第17話 討伐依頼
すっきりしない天気の夜。
霧の出る中、圭史達は湖の上を船で移動していた。
「何か本当に出そうな湖だね」
大貴が澪の膝の上で湖の水をピチャピチャと触りながら言うと、武装した他の皆は武器を構えた。
「この湖は昔から色々出るらしいからな…油断せずにいこう…。」
圭史がそう言うと、皆頷き、どこから襲われてもいいように持ち場についた。
この様な場所に何故いるかというと、それは昨日の夜に遡る。
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夜、澪が夕食の支度をする中、圭史と大貴は夕食をせがみに来た晴人と共にテレビを見ていた。
「おぉ!いいぞ、いけいけそこだ!」
相撲の中継に夢中になっている圭史達を台所から覗き見て、澪はクスリと笑った。
そんな時だった、呼び鈴が鳴り響いたのは。
「誰だろうか、こんな時間に…。」
澪が出ると、ドアの向こうにいたのは銀治郎と見知らぬおさげに眼鏡をかけた女子中学生だった。
「今晩は…神田真衣(カンダ・マイ)と申します」
女子中学生はそう言うと、頭を下げながら澪に促されるままに長屋の中に入った。
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「どこから話せばいいでしょうか…。」
真衣はそう言うと、皆が彼女に視線を向ける中で話し始めた。
「実は腕の立つ鬼の力を持った方々がいると聞いて伺ったのですが…私の願いを聞いていただけますでしょうか?」
「…伺うだけ伺いましょう」
圭史がそう言うと、真衣は一瞬嬉しそうに笑うが、またどこか暗い顔になり、俯きながら言った。
「人が消えると噂のある沼みたいな湖に、友人3人と肝試し感覚で行ったんです。そしたら大きな鬼がその友人3人を捕らえて言ったんです私に…。」
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脱げた靴も気にせず、真衣が大きな鬼を見上げると、鬼は吐き出す霧で少女達を眠らせて言った。
「この3人は霊力があるがお前からは微塵も感じないな。枯人よ、この3人を返して欲しければ霊力の強い人間を連れて来い。でなければこの3人の命は無いと思え」
真衣は恐しさのあまり、友人3人を残して心の中で謝り、泣きながらその場から走り去った。
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「枯人…霊力の全くない人間を鬼がそう呼ぶと聞いた事がある」
澪がそう言うと、真衣は涙をながしながら、圭史達に頭を下げて言った。
「お願いです!どうか…どうか私の友人達を助けて下さい!」
銀治郎が土下座をする真衣に身を起こすように促し、肩を叩いて落ち着かせた。
他の皆は最悪の事態も考えながら、その鬼についてあれこれと考えていた。
「鬼は何匹いると思う?」
大貴の問いに、圭史と晴人が答えた。
「そうだな…頻繁に人が消えているなら複数いるかもな。でも何匹かまでは…。」
「何匹いたって変わらねぇ、全部消し炭にするまでだ」
威勢のいい晴人を目を点にしながら圭史と大貴が見つめると、晴人は少し困惑した様子で言った。
「何だよ…何か文句あるのか?」
晴人がそう言うと、圭史と大貴は眉をひそめながら答えた。
「自分も消し炭にしないようにな」
「あんまり相手を見くびらない方がいいよ、お前バカなんだから」
その態度にカチンときた晴人は槍を手にしようとしたが、後ろにいた澪の、目を光らせながら部屋を荒らしたらただじゃおかないという無言の圧力に負けて縮こまった。
「あのう…。皆さんいつもあぁなんですか?」
「気にせんでいい…鬼の討伐、承った。普通の人が夜遅くまで鬼丸横丁にいてはいけない、今日のところは我々に任せて帰りなさい」
銀治郎がそう言うと、真衣は「はい…。」とだけ小さく答えて帰って行った。
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「真衣さんのお友達、どこに行っちゃったんだろうね?」
「そうだな…生きていてくれるといいんだが」
大貴の問いに澪が答えると、霧がまたいっそう深く濃くなった。
すると何かが船底に当たり、船が揺れたかと思うと、何かの影が、船の下を横切った。
「お出ましのようだな…。」
圭史がそう言うと、魚影のようなものが船を飛ばしたと同時に、皆一斉に船から飛んだ。
澪は大貴を抱えたまま近くの島に乗り移り、他の男達は圭史が氷をはった上に飛び乗った。
そして魚影のような生き物が水面に出てきた。
やはりその生き物は鬼だった。
鬼は紫色の肌をしていて、角は一本生えている普通の鬼に見えたが、腰から下は魚のそれの様だった。
「なんだ、あの娘が連れてきたのではないのか…。せっかくまたご馳走にありつけるかと思ったのだが…汚染者ばかりではないか」
鬼はそうは言ったが、大貴を見た途端に目の色が変わった。
「何だ、美味そうな奴もいるではないか…感じるぞ、高い霊力を」
澪は大貴を自分の後ろに隠すと刀を抜いて言った。
「悪いがお前がこの子を食う事はない。私達に退治されるからな」
「ほう…威勢がいいな若いの、お前達もついでに食ってやろうか?不味そうだがな」
鬼がそう言うと、その背後から圭史と晴人が飛び上がり、鬼を斬りつけようとした。
しかし鬼の身体は鱗に覆われていて、弾き返された。
「…そんな鈍じゃワシは切れんぞ。そうだな少し遊んでやろうか?」
鬼は挑発的に、圭史達を見下ろしていた。
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