第17話 シノの家臣ライラ

 手に彼女の温もりを感じながら頬をほころばせていたが一瞬にして硬直する。

 目の前に突如大きな城が現れたからだ。いや、現れたと言うよりは自ら来たが正しいのだが、テレポートが初めての体験の僕には城が突如現れたようにしか思えなかった。

 思わぬ現象に口角の筋肉が緩みだし、ポカーンとだらしなく口が開いてしまう。


 「何ボケーとしている、行くぞ」


 シノの一言で我に返り口を引き締め直す。

 手を引かれながら鉄格子の門の前に進む。門はしっかりとしており、見上げるほどの大きさだ。

 そして、城は石塀かコンクリート塀で囲まれており、塀の端は全く見えず、物凄く敷地が広い。


 「色々でかすぎだろう!」


 僕の驚愕の声と同時に門が開き、いつのまにか門の先に人がいた。

 その者は早足で真っ黒な燕尾服の裾をはためかせながら近づいてくる。

 身長は180センチ程あり、体型はすらっとしており、イケてるおじさんという印象だった。。

シノが横で「ライラ」と呟く。

 シノの前に着いたライラは手を震わせ、真っ青な顔で声音を荒げて言っていた。


 「お嬢様! 何をしたか分かっているのですか? こ、こんなただの人間と結婚なんて! 品格が下がってしまいます!」


 ん? 僕の聞き間違いか結婚って聞こえたが...?


 「う、煩いぞ、ライラ。これは私が決めたことだ」


 シノは狼狽うろたえるえているのかまごまご話す。

 状況についていけない僕は、口を挟むのは悪いと思うが、恐る恐るへりくだりながら2人に質問する。


 「あのー、今結婚て聞こえたんだけど。どういうこと?」


 ライラと呼ばれる人は僕を一瞥して、僕の質問には答えずシノと話しを続ける。


 「お嬢様がお決めになった事は尊重してきましたが、今回だけは断じて認めません。こんな、凡俗の人間との結婚は絶対に反対です! 見た目も魔力もパットしない人間なんかと......そもそも何故人間が生きている!」


 一驚な面持ちでいるライラは、僕を目の前にしてよくこんなにも悪口が言えるものだ。

 それに、結婚ってなんだよ。気になるが口を挟んだところでまた無視されるに違いない。だから、グッと堪える。


 「たしかに見た目は凡俗だし、取り柄など無さそう見えるが凡俗などではない!」


 "見た目平凡"、"取り柄無しに見える"、フォローしているつもりだろうがこれらの言葉が心臓にぐさりと刺さる。


 「大輔は命をかけて私を守ってくれた。あの鬱陶しかったグレーモスから守ってくれたのだ」


 シノが真剣な眼差しでライラに僕のことを伝える姿を見て、恥かしさと嬉しさがこみ上げて来る。


 「嘘はおやめください。ただの人間がグレーモスを倒せる強さを持っている訳がない」


 呆れ加減にお手上げのポーズをしながら、被りを振るライラ。


 「嘘などてはない、私が嘘をつくとでも?」


 畏怖させる程の眼力でライラに訴える。ライラはシノの威圧により後ずさりをするものの気後れせずに言う。


 「お嬢様は嘘を付いていないのかもせれませんが、お嬢様が何らかの魔法で操られている可能性があります」


 シノは呆れきった様子でため息をつき、腕を組む。


 「この分からずやめ! 私が簡単に操られるものか」


 僕とライラを交互に見て、「まったく仕方ないな」と前置きを言い、一つ提案しだす。


 「大輔と決闘してもらう。これで大輔の強さが証明できるはずだ」


 「お嬢様がそう仰るなら良いですとも。しかし...」


 ライラの僕を馬鹿にした目が気に食わない。が、死闘をしたばかりだからもう、戦いなどしたくない。

 勝負を断ろとしたその時、シノに視線を離さず、ライラは僕に右手のひらを上にし、揃われた指先を僕にむけながら侮辱してきた。


 「こんな凡俗に負けるなどありえないです。恐れ入りますがお嬢様もう一度申します。こんな人間と結婚などお嬢様の恥しかありません」


 血の気が湧いてきて激昂しかけた僕より早く、シノはライラに憤怒する。


 「ライラ、これ以上大輔の侮辱は許さない! 大輔は強いわ。ライラでさえ勝てないわ...!」


 「僕はこの勝負受けるよ」


 シノが僕を想い、信頼した言葉が嬉しく、流石にここまで言われると腹の虫が収まらない。だから、勝負を受ける。

 

 苦り切った顔からすとーんと表情がなくなり、冷ややかな視線が僕に向けられ、その視線にぞっとした。


 「そこまでお嬢様が認める存在か勝負で決めます。わたくしが勝った場合はこの人間との結婚を破棄してもらいます。しかし、考えたくもありませんが、万が一わたくしが負けるようであれば結婚を認め、侮辱した事を謝罪しましょう」


 「分かった。勝負の内容は私が考えたもので行う。いいな」


 「承知しました」


 「分かった」


 組んでいた腕を解き、頷く。


 「私が用意する木刀を使い、先に2ポイント取った者が勝ちとする。打撃ポイントは頭と胴とし、かすったぐらいではポイントにならないからしっかりと一撃を大切にしろ。後、魔法の使用は禁止する。また、気絶した者は敗北者とする」


 魔法無しなら僕の方が有利なんじゃないかと思いつつもそれは口にしない。

 ルールからして元の世界の剣道みたいなものだろう。僕とライラはシノが決めたルールを受け入れた。

 シノは城に目線をやる。


 「ここではまずいから少し移動する。ついてこい」


 シノが塀に沿って歩き出し、すぐにライラもついていき、隣に並び、僕はその後ろをついていく。

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