第19話 洞窟の主
青く光る洞窟に入って行った一行は、その怪しい洞窟に戸惑っていた。
「太陽はおろか月も出てない夜にこれだけ光ってるのは不気味だな」
圭史がそう言うと、他の皆もコクリと頷いた。
「でも圭史の目の色に似ていて嫌ではないなー。」
「私も…。」
大貴と澪がそう言うと、圭史は照れながら瞳を少し光らせた。
「でもよ、こんだけ光ってんのに水の中以外よく見えねーな」
「灯りをつけるか?晴人」
澪が炎をたいまつに宿すと、洞窟の奥から物凄い音と共に何かの吐息が吹き荒れ、たいまつの火が消えた。
「…何かおるな、これはこの洞窟で間違いないようじゃの…。」
落ち着いた様子で銀治郎がそう言うと、他の者達に緊張が走った。
「てゆーかここでもし毒霧を出されたらヤバいんじゃない?」
大貴が焦りながらそう言うと、他の者達は落ち着いた様子で言った。
「大丈夫だろ?」
「何とでも出来るさ、心配するな大貴」
晴人と圭史がそう言うと、大貴はブスッとした顔で、澪の隣に座り直した。
「何だよせっかく心配してやったのに…!」
「まぁまぁ大貴、そんなものだよ」
澪が宥めながら頭を撫でると、大貴は少し顔を赤らめてソッポを向いた。
「来るぞ…。」
銀治郎がそう言うと、またその場に緊張が走った。
そして暗闇の中に晴人が雷を帯びた槍を投げ入れると、そこには外に現れた鬼とは比べものにならないくらい大きな鬼が大口を開けて雄叫びを上げた。
その足元には人間が何人も横たわり、人骨なども見受けられた。
「まだ生きていてくれたようだな…。」
「師匠!畳み掛けましょう!」
「無論だ!」
銀治郎と晴人が雷槍の灯りを頼りに鬼の手前で降り立つと、銀治郎がクナイを投げ、晴人が槍を拾ってまた投げた。
鬼は片腕でクナイを弾き、もう片方で雷槍を掴み取った。
「触ったな!もうお前の動きは抑えたようなものだぜ!」
晴人はそう言う通り、痺れているのか鬼の動きは鈍くなり、銀治郎のクナイも鬼の周りを捉えて動けないように結界を作り出した。
「ありがとう!あとは任せろ!」
圭史はそう言うと、手裏剣のような雪の結晶を投げ、鬼を一部凍らせた。
「流石に大きすぎて全体は無理か…。」
圭史がそう言っていると、その後ろから澪が飛び上がり、足元を凍らせた圭史とは対照的に鬼のふさふさな頭上を炎で焼いた。
「小賢しい…汚染者共よ」
鬼はそう言うと、飛び掛かった澪を霧を吹きつけた。
気を失った澪を圭史が空中で受け止めて船に戻り、何度も揺すった。
「澪!大丈夫か!?」
「圭史、眠ってるみたいだよ…?」
大貴が心配そうにそう言うと、圭史は我にかえり、深呼吸すると澪を寝かせたまま船を飛び降りた。
「圭史、澪は大丈夫か?」
「あぁ、晴人。どうやらあの鬼の霧を浴びると眠ってしまうみたいだ、厄介だな」
圭史か澪の方を少し見ながらそう言うと、晴人と銀治郎は鬼への対処を考えながら構えた。
「どうします?師匠」
「鬼はワシらの雷撃で動きが鈍い、晴人と坊主はワシが囮になるから両サイドから攻めろ、いいな?」
「了解です!」
晴人は一体どこに持っていたのかわからないもう一本の槍を持つと、銀治郎が飛び上がったのを合図に右に走った圭史と同時に左に回り込んだ。
「ちょこまかと、鬱陶しい…。」
鬼が銀治郎を眠らせようと霧を吐くと、銀治郎は槍を回してそれを回避し、尚も狙ってくる鬼からアクロバティックな動きで避け続けた。
そして鬼が大口を閉じた瞬間、銀治郎は他の二人に言った。
「今じゃ!」
圭史は右から手裏剣のような氷を、晴人が左から雷槍を放つと、鬼は晴人の雷槍を掴むことは出来たが、圭史の氷には回避が間に合わずもろに喰らう事となった。
「おのれ…小癪なマネを…!」
しかしやはりその大きさのせいか、致命傷にはならず、鬼は無理矢理に銀治郎の結界を打ち破ると、捕まっている人達を残して洞窟の奥に飛び、水飛沫を上げた。
「逃さん!」
銀治郎がクナイを投げ、また結界で捕らえようとするが、鬼は霧を吐きそれらを全て落とすと、毛を逆立てて言った。
「慌てなくてもお前達には近々起こる百鬼夜行の時にたっぷり礼をしてやる…首を洗って待っているがいい…。」
「何!?百鬼夜行の事を何か知っているのか!?」
圭史がそう言うと、鬼は不気味に笑い、何も答えぬまま洞窟の奥へ走り去った。
「待て!」
圭史達ら追いかけようとしたが、眠っているさらわれてきた人達を見て、足を止めた。
「被害者達を鬼の巣から運び出すのが先だな…。」
「ちくしょー!あともう少しだったのに!」
晴人が本当に悔しそうに座り込みながらそう言うと、銀治郎はやれやれと晴人を立たせて小舟へと捕まっていた人達を運んだ。
✴︎✴︎✴︎
「本当に、ありがとうございました!おかげで友人達もちょっと記憶がないみたいですが元気です!」
圭史の長屋で、依頼主の真衣がそう言うと、みんな照れたように笑った。
「そうかい、みんな無事で良かった。これからは下手な所に行かないように…。」
銀治郎がそう言うと、真衣は持ってきた菓子折りを置いてそのまま帰って行った。
「百鬼夜行か…本当に起こるんだな」
去っていく真衣に手を振りながら圭史がそう言うと、澪が圭史を心配そうに見つめながら言った。
「恐れているのか?圭史…。」
「いや…恐れるとしたらみんなが居なくなる事くらいさ、特に澪、お前がな…。」
討伐途中で眠ってしまった事を、本人も圭史も気にしていた。
そんな中で二人が見つめ合っていると、後の三人がジーッと見ているのに気づき、恥ずかしがりながら離れた。
こうしてまた彼らの日常が過ぎて行くのだった。
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