第3話 日本を知る者
せっかく勇気を振り絞って好きな人に告白しようとしただけなのに異世界にいるなんて可笑しいだろう。がくりと肩を落とす。
どうやって元の世界に帰ればいいのか。そもそも戻れるのだろうか。いやいやまてまだ異世界に来たと決まった訳ではない。彼女だけが可笑しいのかもしれない。
それに、これは夢かもしれない。異世界なんて本当にあるわけない。
現実逃避のための言い訳の思案に暮れていると彼女は振り返る。
「君は東京から来たと言ったな」
眉をひそめつつ彼女は僕に確認してくる。
「うん」と頷く。
「日本って国は知っているか?」
「えっ! うっうん。知っているよ...! 日本の都市が東京なんだよ」
彼女の口から日本という言葉を耳にするとは思わず動揺してしまった。
彼女は僕の動揺を気にせず言葉を続ける。
「首都? よく分からないが1つ分かった。よく聞け君はこの世界に迷い込んだ。君にとってはここは異世界だ」
彼女の言葉で半信半疑だったが異世界説を認めざる得なくなった。もう決定的であった。異世界でと言われてしまえばやはりそうだと納得せざる得ない。
いや、まてまだ夢の可能性が...。
「異世界ねなるほど、これは夢だよね?」
僕の発言にこいつ頭大丈夫かよと悪い方の心配げな表情を向けてくる。
「夢ね...。不合理な状況から逃げたくなるのは分かるわ。でもこれは現実よ。試しに自分の頬でもつねって見れば?」
僕は彼女に言われて通り、右頬を親指と人差し指で摘んでつねってみる。
「うぅぅ痛い......夢じゃない」
夢でもないと理解した僕はもっと恐怖に襲われると思っていたが冷静だった。
「ここが夢の世界でもなく、現実で日本じゃないのも分かった...。ここは何て言う場所なの?」
「オルディア地表にある偽りの森、その森の中心部にあたるところかしらね」
彼女は悠々と答える。
「そっか、まあ日本じゃないから分からないや。よく僕が異世界から来たって思ったね」
異世界から来たって考えに至った彼女の考えを知りたかった。普通は異世界から来たなんて思わなだろう。頭可笑しい妄言野郎と僕なら思う。
腕を組みながらまあ、と前置きして彼女は話しだす。
「可笑しいなと思ったのは君が人間だって事だ。この世界にはもう人間がいるはずがないんだよ。下等な生物だったから何百年も前に姿を消している」
人間は下等で、もういないだと? でも僕の目の前にいるのは人間ではないのか? 僕が口を開く隙を与えず彼女は言葉を続ける。
「それだけではない、私は3年前手記を手に入れてな。それはこの世界の字で書かれた手記ではなかった。別の世界の物と判断したわ。その手記の数行を読み解く事ができただけだけど、そこに私の記憶では日本と書かれていた気がしたの。だから先ほど家臣に調べてもらったわ。私の記憶通り日本と言う言葉が書かれていた。そして日本を知っているかと聞いたら君が反応したから、異世界からの来訪者だと結論に至ったわけよ」
彼女は組んでいた腕を解き、邪魔なのか風になびく綺麗な前髪を右耳にかける。
その仕草に釘付けになりながら、なるほど、彼女が先程までブツブツと何か言っていたのは家来に確認していたのかと納得する。
スマホもなくどうやって通話していたんだ。...謎だ。だが、そんな事よりも2つ彼女の発言の確認をする必要がある。
1つ目、手記だけが見つかったと言うことは、手記持ち主はもうこの世界にいない可能性が高い。つまり日本に戻っているか、死んでいるか。
死んだのではなく、日本に戻ったのならば、その人がいた場所に日本に戻るヒントがあるかもしれない。
「なるほどね、それで僕が日本から来たって考えたってわけね。その考えのきっかけになったその手記はどこで手に入れたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます