第2話 日本とは違う世界

 振られるのは覚悟していたから付き合えませんとかの否定ならまだ精神に余裕はあった。が、彼女が発した言葉は僕の胸をえぐり、息もできなくなるぐらいダメージを与えた。

 やべー涙が出そう......。

 想定外の悲しみで頭を上げることも指を動かすこともできない。

 確かに同じクラスでは無かったけど、それなりには関わってきた筈だ。

 そうか...彼女にとって僕は興味のない存在だったのか。ショックのあまり硬直していた力は抜け、地面にしゃがみ込んでしまう。

 その動作により、脳に柔軟さが戻り少し冷静になれた。

 そう言えばさっき僕に気づいて手を振ってくれていたではないか。僕の事を知らないなんてありえない!

 この不安な心を解消するため見上げると視界に映つるのは僕が知っている彼女だった......?

 いや、違う。よく見ると顔は同じだが、髪は彼女より短く肩に毛先が届く程度で薄っすらとブラウン色が掛かっている。そしてトレンチワンピースを身につけている。

 なんて美しい...じゃなくて見た目は彼女なのに別人である。

 あれ? 彼女に姉妹はいたかな?

 記憶が正しければいなかった筈。なら目の前にいるのは誰だろうか。

 立ち上がると同時に一歩身を引き、戸惑いつつ彼女と同じ質問をしてしまう。


 「あなたはだれ?」


 この言葉が気に障ったのか彼女は眉をひそめ不快感を表しながら口を開く。


 「この私を知らないとはどういうことだ。気高く優美で気品溢れる吸血の王、ユヴァースを知らないだと!」


 聞いたのは良いが、無題紹介が長く、戸惑いすぎていたので全ての言葉が脳まで確実に届いていなかった僕は脳に届いたのユニヴァースと言う彼女の名前のみだった。

 彼女から視線を外すと、僕の目に異様な景色が映った。

 先ほどまで確かにあった学校が無くなり、見渡す限りあった背が高い建物がなり、あるのは緑に生い茂る樹々だけ。

 彼女に視線を戻そうとすると、ゆういつ見覚えがあるのが樹が彼女の後ろにあるのを見つけた。

 学校にある木と同じ? んー似ているだけかな?

 でも、枝に赤い斑点模様を浮かべている樹はそうそうないよな。


 「私を前にして考え事とはいい度胸だな」


 彼女の発言に応えることなく状況を思考している僕に更に気を悪くしたのか唇を尖らせる。


 「ごめん、考え事していた。悪いけど君のことは知らないよ」


 「...君は本気で言っているのか? 今の私を認めていないから挑発的な発言をしている...いや、そのようには見えない...君はいったいどんな辺境な場所からきた?」


 唇を尖らせ怒っていた彼女は唇が半開きにして、首を少し曲げながら頤に親指と人差し指を添えながら聞いてくる。


 「どこから来たって...そりゃ東京だよ。生まれてこの方東京に住んでいる」


 「どこかで聞いた事があるような。そこはどんな村なんだ?」


 東京がピンと来ないとはここは日本ではないのか? 異世界...まさかね...。

 彼女の発言から様々なことを確認したいが、応えないとまた機嫌が悪くなりそうなので、今は彼女の質問に応える。

 東京には大きなビルが建ち並んでいて、そこには幾万の人が住んでいるとざっくりと、身振りを用いて説明した。

 すると彼女は 怪訝そうに質問を続ける。


 「ビルとはなんだ? それにそんなに人がいるなら私が認知していないはずがない」


 ビルを知らないとは驚愕である。確かに見渡した限りビルは確認できないがこの場所に無いだけと思っていた。

 が、本格的に彼女の発言からして異世界に来てしまった可能性が高まる。そんな事を頭の片隅で考えながら質問を手短に返す。


 「ビルとは高い建物のこと。そこでは人が働いたり、暮らしたりしているんだ...」


 「そっか...やはり聞いても分からんな。そこにはどんな魔物が住んでいるんだ?」


 「まっ! 魔物? ...そんなのはいないよ。もしかしたらいるかもしれないが僕は見たことがない。いるのは人間だけ」


 魔物とか理解できない質問に困惑しながら応えると彼女は難しい顔をする。


 「魔物を見たことがないだと。それに人間だと! 亜人だと思っていたが違うのか?」


 「亜人って人間の姿に似た怪異のことでしょ? 僕は正真正銘ただの人間だけど」


 彼女は目大きく見開く。


 「人間の生き残りがいるとは...。ありえん、この世界にいるはずがない。まさか...」


 思い当たる節があるのか確認するから少し待っていろと僕に命令し、後ろを向き誰かと話しているようだ。

 そんな彼女の背中を見ながら考え事をする。

 東京を知らない、ビルも知らない、人間がこの世界にはいない発言。これは認めたくないが、脳裏にはある結論が浮かんでくる。

 それを僕は口の中で呟く。


 「異世界にきてしまった...」

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