第16話 鬼の子
「遠峰和之じゃと…。」
「銀治郎さん知ってる人ですか?」
戦闘前の静けさで緊張が走る中、澪が尋ねると銀治郎は首を縦に振り言った。
「育ての親を鬼に持つと噂の少年じゃよ、この横丁では要注意人物でしょっちゅう同士討ちをする事で有名じゃ」
「そんなに頻繁に…。」
澪と大貴が心配そうに圭史と晴人を見つめると、和之は唾を吐き出し心底相容れないという目で圭史と晴人を貫いた。
「こんな所に女や子供、老人を連れて来るな!目障りな奴らだ…。」
圭史と晴人は目を点にして、もっともな事を言っている和之を見た。
「晴人さんや、ひょっとしてあの人、誤解を受けやすいだけでまともなのでは?」
「圭史さんや…そう思いたいのもわかるが、あれは確実にSっ気が強いぞ、なんせ鞭で一般人を叩きやがったからな」
コソコソと話す二人に、痺れを切らした和之が鞭を片手に言った。
「何をコソコソ話している!俺はそうやってない事ない事話す奴らも大嫌いだ!言いたいことがあるならはっきり言え!」
「わかった…!フェアじゃなかった、悪かったな和之!」
圭史の言葉に和之は一瞬目を丸くすると、また怒ったように言った。
「誰が名前で呼んでいいと言った!馴れ馴れしいぞ!遠峰と呼べ!」
「えぇ…呼びづらいよ」
ブーブー言う圭史に和之は顔を赤くして怒りながら鞭で威嚇した。
そんな和之を見て、圭史は何か思いついたようにポンと手を叩いた。
「じゃあこう言うのはどうだ?俺と勝負して、俺が勝ったら人を襲うのをもうやめて貰うし名前も好きなように呼ばせて貰う。お前が勝ったら遠峰と呼ぶし、お前の好きなようにすればいいさ」
「…いいだろう。だがお前一人でいいのか?俺は複数相手をしても構わないが?」
不敵な表示でそう言う和之に、圭史は少しゾクゾクしながら言った。
「強気だね…複数だとやっぱフェアじゃないだろ?」
和之に負けない圭史の不敵な笑みに、和之は初めてニヤリと笑うと、鞭を複数に増やして言った。
「そうか、後悔させてやるよ。一人で戦った事も刀を抜かない事もな!」
すると、複数の鞭が縦に円を描き、タイヤが回って物凄い勢いで向かって来るように向かって来た。
圭史がそれを右に飛んでかわすと、圭史のいた所の壁にヒビが入り、地面が捲れ上がった。
「物凄いパワーじゃ、刀を抜かなければ命に関わるかもしれん…。」
銀治郎がそう言うと、大貴と澪が身を乗り出し圭史の名前を呼んだ。
「圭史!」
圭史は和之の攻撃を避けながら、壁から壁へ飛び跳ねて和之との間合いをつめて行く。
そして飛び跳ねながら和之の懐に入り込もうとすると、和之の鞭がまた増えて圭史に襲いかかった。
「懐に入れば勝ちだと思ったか!?甘いな!」
和之がそう言い、渦巻きながら飛ばしてくる鞭を間一髪で避け、圭史は荒れる息を整えるように距離をとった。
汚染者非難の会の者達はその様子に圧倒され逃げ出す者もいたが、殆どの者が固唾を呑んで様子を伺っていた。
和之はまるで生き物のように鞭を操り、圭史を隅の方へと誘導して行った。
「これで終わりだ!」
和之がまたそう叫ぶと、鞭が今度はチェーンソーのように渦巻き圭史の方へ向かって来た。
圭史は空気中の水分を氷の結晶に変えると、それを投げて向かって来た鞭達を壁にはりつけた。
和之はそれに少し驚き、更にまた鞭を作り出すと向かって来る圭史の抜いてない刀を受け止めた。
「やるじゃないか…。」
「こっちのセリフだ。まさか氷鬼の力を宿していたとはな…。樹鬼の俺は分が悪い…退散させて貰うとしよう…。」
そう言うと和之は屋根に飛び上がり、シャッター街を見下ろすと、圭史の方に振り向いた。
「俺の名は好きに呼ぶといい…最後にこれだけは聞いておこうか、お前名は何と言う?」
「俺は苑田圭史だ」
「苑田圭史…覚えておこう」
それだけ言うと、和之はそのまま屋根から屋根へと飛び去ってしまった。
「助かったのか…?」
汚染者非難の会の者達はそう言うと、圭史が氷の結晶を投げて縛られていた者たちの拘束を解いた。
「汚染者め!今日のところはこれくらいにしといてやる!」
すると白い防護服の集団は皆捨て台詞を言いながら去って行った。
それを見守っていた住人達は次々とシャッターを開き、鬼丸横丁はいつもの賑いを取り戻した。
「圭史!ケガはない!?」
大貴がそう尋ねると、圭史は静かに首を一つ縦に振った。
「心配したぞ、無茶はしないでくれ」
「澪、わかってる」
圭史はそう言うと、澪の額に自分の額をつけ澪を安心させた。
✴︎✴︎✴︎
草木が生い茂る神社の社の前に降り立つと、和之は中にいた者に声をかけた。
「父上、体の具合はいかがです?」
父と呼ばれた樹鬼は木の体をパキパキと軋ませながら和之の方を向き、少し笑ったような顔で言った。
「そうだな…今日は調子が良い。息子よ…今までどこにいた?」
「人間どもの所にちょっと…でもやはりここが一番落ち着きます。人間は嫌いです」
「そうか…それならよいのだ」
樹鬼に寄り添いながら、和之は体育座りをするとそのまま眠りについた。
樹鬼は和之の頭に触り、和之の記憶を見ながらくつくつと笑っていた。
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