第20話 幼少期
明るい日の差す縁側。
そこでまたひたすらに日向ぼっこをしていた圭史と大貴に、澪もお茶を持ってきて加わった。
「何だか平和だね」
大貴がそうもらすと、圭史と澪も黙って笑いながら肯定した。
そんな春の訪れを待つ三人にやわらかい風が吹くと、澪は幼少期の事を少し思い出していた。
✴︎✴︎✴︎
「どこへ行った!?」
「探せ!まだ近くにいる筈だ!」
ある村の大人達が、必死に誰かを探している。
そんな中、着物を着た小さな澪は、草むらに隠れながら様子を伺っていた。
「行けませんよ澪姫、かくれんぼなんて」
そう言って草むらをかき分け現れた男は荒木正治(アラキ・マサハル)。
澪の保護者兼、監視役だった。
「帰らないといけないか?」
「そうですね、そうしてもらえたら私が助かるのですが…。」
「わかった…。」
澪がそう言うと、正治は澪を抱き上げ、森の奥の塔の方へ歩いて行った。
✴︎✴︎✴︎
「姫!どこに行っていたんです!?」
お婆さんで面倒見役の津田道子(ツダ・ミチコ)がそう言うと、正治の後ろに澪は隠れた。
「まぁまぁ道子さん、とりあえず無事だったんだしいいじゃありませか」
正治が苦笑しながら道子にそう言うと、道子は冷たい目つきで、澪を見下ろした。
「村のみんなに何か言われるのは私達なんですからね!まったく…!」
道子はそう言うと、他の付き人を連れて中へ入って行った。
澪も正治に、厳重に閉ざされた自室へと連れて行かれた。
澪は大貴くらいの頃から鬼化病だった。
この小さな村の村民は鬼を恐れる一方、鬼化病になる美しい者達に神聖さを感じていた。
そのため澪は姫と呼ばれ、立てられた高い和式の塔の中に閉じ込められ、監視されていた。
当時村民で鬼化病なのは澪一人で、しかも側には意地悪な道子と監視役の正治だけだったため、遊び相手はいなかった。
だから澪はいつも一人で、閉ざされた部屋でお手玉や駒を回したりして過ごしていた。
しかし、不憫に思った正治がテレビを澪の部屋に置くと、澪の世界は変わった。
外の世界を澪は知ると、どうしても作りたい物が出来ていた。
友達と恋人だ。
「今日こそ同い年の者に会いたかったのだが…。」
澪は抜け出してすぐに正治に見つかってしまった事に落胆していた。
正治には行動パターンを完全に読まれている。
どう頑張っても正治には捕まってしまうだろう。
「もう正治に友達になってもらうのはどうだろう?」
そんな事を考えていると、塔の近くの森から大きな爆発音が鳴り響いた。
澪は格子の隙間から外を覗き込み、森に倒れ込む大鬼と、その近くに佇む美しいシスターと幼い少年の姿を見た。
「圭史、離れていなさい」
シスターはそう言うと、光の剣のような物を腕から出し、それが重なり合いながら、鬼の上に突き刺さっていくのが見てとれた。
「凄い…。」
澪が格子ごしにそう呟くと、鬼が光と共に消え去り、少し金髪を覗かせる青い目のシスターが、十字を切り言った。
「デーモンよ、安らかに…。」
そして同じく青い目を持つ少年が、チョコチョコとシスターに寄って来ると、シスターは少し怒ったように言った。
「圭史…何故わからないのです、あまり近づいては危ないと…。」
「シスターラザロ、俺は貴女の弟子です。貴女の未技を余す事なく見て取り入れたい!わかってくださいこの気持ち!」
圭史はシスターラザロにそう言うと、シスターはまた十字を切り苦悶な顔でお祈りした。
「主よ、この子をお守り下さい。まだどれだけ危険な事かわかっていないのです…。」
「わかってます!お願いだからまた置いてどこかに行くのはやめて下さい!」
圭史はシスターに抱きつくと、シスターは祈るのをやめ、圭史の頭を軽く撫でた。
「仕方のない子ですね…。」
シスターが圭史を抱き上げると、圭史は少し怒ったような顔をし言った。
「子供扱いはやめて下さい!」
「子供ではないですか、小さいうちは大人に甘えるべきですよ?」
圭史は不満そうにしたあと、顔を赤くして黙った。
「あの子はあのお姉さんが好きなんだ…。」
隠れて見ていた澪はそう呟くと、何だかとても彼らが羨ましく思えた。
彼らは頭に被り物をしていてわかりにくいが角があり、鬼化病だとすぐにわかった。
それだけ澪の光る目は、人には見えない鬼と鬼化病の者特有のオーラのようなものまでも見えていた。
同じ鬼化病でありながら、彼らは澪と違い、とても自由に思えた。
もっと見ようと澪が身を乗り出した時、そのシスターと目があった。
「…!?」
澪は思わず身を引き、格子から離れた。
そして再び外を見ると、誰もいなくなっていた。
「…どこへ行ったの?」
澪が外をのぞいていると、塔の下が騒がしくなっているのに気づいた。
何かと思っていると、道子が誰かを静止する声が聞こえてきた。
「この塔には私達以外誰もおりません!どうかお引き取りを…!」
「誰も居ないなら部屋を見せてくれてもではありませんか、それとも見られて困る事情でもあるのかしら?」
「そうではありません!どうかお引き取りを!」
あのシスターだと、澪はすぐにわかった。
思わず澪が立ち上がったところで、厳重に閉ざされていた扉が開いた。
シスターや圭史と目が合うと、澪は不安そうな顔を圭史は驚いた顔をしていたが、シスターは澪の顔を見ると優しく微笑みかけた。
「初めまして、貴女のお名前は?」
シスターがそう言うと、澪は頬を赤くし固まった。これが圭史やシスターラザロとの出会いだった。
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