第1話 君はだれ

 青春真っ最中の高校生の僕には今日やらなければならないことがある。それは想いを寄せる彼女に告白することだ。いやー青春ですわ。

 教室の教壇の上にある時計を目にすると15時を過ぎていた。もうすぐで授業が終わる。放課後告白すると決めている。

 もう彼女には校庭にある木の下で待っていて欲しいと伝えてある。

 視線を下げると、教壇で物理の先生が月と地球とでは重力が違うと説明し、重力加速度の求め方などの数式を黒板に書き並べていた。

 先生には悪いがこの後の告白で頭がいっぱいで聞いていられずはずがなく上の空になる。いつもはしっかり先生の話は聞いて、ノートもしっかり取っているよ。誰かに言い聞かせるわけでもなく心の中で呟く。

 おっとこんな呟きは時間の無駄だ。僕には考えなければならないことがあるんだから。ノートに黒板に書かれた数式を書き写すのではなく彼女への告白の言葉をノートに書き上げ、そこから言葉を真剣に選ぶ。

 悩みに悩みこの言葉にしようと決めて、告白文が綴られている箇所を破り、ポケットにしまうと同時に授業が終わり、チャイムが鳴る。

 その音はいつも聞き慣れているので普通ならなんとも感じないが、今この時だけは僕の心臓を高鳴らせる効果があるようだ。

 残すはホームルームのみで短いはずのホームルームがやけに長く感じてしまう。いや、いつもより長いかもしれない。

 他の教室ではホームルームは終わり、帰宅やら部活やらで教室を後にしていく姿が確認できる。

 彼女のクラスはここから確認できないので確信は無いが、もう指定の場所に向かっている気がする。

 彼女を待たせてはいけないという思いが気持を逸らせる。

 周りのクラスより数分遅れでホームルームが終わる。僕は素早く帰りの支度を済ませ、バッグを右肩に掛け、早足で待ち合わせの場所へ向かう。



 *



 この櫟学園には元旧校舎があり今はない。今なき旧校舎の裏庭にあるまばらに赤みを帯びている木の下で告白すればどんな相手でも落とせるという言い伝えがある。その効果に便乗しそこを指定したが少し心配であった。

 彼女もこの言い伝えを知らないはずがない。ここに呼ばれたということは告白だと感づくだろう。嫌なら何らかの理由をこじつけて、逃げてしまうかもしれない。

 そんな心配を胸に秘めながら待ち合わせの裏庭に向かうがそんな心配はいらなかったようだ。

 遠くの方で木の下で肩まで伸びる黒髪を風になびかせている彼女を確認する。

 告白だとわかっていて逃げないでいてくれて嬉しい。もしかしたら、この木下で告白したら本当に付き合えるかも知れない。

 期待を胸に僕は彼女の元へゆっくりと近く。

 彼女は僕に気づいたのか、ぎごちなく小さく手を振る。目線が合うも緊張のあまり、目線を下に向けてしまう。

 彼女を直視が出来なく、自分の足先に目をやりながら前に進む。心臓がどきどきする。

 それだけではなく緊張のし過ぎか視界が歪みだし、地面が真っ黒に...。変だと思い立ち止まり少し長めの瞬きをしてみる。


 「ん? ...気のせいか」


 目を開けると地面に変わったところが見られなかったので緊張による目眩かと思い特に気にせずに彼女の足元に向かう。

 目を瞑りながら深呼吸して、腰を深々と折る。そして、右手を差し出し、授業中に考えていた告白の言葉を口にしようとする。が、頭が真っ白になり出てこない。

 思考停止した脳からでは考えて考え抜いた告白の言葉は浮かぶ筈がなく、あまりにも単調な言葉となって吐き出された。


 「好きです。付き合ってください!」


 彼女からの反応が無く、暫し沈黙が続く。

 こんなにも長い沈黙は返答に困っているからなるものだ。ぐさりと心臓に鋭い何かがいくつも突き刺さる。振られる時の精神ダメージはこんなにも大きいのか。まだ、返答を貰っていないが僕は振られる覚悟をする。だが、そんな僕の覚悟をよく耳にした声で粉砕させる。


 「突然何を言っている。君は誰だ?」

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