第21話 シノの告白

 勝負の後、気絶したライラを僕が背負い城へ戻った。

 城内は広く玄関の前には2階に続く階段があり、1階、2階の左右に長い廊下がある。

 1つの廊下に数十個も部屋があるようで2人では無駄な部屋数である。そう思うのも人の気配は感じないからだ。


 「ライラをそこのソファに寝かせておけ」


 シノは入り口付近にある高級感溢れるコ文字形のソファを右の人差し指で示す。

 僕とシノはソファーの端に隣同士になるように腰を下ろし、ライラは僕らの目の前に寝かせる。

 現在ライラが気絶しているから、今は2人きっりと言っても過言ではない。

 だから、シノと距離がやたらと近く肩と肩が当たる毎に緊張が増していく。

 落ち着け、隣にいるのは好きな人と同じ顔だが魔王であり別人だ。

 よし、気を紛らわすためにこの沈黙を破らなければ。


 「ねーシノ」


 名前を呼びながら首を右に回し、隣のシノを見る。


 「はぃ!」


 シノの声は裏返っていた。突如名前を呼ばれた事に驚いたのだろうか。

 

 「そこで気絶している親バ...うん、ライラはシノと同じ吸血鬼なの?」


 「違うわ。ライラは狼よ」


 かぶりを振り答えるシノ。


 「やはり違う種族なのか。じゃあ、どうして吸血鬼の臣下なんてやってるの?」


  シノは僕の問いに何故か少し間があり、斜めに上に視線を送りながら話しだす。


 「...理由はないかな、他の種族だって家臣の中に別の種族がいるわ。でも、基本家臣は同種族で構成されるのが当たり前なのよ。ちなみにライラは第1の家臣だけどね」


 「そうなんだ...え...っ! 第1位?!」


 声がうわずんでしまう。

 そんな強い奴と勝負をしていたと驚愕はしたが、それと同時に第一にしては実力が乏しいと感じた。


 「でも、第1位の実力はこの程度なの? あの勝負は、魔法使用無しだし、本気は出していなそうだったけど、魔王の一番の側近の割には強いとは思わなかったな」


 シノは目を細めライラを見つめながら僕の疑問に応える。


 「昔は強かった。実力は白狼王に並ぶと言われていたわ。今ではこの有様だけどね。歳にはどの生物も逆らえないものね。...歳のせいにしては駄目ね。まだやれるはずだからもっと頑張って欲しいわ」


 「昔は強かったのか......」


 「そうなのよ、あれでもね」


 どのくらい強かったのか興味があって詳しく聞きたいが今はそれよりも大事な確認がある事を思いだす。

 僕たちは本当に結婚しているのかを。そろそろ、本題に入るとするか。

 シノがライラから視線を外し、綺麗な瞳は僕を捉え、その目に映る僕を見た瞬間、反射的にゴクんと唾を飲んでしまう。

 すると言いかけていた言葉が喉の奥に戻ってしまい、刹那の静寂に包まれる。

 結婚したかの確認だけなのに真実を確認するのが少し怖くなる。

 僕はまだ若いからか結婚の言葉が重く感じる。結婚する行為が未知数で怖い。結婚していると知った僕はどうするのだろうか。

 怖いけれども聞かなければならない。


 「...聞きたいことがあるんだ。僕たちはその...結婚しているの?」


 やっとの思いで絞り出した言葉はたどたどしかった。

 シノは合わせていた目を逸らし、俯きながら口を開く。


 「説明しなかったことは悪いと思っている...。む、無理矢理でもいいから一緒に居て欲しかった」


 頬を赤くして潤んだ瞳をしながら顔を近づけてくる。


 「——私との結婚は嫌か?」


 心臓が跳ね上がる。可愛いな畜生!


 「正直に言うと嫌という気持ちは少なからずある。いきなり結婚しているって言われてはいそうですかと納得できないよ。まだお互い分からないし。それに僕なんてシノと結婚できる器でもないよ。僕と釣り合わないシノがどうして僕と結婚したか分からないよ。別にシノは僕を好きじゃないよね?」


 この世界で僕なんかがシノと結婚とかありえない。そう僕では釣り合わない。

 僕のどこを好きになったって言うんだ。

 今日あったばかりで僕のことなんて知らないではないか。

 一目惚れか? 僕に惚れたのか?

 いやいや、こんな綺麗な人が凡人の僕を一目惚れするなんてありえない。

 結婚の意味に何かあるかもしれない、疑心暗鬼でシノを見てしまう。そんな目でシノを見たくないけども。


 「何も言わずに結婚したのは謝る。...すまない。......しかし大輔、私は頭にきている。言っておくが私と釣り合うかを気にして結婚したりしない! それにだ、もう私には魔王の立場がない。もうただの人さ」


 唇を尖らせて表情では怒りを感じ取れたが、声音からは悲しみが伝わってきた。

 僕にはシノの感情が分からない。なぜ怒り、なぜ悲しんでいるのか。そして、問いを答えてもらっていない。


 「つまりなんなの?」


 「私の口からい、言わせるつもりか...」


 力が入っていた唇は軟化させ俯き、トレンチワンピースの股下を強く握りしめ、声を絞りだすように言う。


 「だ、大輔が告白してくれたではないか」


 「え? うん...あれは、事故というか。間違いというか」


 予想外だったために頭が空っぽになってしまう。僕はどう答えようかとな髪を掻きながら困惑していると、シノは顔を上げ僕に振り返えり、握り拳にさらに力を入れているようで両腕が震えている。


 「そんな事は知ってるわ、あれは私にではない事ぐらい。でも、告白を受けたのだ、返事ぐらいさせなさい!—— ......魔法も使えないのに...勝てるか分からない相手に戦いを挑み、赤の他人の私を己の命を顧みずに守ってくれた姿に...。——つまり惚れたの、大輔と一緒に居たいと思ったのよ!」


 真剣は眼差しており、照れているのか頬を紅く染めている。これは正真正銘の告白ではないか!

 予想外の事で疑心暗鬼の気持ちなど吹き飛び、動揺し、頭が痺れ出す。


 「シノ...ぼ、僕の事が本当に好きなのか?」

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