第4話 優しき魔王
すぐに返答があると思っていたがなかなかなく、僕の質問の返答にあぐねているようで唇が小刻みに動くだけで言葉がなかった、。約3秒後、彼女の口が開いた。
「私の城に来た男が持っていた。そいつから奪った。その男が書いたのかもしれんし、拾っただけかもしれん。ただ確証はないが男は人間ぽかったが人間より強かった。つまり人間ではない。だから、そいつが書いた可能性は低い......」
彼女の発言からして手記を書いた者が分からないようだ。分からないなら分からないとすぐに答えればいいのにどうして、返答までに時間が3秒かかったのか訝しむも、手記を書いた主が分からない事に落胆し、どうでもよくなる。
意気消沈したままついで感で2つ目の疑問を吐き出す。
「聞きたいことがあるんだけど、手記を持っていた男が人間より強かった発言や 人間はいないと言うけども、どうみたってあなたは人間だよね?」
彼女の眉間に皺が寄り始め、服の上からでも分かる豊か胸に左手を添えながら苛立ちまぎれの声音となる。
「人間は記憶力が乏しいみたいね。始めに言ったわよね。私は気高く優美で気品溢れる吸血の王、ユニヴァースだと」
僕は彼女の鋭く冷ややかな視線に後ずさりしてしまう。
思い返せば確かに吸血の王と言っていた気がする。
ここに来てからの情報量の多さで脳がパンクしてしまい、所々曖昧にしか聞けていなかった。
改めて目の前にいる彼女がとんでもない存在だと認識する。だが、どうしても吸血鬼とは信じられない。
見た目はまるで人間で普通の美人な女性にしか見えない。それも愛しの彼女に瓜2つで可愛らしい。
見惚れていると彼女は咳払いをして口を開く。
「まあ、君が私を人間だと捉えても仕方ない。元より人間よりな身体であるからな」
彼女は思い出したかのように、そしてついでだとばかりに言葉を続ける。
「君にはこの世界の王について軽く教えておこう。この世界には6人の魔王が存在し、吸血王、巨人王、鬼人王、白狼王、龍王、アンデット王が存在する」
魔王が6人もいる事が驚きである。そして目の前にいる彼女が魔王の1人——。
あれ? 本当に凄い存在が目の前にいることになるんですけど。
魔王ってことは誰かを虐げ、暴力で街を統治するイメージがあるが、彼女からはそういった事をするように思えなかった。
「その中の吸血王があなたであると理解したよ。で、魔王って何するの?」
「...そうね、魔王は国を持ち、その国の民を脅威から守り、民の象徴たる存在かな。しかし今の私は魔王とは程遠いの...。君に言っても意味ないけど愚痴る形で済まない。はあ...手記を持って来た男に力を奪われてしまってから、弱い私から民が離れた。もう本来は魔王とは言えないわ。でも魔王であったプライドが捨てられないのよ。だから、君にも見えを張ってしまったのよ」
憂いの色が彼女の表情に現れ、何て声を掛けていいか悩んでしまう。
誇りだったはずの魔王の立場が奪われ、辛い事だっただろう。
まさか手記を持っていた人が悪い奴とは。許せない、優しい魔王から力を奪った奴を責めたい。
でも僕には何もできない。異能な力も権力もないただの人間なのだから。
「...力を取り戻す方法はないの? もしかしたら手記に手がかり書かれているんじゃない?」
「そんな悲しそうな顔をするなよ。君は優しいんだね。力を奪った男が持っていた手記にはもしかしたら力を取り戻す方法が書いてあるかもしれない。だがねここに書かれている字はこの世界のではないから辛うじで少し読めただけで全てを読めたわけではない」
「そっか...」
冷たい風が吹き荒れ、反射的にスクールパンツのポケットに手を突っ込んでいた。
こんな時に手を入れるのは失礼だと思い、直ぐさま手を出すと、1枚の紙がポケットから滑り落ちる。
その紙は風に揺られ彼女の足元に落ち、それを彼女が拾い上げる。
「あっそれは!」
告白のためにせっかく書いたのに無意味に終わってしまった告白の言葉が綴られている切れ端だ。
恥ずかしさで顔が熱い。赤面しているに違いない。そんな顔を隠すために両手で覆い隠す。
彼女は絶対に小馬鹿にして笑う...。そう、思っていた。が、予想外の言葉を耳にする。
「手記と似た字だな。これをどこで手に入れた?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます