第8話 聞こえるはずのない声
「死ねって...あれ? 僕生きている 」
上体を起こし地面に座り込み、目視と全身を両手で触れながら自身の状態を確認する。
...なんと怪我1つしておらず、服も無事であった。
半身になって、肩越しに後ろを見ると木の幹はぶつかった衝撃で砕けていた。
体格差が7倍以上あり、そんな奴の拳を受ければ、複雑骨折や臓器破裂をして死んでいても可笑しくない。なのに痛みさえ感じなかった。
前に振り返り、空を仰ぐ。
「それはなぜだ? もしかして僕無意識に魔法を使ったのかな。ほら異世界って言ったら魔法じゃん。僕魔法使ったんだ...」
僕は被りを振る。直ぐにこの考えを改めた。
この世界に魔物がいてもそいつらの特有な力はあっても、魔法があるか定かではない。
仮にこの世界に魔法があったとしても異世界に突如きて魔法が使えて俺最強みたいなのは物語の中だけだ。だから——。
「魔法ではないはず...」
目線を下ろすとスクールバッグの中身、教科書や筆箱らが散乱している事に気付く。
さすがに中身は粉々になっていると思いながら手に届く範囲にある筆箱を手に取る。
ペンケースのファスナーを開け、ケースの口を下に向け、中身を無造作に出す。
「嘘だろう。シャーペンは折れていなければ、定規も折れてない。ありえない!」
スクールバッグには相当な力がかかっていたはずである。なのに中身が無事なのは信じられなかた。
額を右手の指先で触れ、この状況を再度確認した。
僕は巨大な拳を受け、痛みもなく、五体満足でピンピンしている。
そして、文具も折れておらず、無事。
この世界は僕に有利な世界。この世界の住人よりも、体が強靭で、物質も頑丈。もしかして奴に勝てるのでは......。
「うん?!」
ここから彼女の声など聞こえるはずがない。
彼女とは距離が離れ、姿は見えず、話し声すら聞こえないのに苦々しく悲鳴に近い声が聞こえた気がした。
立ち上がり、彼女の元へ駆け足で向かうと、今にも彼女が奴に連れていかれそうになっている。
「嫌がっている彼女を無理やり連れて行こうとするなんて、僕はお前を許さない!」
両拳に力を込めて、大きく息を吸い肺にこれでもかと空気を入れ、一気に吐き出す。
よし、と意気込んだ途端聞こえる筈がないがやはり聞こえた。彼女の心から「たすけて」と助けを求める声が。
「今助ける!」
確信はないが今の僕なら、グレーモスとの距離約50メートル。この距離なら、3・2・1スッテプで行ける筈。
足に力を入れ、グレーモスにめがけて左足で蹴り込もうとしたその瞬間、突如に小さな光が僕の目の前に現れ、僕の胸元へ吸い込まれるように消えた。
「埃か。そんな事よりも彼女が危ない!」
僕は再び両足に力を入れ右足で地面を蹴り、1ステップ、2ステップ、3ステップで本当に距離約を詰める。
脚に力を入れ上手く、2人の間で止まる。そしてグレーモスの手首を力強く掴む。
彼女までの距離を3ステップで移動できると予想はしていたが、実際体験すると驚愕してしまう。が、驚いている姿を見せては格好がつかないので顔を引きしめ、キメ顔で台詞を言う。
「おい、その汚い手を彼女から離せよ!」
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