第18話 霧鬼

濃い霧の中、圭史と晴人がまた飛び上がると、鬼に向け手裏剣のような氷と、雷を帯びた槍を放った。

しかし鬼の鱗は強固で、まったく刃が立たなかった。


「これで攻撃したつもりか?我が毒霧を喰らうがいい…!」


圭史と晴人は飛び上がり、圭史が作った氷の上に避難した。

そして自分達がいた場所にあった湖から、顔を出していた花が一瞬で枯れてしまうのを見た。

更に死んだ魚が浮かんできたのを見ると、一瞬顔を見合わせ、ジリジリと後ずさった。


「どうする?攻撃は効かない…おまけにあの毒じゃ迂闊に近づけないぞ?」


「弱気になるんじゃねぇ!先手必勝だ!そうだろ!?」


「別に弱気になってるワケじゃ…。」


ごちゃごちゃと言い争い始めた二人を見ながら、鬼は痺れを切らし声を上げた。


「うるさーい!サッサと決めないか!攻撃するんなら来い!俺は煮え切らないのが大っ嫌い何だ!」


これまでに無い大声に圭史達は皆驚き、一瞬皆硬直した。

そして、圭史は晴人の肩を叩き、鬼に構わず一緒に後を向いた。


「何?あの鬼あぁ言うタイプ?てっきりもっと奥ゆかしい感じなのかと思ったけど…。」


「そう言ってやるなよ、あんな爆発しちゃうんじゃ結構苦労してるぞアイツ」


そのコソコソ話を聞いた鬼は、なんとも言えない顔で怒り、泳ぎながら近づいて来た。

それを見た銀治郎が飛び上がると、鬼と圭史、そして晴人の周りの氷にクナイを投げ、雷の結界をはった。


「どうよ!これでお前は逃げられねーぜ?」


晴人がそう言うと、鬼は豪快に笑い出した。


「何だよ!本当の事だろーが!」


「逃げ場を無くしたのは貴様らも同じ事!我が毒霧、今度こそ喰らうがいい!」


鬼が毒霧を放つと、同時に圭史も口から冷気を帯びた粉雪を吐き出して毒霧を防いだ。


「おぉ!よくやった圭史!…と言ってやりたい所だが、ホワイトアウトで何も見えねーぞ」


「油断するな晴人、結界内にいる筈だ」


圭史と晴人は背中を預け合い、目を瞑ってどこから敵が来てもいいように集中した。

すると彼らの左から、氷を割って魚の様に鬼が跳ねると、圭史達を丸呑みにしようとした。


「いくぞ晴人!」


「おうよ!」


晴人が大口を開けた鬼の口を、槍でつっかえ棒をすると、圭史が氷の手裏剣をその中へ無数に投げ入れた。


「ぐあぁぁぁ!」


鬼は氷の上に打ち上がるとジタバタと暴れ、数分後に小さく縮んだ。


「倒した…んだよな?」


「普通なら凍って砕け散るんだが…やっぱり普通の鬼ではないみたいだ」


その様子を見て銀治郎が結界を解くと、晴人が縮んだ鬼に槍を突きつけた。


「さらった娘達はどこだ、返答によっては楽に死なせてやる」


「そんな事を答えたらどうせ大将に殺される…一思いにやるがいい!」


「大将?」


そのまま晴人は縮んだ鬼をつまみ上げると、ゆさゆさと揺すり情報を聞き出そうとした。


「大将ってのはどこのどいつだ!洗いざらい言え!鬼が群れるなんて百鬼夜行じゃあるまいしねーだろ!?」


「俺は何も言わない!殺すなら殺せ!」


鬼がそう言った後、銀治郎が仕方なさそうに晴人に近づき縮んだ鬼を受け取ると、何か静電気の様な雷の球体を指に宿して鬼の頭に向けた。


「なっ…何をする!?よせ!やめろー!」


鬼は逃げられずにその球体に当たると、焦点が合わない目をカメレオンのように動かし、まどろんだような状態になった。


「死にはしない…ただちょっと言うことを聞いて貰うだけじゃ」


銀治郎はそう言うと、鬼を手の平に乗せて言った。


「小童よ、お前の大将とはどんな輩だ?」


銀治郎がそう問いかけると、鬼はゆっくり少しづつ話し始めた。


「我ら霧鬼の核となるお方…我らの心臓を束ねている…。」


「心臓を…?」


澪に連れられて来た大貴がそう言うと、皆何とも言えない顔をした。


「複数の鬼の心臓を束ねる鬼…かなりの大物かもしれんな」


「銀治郎さん武者震いですか?」


「まぁのぅ、血が騒ぐのは確かじゃ、久しぶりに本気を出せるかもしれんからな、皆も心せぇよ」


ターバンから若い顔を覗かせて銀治郎がそう言うと、他の三人は背筋が伸びる思いであった。


「さて…連れ去った三人の少女達の居場所はどこじゃ?」


「…大将の住む湖の洞窟」


鬼はそれだけ答えると、泡を吹きながら失神してしまった。


「これ以上は無理かのぅ…。」


「十分ですよ銀治郎さん。あとは自力で洞窟を探しましょう」


圭史がそう言うと、晴人が槍で横転した船を起こし、皆それに再び乗り込んだ。


✴︎✴︎✴︎


ゆっくり湖の奥へ進んで行くと、対岸沿いに船の通れそうな洞窟を見つけた。

一瞬入るのを躊躇った一行は、各々武器を取り、晴人のオールさばきで中へと入って行った。


「皆、気を抜くなよ」


圭史がポツリと言うと、皆コクリと頷き、船は水面が青く光る洞窟に吸い込まれて行った。

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