第6話 少年の覚悟

 まったく彼女と手を繋いでいただけで、意図せずに体に触れしまっただけなのに殺すとかどんだけ横暴なんだか。


 「奴は私に気があるらしく、断っても懲りずに何度も何度も鬱陶しい程に私に告白してくるのだ。手を繋いでいるのを見たら逆上するだろうな」


 彼女はグレーモスの鋭い殺気の意味をため息交じりに説明する。


 「なるほど...これ僕が絶対に殺される流れだよね」


 現に「殺す」と息巻きながら大きな足取りで一歩一歩と近づいてくる。距離が詰められる毎に体の大きさに圧迫感を覚える。 

 そんなグレーモスから目を離さず彼女に1つの疑問を尋ねる。


 「そもそも、何でグレーモスはここに来た?」


 「知らん!」


 彼女も分からないようだが、偶然にここにきたわけではなさそうだな。諦めがくそ悪く、しつこい男ならば彼女を付けていたに違いない。


 「そうですか。あー今日はついてない。何て日なんだろうか!」


 突然異世界に来たり、理不尽に殺されかけたりと散々な日である。可能性が低く意味がなさそうだがか彼女と手を繋いでいた訳を説明して怒りを鎮めるしかない。

 苦笑いを浮かべつつ一歩を踏み出し、何とかこの場を納めようと試みる。


 「あのーあなたは勘違いしています。僕らは恋人でもなんでもありません。手を繋いでいた理由がありますので話を聞いてください」


 平和的解決の試みは失敗のようだ。 


 「関係ない。どんな理由があろうが手を繋いでいる時点で殺す」


 声音は荒げていないので、自我がなくなっているほど怒り狂っている訳ではなさそうだが話し合いは無理そうだ。

 後、二歩で僕に拳が届く距離となる。

 距離が縮まったことで大きな体以外にも身につけている物が目に入る。それは1つ1つが規格外に大きく、両耳に付いているピアスがゆらゆら揺れ一際目立っていた。

 それは胴部が滑らかに内側に反った円筒形となっており、頭部に花の蕾のようなものが付いている形をしている。

 観察するよりもこの危機的状況をどうするか考えなければならない。まあ、結論は出ている。


 「よし!」と意気込む訳ではないが声を出し、半身になって、肩越しに振り返り彼女に提案する。


 「テレポートで逃げよう」


 彼女は被りを振り、彼女の口から予想外の言葉を聞く。


 「私はテレポート使いではないから直ぐに準備ができない。時間かせぐから君だけでも逃げてくれ」


 そう言いながら僕を守るためにか僕より数歩前に出る。その勇ましい背中に疑問と自身をダサくさせてしまうような言葉を言ってしまう。


 「テレポート使い? 何かの装置があってさ、ボタン押せば目的の場所に一瞬で移動できるんじゃないのかよ。...やばいこのままでは僕らは殺される」


 ...そして彼女は連れて行かれる。僕は怖いし、格好悪いしできるならこのまま逃げたい。でも僕の足は動かなかった。恐怖で足が動かなかったのではない。

 女性に守られ、背を向けては逃げれなかった。男が腐ってしまう——。

 いや違うな、仮に彼女が男でも僕の足は逃げるために動かさない。この状況から逃げなかった理由それは、赤の他人である僕なんかを守る人を置いてはいけない。

 全く、目の前の彼女は赤の他人を守ろうとする好きな子にそっくりだ。

 覚悟を決めるんだ僕!

 臆病になる自分に喝を入れるために両頬を同時に手のひらでパチンと叩き、大きく息を吸う。格好悪いはここで卒業だ。

 彼女を守る!

 覚悟を決めた僕は彼女の腕を掴み、僕に引きつける。

 意気込んで肺に溜めていた空気を力強い言葉にして吐きだす。


  

 「僕は逃げない! 絶対に君を守ってみせる!!」 


 「馬鹿...! 死にたいのか。私ができる限り時間を稼ぐから逃げろ!!」


  僕の手を解こうとする彼女。だが僕は離さなかった。

  前にでつつ背後に彼女を誘導する。そして僕は巨人と対面する。


  「やっぱり身長差ありすぎ...」


  鋭い眼光と目が合った瞬間、有無も言わさず右横から拳が飛んでくる。

  いきなりだったために反応が遅れ、右肩に掛けているスクールバッグごと上半身に拳が食い込む。


  「え...? ふうう!」


  森の奥まで吹き飛ばされていき木の幹に背中から激突し、地面に前から倒れこむ。


 

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