第19話 面あり、一本先に取った者のは

 僕の技量を一瞬で見抜かれた。体がこわばり、木刀を握りしめる手に力が入る。


 「貴様ではお嬢様を守れない。消えろ!」


 怒声に怯み、一歩後ろに引いてしまう。

 それ見過ごさなかったライラはひと踏みで僕を捉える範囲まで距離を詰められる。


 「はや!」


 頭か胴か。どっちに来ても反応出来るように木刀を中段に構えながら相手の出方を伺う。


 「わたくしも早さには自信がある」


 狙われた先は頭でも胴でもなく、僕の右手首を打った。

 予想外の一手に、腕に力が入っておらず、この打撃によって腕が少し下に下げられる。

 そして、頭がガラ空きとなる。

 間髪入れず相手の竹刀が振り上がる。

 頭を打たれると脳が理解し、頭を守ろうとするが、間に合わず。


 「しまっ...!!」


 頭部に軽い痛みが走る。

 本来の世界ならこの打ち込みをくらっていたら僕は気絶していただろう。


 「一本!」とシノがカウントする。


 ライラは少し不満気な顔をしていた。


 「何故だ!この一撃をくらって平然としていられる? それになんで腕を動かせる!?」


 気絶しない事、腕が無事な事に納得がいかないよだ。

 特段頭が痛い訳ではないが頭部を右手で摩りながら説明する。


 「この世界だと僕は頑丈らしくて、この程度なら小さな子供に殴られたぐらいかな」


 この説明でグレーモスの様に怒り狂うのかと思っていたがライラは冷静にいる。


 「ふむ、やはりこの世界の住人ではないようだな。だからお嬢様が手記について伺ってきたのか...。ふむ、貴様はこの世界にいた人間より頑丈だと理解しよう。だが、所詮は頑丈なだけで人間と何一つ変わらん。この勝負勝たせてもらう。お嬢様との結婚を諦めて元の世界に帰れ!」


 ライラは言葉の終わりに右手で握っている木刀の先端を僕に向けてくる。

 やれやれ。結婚か......。

 シノの方をチラッとみると口パクで頑張れと応援してくれている。

 ——最高か!

 こんな美人で、好きな人と同じ顔と結婚できるのは嬉しいが、やはり僕は元の世界にいる本田志乃と結婚したい。

 だが、結婚したくないからと言ってこの勝負を降りるわけにはいかない。シノから応援されるのも嬉しいし、目の前の男に馬鹿にされて終わるのは嫌だ。

 だから、ここは勝たせてもらう。

 

 先程の定位置に戻るようシノに指示され、僕はそれに従う。

 ライラは上げていた木刀をゆっくりと下ろし、定位置に着く。

 中断に構え、ライラと目線を合わせると、先程よりやる気を感じた。

 ライラの事はどうでもいい、それよりも集中しなければならない。

 僕は残り1本取られると終わってしまうのだから。

 こんなところで簡単に負けるものかと、その場で軽くジャンプして気合いを入れ直す。


 「では、2回戦はじめ!」


 またしてもライラは動かない。

 これは誘導だ、下手に踏み込むなよ、もう後がないんだからと自分に言い聞かせる。

 深呼吸し、冷静を努める。

 ライラの腕を注視しながらすり足で進み、次は力任せに振りかぶるのではなく無駄な動作をせず最小限に頭打ち込む。

 そうする事で打ち込みの速さが上がるのだが、最小限の打ち込みだと威力が弱くなっていたようで、ライラは先ほど同様に木刀を上げ受け止める。

 最小限の打ち込みでも僕の一振りは魔法無しで、簡単に受け止められるはずがないんだが! どう止めたんだよ...。

 僕の一振りを受け止めていた、木刀から力が抜ける。

 相手の木刀は斜めに下ろされる。狙いは僕の右胴だった。

 剣戟けんげきのやりとりはライラの方が1枚も2枚も上手うわてである。

 素人の僕がライラに勝てるところは反応速度と体が強靭なところだけだ。

 剣筋が辛うじに見えた僕は、体を後ろに引き紙一重ところで回避する。

 ライラはこれで手を止めず、左足で地面を蹴り、木刀を大きく振りかぶり追撃してくる。

 面が来ると思い、頭上に木刀を構えるが、ライラは振り降ろすのではなく、中段に構え直す。


 「あっまずい! 誘導された!」


 あ...終わった——。

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