第12話 グレーモスの怒り

 僕はグレーモスの怒り狂う言葉の中で気になるところがあった。だから興味本意で聞いた。


 「なあ、さっきから魔法とか言ってるけどこの世界には魔法があるのか? ...そっか、テレポートは魔法か。特別な装置でテレポートしているかと思っていたよ。そうだなせっかくなら、魔法見てみたいな!」


 この何気ない一言がグレーモスの怒りを買ったのか、殺気立った顔つきになる。


「いいだろう乗ってやるよ、その挑発に! 後悔するが良い。俺の魔法で貴様を跡型もなくチリにしてくれよう!」


 グレーモスの両手の手首までがいびつに、緑色に輝き出していく。しばらくすると歪だった光はだんだんと安定していき手に薄く覆う。

 まるで、緑に光る手袋をしているみたいだ。

 さらに両手の周囲を風のようなもので、囲まれている。


 「逃げろ! 魔法には魔法でしか対処できない。魔法が使えない君では勝てない」


 「もう遅い——獅子落死ししおどし!」


 彼女が忠告をしてくれたもの反応が遅れてしまい、その場から離れられず、手近で緑に光り輝く拳が斜め上から振り下ろされるのが視覚に映る。

 僕も油断していた。なぜなら魔法に魅入られたから。

 かろうじに腕は反応でき、両腕をクロスさせ拳を受け止めようと上に上げる。 

 が、先ほどよりも数倍も力がかかる。どうやら、手に纏う風が腕の方へ噴射されているようで、それにより推進力得ているようだ。

 ただでさえ、風の噴射力で腕を持っていかれそうになるのに、拳の周囲に吹き荒れる風のせいで両腕が弾かれてしまう。

 守りを失った僕の顔面に、いや全身にグレーモスの拳が食い込んでくる。耐えようと努力したが、拳ごと地面に叩き潰される。


 「ごっふっ!」


 地面に頬をめり込ませていた。


 「痛いんですけど、体中がジンジンする。痛いんですけど!」


 確かに。先程より威力とスピードが上がったようだ。すげー痛いし、死ぬかと思ったでも、この一撃を食らっても僕は死ななかった。

 叫ぶ余裕さえあれば思考する余裕さえある。

 だが、これを受け続ければダメージが蓄積し、いつかは倒れてしまう。

 魔法さえ使えればこの危機的状況を打破できるのだが...。

 この世界にきただけのただの人間だから僕は魔法使えないんだろうな。

 だから、愚痴が溢れてしまう。


 「僕も魔法が使えたらいいのにな...」


 「ありえん...この拳を食らって生きているなんてありえん...!」


 僕のこぼした愚痴はグレーモスの耳に届いていなかったらしい。

 それもそうか、渾身の一撃を食らって口がきけるほど余裕がある僕みたいのがいたら、驚愕はするだろうな。 

 グレーモスの立場なら僕も間違いなく驚愕している。

 頬を殴りつけていた巨大な拳はゆっくりと離れていく。

 それに合わせ、僕は頬を摩りながら体を起こす。


 「まあ、僕の身体は頑丈なんだよ。そう焦るなよ。んーでもこれは相当痛かった」


  僕の一言でグレーモスは信じられないものを見ているような表情から一転し、顔に青筋を立てて、激昂する。

 

 「痛かった? はぁ? 痛かっただと! ふっふざけるなあああああ!」


 怒り狂っているグレーモスは正直怖かった。けれども我を失っている今が絶好の反撃の機、これを逃したら後がないと考え、両足で地面を力強く蹴り、握り拳を作っている右手を突き出しながら、相手の顎めがけて飛び込む。

 躯体が10メートル以上あろうが僕なら軽々飛べる。

 

 「...なっ! 嘘でしょ...」


 顎まで届く飛躍をしてみせたが、顎に打ち込んだ一撃は右手のひらであっさり受け止められていた。

 大きな双眼が下に動き僕を捉える。


 「俺は貴様に本気を出すことにした」

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