第5話 巨人族から死の宣告を

  顔を覆い隠していた両手を離すと彼女は真剣な顔つきをしていた。

 子馬鹿にしいるように感じられないので本当に読めないようである。良かったと安堵する。


 「手に入れたも何も僕の世界で僕が書いたもの」


 説明すると彼女は驚愕し、彼女は言う。


 「もしかして君なら...君なら手記を読めるかもしれない」


 「へ!?」


 僕は思っていたよりも甲高い声音が出ていた。

 うわずってしまった僕の声など気にもせず彼女は驚嘆に満ちた表情から朗らかな表情をする。


 「君に期待している。もし、読み解く事ができ、力を取り戻したあかつきには君の願いを何でも聞いてあげよう」


 「何でもだと!」


 それだったらと左腕に右肘をつき邪な思案する。

 そうだな...手を繋ぎ...キスを...ダメだ! 好きな子に似ているからつい願望が、落ち着け。そういうのは好きな人と合意のもと行うべきである、もっとありふれた。嬉しいお願いを考えるんだ。

 小さく息を吐き、吐いた以上に空気を吸う。

 完璧と言える彼女のボディーラインを矯めつ眇めつ眺める。

 即、僕はありふれた事をお願いするのはもったいないと考えを改める。やはり、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。視線を顔に移すし、柔らかな唇に目が止まる。馬鹿野郎! 接吻は流石にしてはいけない。これは好きなあの子とするんだ。

 別の思考をする。僕の最近のトレンドは裸エプロン...けれどもこれだと過激過ぎて気が引ける。そうだな、もう少し抑えて、下着エプロンならいいだろう。

 長考の末、導きだしたゲスい断案を魔王に対して頼もうと口を開きかけた時、突然に彼女が手を繋いできたのでまたしても声が裏返ってしまった。


 「へェェェ!」


 まさか、一番最初に思いついた邪な一部が直ぐに叶うとは。


 「いつまで考えている、願い事は後で城に戻ってから聞くとしよう。テレポートの準備に取り掛かる」


 彼女は僕に背を向け、グイッと力強く腕を引っ張りながら進む。

 繋いでいる彼女の手は温かく、背中からは安心感が溢れてくる。僕の意中の彼女に似ているからだろうか。

 この手が魔王ではなく元の世界にいる彼女だったらもっと嬉しいのにと、少し残念な気持ちもある。

 そう言えば、彼女が持っている手記に日本と書かれていると言われた時点で日本語で書かれている可能性が高いと考えるべきであった。

 が、自分から手記が読めるかもと提案するとご褒美がもらえなかった気がするので手記が読めると考えが浮かばなかった僕ナイスである。

 心中で自信を褒めているとと突如、上空から大きな物体が目の前に落下してきた。

 その衝突の勢いは地面は抉り、あたりに砂ぼこりを撒き散らす。それだけではなく謎の物体の落下による振動が僕等を襲う。

 僕はバランスが崩れそうになるのを必死に耐えるが、彼女はバランスを崩してしまい背中から僕へ倒れこむ。僕は彼女の体を優しく受け止める。


 「な、なんだ!」


 砂ぼこりが舞う中、大きな物体がゆらゆらと動き出す。そして、怒気を孕んだドスの効いた声音が僕に向けられる。


 「おい! 貴様は易々と貴女の手を握るだけではなく、体に触れるとは万死に値する」


 握っていた彼女の手に力が入る。


 砂ぼこりが晴れると成人男性が腕を横に広げた程の横幅と、身長が10メートル以上はある巨人の姿がそこにあった。


「でかすぎる。この世界の住人はこんなにも大きいのか?!」


 驚愕している僕に彼女は説明する。


「奴は巨人族であり、その中で第3位の実力を持つグレーモスだ」


 彼女から手を離し、左の掌に右拳を打ち付けて、納得する仕草を無意識にする。


「なるほど巨人族だからこんなにもでかいのか...って感心している場合では無い!」

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