたがゆっくりと平常さを取り戻していく。そして、口を開き僕に断言する。


 「大ちゃんは強いわ。でも、冷静さを欠かせられていなかったら負けていたね」


 確かにそうかもしれないが、断言される反論したくなる。


 「そうですか? 戦闘の技術力は負けているかも知れないですがまだまだ僕には余力ありましたし、魔法の使用無しだから負ける気はしないんですが?」


 チョコさんは樽の端で前乗りになり、前脚で掴まる。その動きで樽の周りから波紋が広がり、僕へ届く。


 「ライラも本気は出していなかったわ。衰えたとは言えあんなにあっさり負けないわ。見ていた感じ実力の30%ぐらいだと思うわ。馬鹿ね、人間だから侮っていたのよ。それを見越して勝負させたシノちゃんは流石ね。それでも勝てる確率は低かったけど大ちゃんが勝つと信じていたのね」


 チョコさんは後ろにある徳利に寄り、よいっしょと徳利を持ち上げ、樽に置いたお猪口にお酒を注ぐ。

 まさかそこまでの力の差がある何て理解していなかった。

 グレーモスを倒し、ライラを倒した事で僕は調子に乗りかけており、この世界なら倒せない敵はいないと甘く考えていた。

 愚かな考えをしていた自分が恥ずかしくなってきた。


 「本気を出してはいないのは理解していましたがそこまで力を抑えていたなんて知らなかったです。チョコさんの言う通りなら僕は負けていたかもしれないですね...。僕は弱いですね。これではシノを守れない」


 シノを守れない...あれ? なんでシノを守りたいんだ? 好きな人に似てるからか、仮だが夫婦だからか?...分からない。

 チョコさんはお猪口に酒を注ぎ終え、徳利を後ろに置き座る。


 「弱いと思うならシノちゃんを守るためにも強くならなくちゃね。きっと大ちゃんなら強くなれるよ」


 強くはなりたいが強くなる為には問題がある。僕は魔法が使えないって事だ。


 「そうですかね? 魔法が使えない僕なんかが強くなれますかね...?」


 魔法を使わずにどこまで強くなれるのか不安である僕の想いに気づいたのかチョコさんは明るい声で励ます。


 「それは大丈夫よ。先程頭の上に乗っている時に魔法回路があるか調べてみたわ。使われていなくて閉ざされているだけ、特訓すれば徐々に開いていき使えるようになるわよ!」


 魔法が使えると言う言葉は嬉しかったが、魔法が使える事が信じられなかった。

 だって元の世界では魔法が使えていなかったからだ。その不安をチョコさんにぶつける。


 「僕、魔法回路があるなら元の世界では魔法が使えた筈ですよね? なのに一度も使えた事など無かったんです! 本当にこの世界で魔法使えるんですか?」


 「憶測だけども向こうの世界では魔素が空気中に無かったのではないか。魔法を使うには魔素必要だからね」


 「この世界でなら僕でも魔法使えるんですね、魔法!」

 

 「そうとさっきから言っているではないか」


 チョコはお猪口に注いであったお酒を両手で持ち上げグイッと飲み干す。


 「話が変わるがしっかりとお礼を言ってなかったわ。グレーモスから妹を守ってくれてありがとう」


 突然、頭を下げられてしまい僕は戸惑ってしまう。


 「あ、頭をあげてください。そこまで改まってお礼を言われるほどでは...って妹!?」


 妹と言う言葉に驚いてしまった。だって人じゃないよ、動物だよ。それもハムスターだよ!


 「そうよ、シノちゃんはあたしの妹よ」


 「シノは吸血鬼ですよね? チョコさんはハムスターって可笑しいですよね。姉妹なら同じ種族があたり前...この考えは違うか、血が繋がっていなが家族はありえる。いやいや、ハムスターと吸血鬼とでは種族が違い過ぎるよな...」

 

 首を傾げながら思考を巡らせているとチョコさんは微笑し、口を開く。


 「大ちゃんは勘違いしているようだね。あたしは妹と同じで半分は吸血鬼だから吸血鬼の力でハムスターに変身しているだけよ」

 

 「吸血鬼にはそんな能力があるのか、なるほど納得できましたわ」


 チョコさんは魔法を使用したのか樽が湯船の端に進み出す。


 「そうそう大ちゃんならシノちゃんとの結婚認めてあげる」


 移動する樽を目で追いかける。


 「結婚って重くて、少し怖さは正直あります。相手の人生を背負う必要がありますので、それでも、シノみたいに綺麗な人と結婚できるのは嬉しい気持ちはあります。それに人生初ですよ、女性から好きって言われ...え! 見てたんですか?」


 「あーばっちり見ていたぞ」


 僕は先ほどのシノとのやりとりの場面を思い出し、恥ずかしくて湯槽に潜る。


 「みらぁれだ...はずぅぃ...ぶくぶく...しぬぅぅ」


 「そろそろあたしはでるよ」


 水中でも透き通るチョコさんの声が背後からしたので返事するために湯船から顔を出し、半身になって、肩越しに見ると瞼が大きく開く。

 湯煙が昇る中に左手で胸の部分にタオルを押し付けている女性の裸姿が目に入る。


 「うわあああーだ、だ、誰ですか?!」

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