第22話 蝶のマーク
獣の鬼とシスターが対峙している中、圭史は澪を庇いながら木の棒を獣の鬼に向けた。
「安心しろ、シスターと俺が必ず守ってやる」
先程の少し意地悪そうな顔が消え去り、頼もしい口調で話す圭史に、澪は少し心臓が高鳴っていた。
「二人とも!もっと下がって!」
シスターがそう言うと、獣の鬼はその爪を使い辺りの木々を薙ぎ払い、シスターを吹き飛ばした。
それを見て、圭史は言われた通り澪を連れて下がると、割れた木の幹に隠れた。
シスターは光の剣で攻撃を受け止めて軽やかに着地すると、腕を上げて獣の鬼の上から容赦なく光の剣を何本も突き刺した。
「グォォォ!」
獣の鬼が唸ると、シスターは十字を切り、祈りながら獣の鬼の脳天に剣を落とした。
「凄い…。」
「当たり前だ、俺のお師匠様だからな」
圭史が笑ってそう言うと、澪は少し元気がなくなった。
…この子はあのシスターが好きなんだった。
そう思いながら自分と美しいシスターを比べてため息をついた。
「どうした?どこか痛いか?」
「別に…大丈夫だ」
「…?」
圭史は不思議に思いながら澪の憂鬱そうな顔を見ていた。
その様子を見守りながら、シスターは獣の鬼の体を調べていた。
すると、何かの紋様のようなモノが額に浮かび上がっているのを見つけた。
…このタイミングで現れるのは、何かおかしい…村の住人達も体に同じマークがありました。調べて見る価値はありそうですね。
「シスター!」
澪と手を繋ぎ手を振る圭史に手を振り返しながら、シスターはそう考えていた。
ただ、村人に澪を見られるのは避けたいと思っていた。
そこでシスターは自身が被っているスカプラリオのように澪にスカーフを被せ、顔の周りを巻いた。
「何か怪しいな泥棒みたいじゃない?シスター…?」
「これでいいんです、今度また泥棒みたいだなんて言ったら私が怒りますからね圭史」
「ちぇ…。」
シスターにそう言われ、わかりやすく落ち込む圭史を見ながら、自身はこんなに感情を表に出した事があまり無い事に澪は気づき、圭史が羨ましいと思った。
…私も、この者達のようになれたら…何か変わるだろうか?
そう思い、澪はシスターが怒ったように自分も怒っているのだとわかるように、頬を膨らませてみた。
すると圭史は、少し笑い、容赦なく澪の膨らんだ頬を指で推してきた。
「プッ!」
「何膨らませてるんだよ」
少し空気の出る音がした。
それをからかいながら、圭史がゲラゲラ笑うと、シスターが鬼の形相で圭史を見下ろした。
「圭史!」
「はーい、すみません」
その様子を見ながら、少し落ち込む澪であった。
✴︎✴︎✴︎
森を抜け集落まで来ると、あのマークがついた村人に出くわした。
しかし村人達には見えていないのか、シスター達がその蝶の家紋のようなマークの事を尋ねると変な顔をされた。
「何言ってるんだい?そんなマークついちゃいないよ」
村人の老人がそう言うと、シスターと圭史は困ったような顔をした。
「どういう事でしょう、困りましたね…。」
シスターはそう言うと、紙に蝶のマークを書き、村人に見せるが、これも何の情報にもならなかった。
「このマークの大きいものを、どこかでみたような…。」
澪がそう言うと、シスターは目の色を変えて澪の両腕を掴んだ。
「どこで!どこで見たんですか!?」
シスターに尋ねられ、澪は思わず体を引きながら答えた。
「塔にいる時…だったような…。」
「そう…あの塔ね」
シスターは何か引っかかっているのか考え込みながら坂道を下って行った。
それについて行きながら、圭史は澪に何か耳打ちした。
「シスターはさ、考え込むと暫くなんて話しかけても上の空だから何かあったら俺に言ってくれ。いつもの事なんだ」
そう言ってシスターを笑いながら見つめる圭史は、どこか大人びて見えた。
「俺はさ、シスターに会う前はいじめられっ子だったんだ。圭史だから毛石ってよく言われてた。だから自分の名前が嫌いだったんだけどシスターがいい名前だって言ってくれたんだ。それで俺は変われた。お前もそうなるよ」
「そう…なのか?」
澪がそう首を傾げると、圭史は澪の背中をバシバシ叩いた。
「お前!上から物を言うよなぁ!悪く言うわけじゃ無いぜ?閉じ込められててもそれくらい強気なら大丈夫だな!」
「そう…か?」
また首を傾げる澪を圭史はバシバシ叩いた。
「何をしているんです!?行きますよ!」
シスターにそう言われ、圭史と澪は慌てて駆けて行った。
そして澪の口元は、いつの間にか笑みをこぼしていた。
✴︎✴︎✴︎
「まだ見つからないのか?」
「申し訳ありません正治様、力を尽くしてはいるのですが…。」
道子はそう頭を下げると、正治の前に震える手で紅茶を置いた。
正治はそれをテーブルから薙ぎ払うと、畳に紅茶と割れたティーカップが散乱した。
「もういい出て行け!」
正治がそう怒鳴ると、道子は他の使用人を引き連れてそそくさと退散した。
それを見届けると、正治は袖についた紅茶を払いながらシャツを脱いだ。
その背中には大きな蝶のマークが浮かび上がっていた。
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