第15話 弾圧者
ある休日の晴れた日の朝。
「澪さんはいるかね?白菜とネギを持って来たんじゃが…。」
「銀治郎様、いつもありがとうございます」
縁側で澪がそう言いながら野菜を受け取ると、そこで日向ぼっこをしていた圭史と大貴が嫌そうな顔をした。
「うわぁ…野菜嫌い!」
「俺も長ネギはちょっと…。」
二人のその反応に澪は睨みをきかせながら言った。
「二人共、嫌でも食べて貰いますからね。せっかくこんなに頂いているのになんですか全く…。」
「えぇー!」
大貴が嫌そうな声を上げると、澪はそれ以上何も言わせぬ目つきで大貴を見て、大貴は渋々黙った。
「大貴坊、圭史坊主も野菜は食べんといけんよ、澪さんに美味しい物を作って貰えるんじゃから。澪さんは持ち寄った物を何でも使ってくれるから持ってくるワシも気持ちがえぇ」
「とんでもない、本当にいつもありがとうございます」
圭史と大貴はしげしげと大量の野菜を見ながら二人で何とも言えない顔をしていた。
そこへ晴人がまた庭を通り縁側に近づいてくると圭史の両肩を掴んで、切羽詰まった顔で言った。
「聞いてくれ圭史!奴らが来た!」
「おぅ!びっくりした…奴らって誰が来たんだ?」
「奴らは奴らだ!鬼丸横丁の外を見て見ろ!」
圭史達は言われるままに縁側から飛び出し、鬼丸横丁の入り口付近まで行くと、白い防護服を着た集団が、何やらデモを行っていた。
「汚染者は汚染者管理区域から出てくるな!」
「お前達汚染者が出歩くから鬼が出るんだ!」
「化け物め、一人残らず死ねばいいんだ!」
なんとも過激な事まで叫んでいる、白い防護服の集団に鬼丸横丁の人々は困惑し、外へ出ていた人や店を出していた人達もドアやシャッターを閉めて建物の中へ逃げ込んだ。
「なんなんだ?あの集団は…。」
建物の上に飛び乗り、覗き込みながら圭史がそう言うと、銀治郎が肩を落としながら言った。
「汚染者非難の会じゃよ…残念ながら我々汚染者を排除したいと思っている一般人は少なくない。彼らは汚染者が鬼化病を運んで感染者を増やし、自分らも発症するんじゃないかと恐れておるんじゃ」
「噂には聞いていましたがここまでとは…。」
澪がそう話すと、皆肩を落とし、とても残念そうにため息をついた。
「俺は皆や鬼丸横丁の人達が好きだよ。皆暗い顔も見せずにいつも明るくて楽しそうだし…でも裏鬼丸横丁の人達はちょっと苦手だけどね」
「…ありがとうよ大貴」
大貴の言葉に圭史はそう答えると、大貴の頭をクシャクシャと撫でた。
「とりあえず何とか帰って頂くしかないな」
汚染者非難の会の者達を説得するべく、圭史が重い腰を上げたその時、物凄いスピードで駆けていく少年を見た。
その少年は圭史達と同じくらいで、黒い引き締まった服を着ていて、眼鏡をかけており、額の真ん中に1本角を生やしていた。
彼は汚染者非難の会の者達の前まで駆け抜けると、手からツルのような植物を生やし、それを生身の人間に向かって鞭のように放った。
「グハァ!」
「汚染者が…汚染者が向かって来たぞ!」
汚染者非難の会の者達が騒ぎ始めると同時に、少年は彼らを見つめて指を折り畳むように動かした。
「まずは数十人…あとはぼちぼちと…。」
少年はそう呟くと、手から木を生やし、防護服の集団はの一部を絡めとるように拘束すると、鞭のようにツルを使い痛めつけた。
その様子を見ていた圭史達は、すぐさま事の起こっている方へ駆け寄ると謎の少年を怒鳴りつけた。
「何やってるんだお前!生身の人間だぞ!」
圭史がそう言い放つと、少年は静かに圭史の方を向き、落ち着いた口調で言った。
「弾圧している、邪魔するなら容赦はしないぞ」
少年は本気の目をしていた。
圭史は刀に手をかけると、少し固まり悩んだ。
このままでは戦闘になってしまうが、汚染者相手に刀を抜いた事はない。
しかし少年は待ってはくれず、ムチを手に取ると圭史に向かって攻撃して来た。
「待て!汚染者同士でやりあうのはご法度だ!話し合おう!」
「話す事などない、俺は人間の一般人共が大嫌いなのさ、良かれとしゃしゃり出てくる奴もな!」
少年に吹っ飛ばされると、圭史は受け身を取りビルの壁に足をつき、そのまま刀は抜かずに少年に切り掛かった。
それを少年はいとも容易く跳ね除けると、静かだが怒った口調で言った。
「なぜ刀を抜かない…戦士に対して無礼ではないか?」
「抜きたくても抜けないのさ、相手が鬼でない限りはな…。」
圭史がそう答えると、少年は圭史と少年の様子を伺っていた汚染者非難の会の者達の動向を見た。
白い防護服の集団は派手な立ち回りにたじろぎながら、それでもまだ圭史達や少年を睨んでいた。
「見ろ、お前が鬼ではないと言って守ろうとする者達はお前を人間扱いはしないぞ?俺にとっては鬼も人間も汚染者も同じだ。気に入らない奴らは倒す、それだけで良いとは思わないか?」
少年がそう言うと、晴人も飛び出して来て、圭史の代わりに少年に叫んだ。
「俺も気に入らない奴らはいっぱいいるが、襲ったりはしない!そんな事をしたら無差別に人を襲う鬼と変わらないからだ!お前のやっている事は間違ってる!」
「晴人…。」
晴人の言葉を少年は鼻で笑うと、眼鏡をクイと鼻に押し当て、言った。
「良いだろう、この遠峰和之(トオミネ・カズユキ)がお前達がいかに甘い事を言っているかその体に教えてやろう…。」
鬼丸横丁入り口、そこでは不穏な雰囲気が漂っていた。
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