第13話 圭史の多忙な一日(前編)
圭史は縁側で雪が降る庭をくつろいで見ながら澪が作る朝食を待っていた。
「出来たぞ圭史」
澪がそう言って呼ぶが、圭史はそれにこたえず、紅葉の葉が落ちるのを涼しい顔で見ていた。
「圭史ー!冷めちゃうぞ!」
大貴がそう言って走って来て圭史の膝の上に突っ込むと、圭史は大貴の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「そうゆう危ない事する奴はくすぐっちまうぞ!」
「わー!やめろー!」
そんな光景を澪も笑いながら見ていた。
✴︎✴︎✴︎
朝食を食べ家を出ると、どこからともなく悲鳴が聞こえた。
通常鬼が出るのは夜だが、汚染者の住む鬼丸横丁ではいつ何時誰が鬼になってもおかしくない危険な区域で、鬼になった人が出るのは昼間も夜も関係ない。
「行くぞ澪!」
圭史はそう言うと、鞄を置き刀を持って声がした方へ、澪と共に屋根に飛び上がって走って向かった。
「助けてくれー!」
そんな声のする方へ行くと、もうすでに何人か横丁の住人で戦える者が集まっていた。
だが、相手はタコのような吸盤をもった大型の鬼で、何人か捕まっている住人も居て迂闊に近寄れない状態だった。
「いいぞタコ野郎!俺の鬼神への道の礎となれ!」
そこにそんな事を言っている晴人の姿もあり、圭史と澪はその隣に駆けつけた。
「ようてめーら!遅かったじゃねーか!」
「あぁ、お前は早いな」
「当然だ、家すぐ近くだからな!」
晴人はゲラゲラ笑いながらタコのような鬼に飛びかかり、雷撃を浴びせた。
だが、タコのような鬼は地面に雷撃を分散させているらしく、きいていないようだった。
「これならどう!」
澪がそう言って炎を纏わせた刀を振ると、タコの足が切り刻まれるが、すぐに再生してキリが無いようだった。
「雷撃も炎もダメか、やっかいだな…だったら寒いのはタコ的にどうだ!?」
そう言って、圭史がタコの足の一部を凍らせそれを破壊すると、タコのような鬼は再生出来ず少し苦しそうにもがいた。
そこで圭史が今度は大部分を凍らせると、タコのような鬼は捕まえていた人たちを離し、苦しそうに雄叫びを上げた。
「…今楽にしてやる」
圭史はそう言うと、もがき苦しむタコのような鬼に切りつけ、真っ二つにすると凍りつき、見る影も無く粉々に消し飛んだ。
✴︎✴︎✴︎
その後、無事学校に行った圭史達は、屋上で昼食を取っていた。
「圭史…力の使い過ぎじゃないか?」
手元が氷の結晶を覗かせている圭史に澪がそう言うと、圭史は手元を押さえ何でもないと言う風に笑った。
「大丈夫だ、ちょっと疲れてるだけだよ」
「そうか?でも一応火に当たっておけ」
そう言って澪は手元から火を出すと、圭史の手首の所を温め始めた。
そんな時、また校門の方で誰かの叫び声が響いた。
「新手の鬼か!」
すぐにその場にいた者は武器を取り、屋上から飛び降りて校門前へと駆けつけた。
するとそこには木のような肌をもった鬼が、般若のような形相で鬼丸横丁の住人を切りつけたまま立っていた。
「その人を離せ鬼!」
晴人がそう言うと、鬼は少し顔を動かして傾げながら、周りの自分を囲んでいる者達を見渡した。
「お前達は何故鬼を狩る?自分達もいずれ鬼になる運命だというのに…。」
鬼が喋った事にまず周りの者達は驚き、後退りしたが、圭史達は顔を見合い、鬼の問いについて少し考えた後言い放った。
「俺達は鬼にならない、必ず鬼神になってみせる」
圭史はそう言うと、氷で傷ついた人達の止血をし、また鬼の前に立ちはだかった。
「言葉がわかるなら晴人の言ったように、その人を離してはくれないか?」
「無駄だ圭史!人の言葉なんか鬼が聞くかよ!」
晴人はそう言うと、大きな槍を構え、鬼にジリジリと近寄ろうとした。
だが、晴人が鬼の間合いに入る前に、鬼は捕まえていた人を放るように離した。
「ありがとう、君は普通の鬼とは違うのかな?」
圭史が問いかけると、鬼は静かに笑い、圭史の方を見ながら言った。
「ハッハッハ、違う?俺がか?同じだ、鬼は皆殺人衝動にかられる。鬼の力を宿したお前達も例外じゃない。皆等しく殺人衝動にかられ、等しく化け物になっていくのさ。お前達は鬼を狩る事でそれが押さえられているだけだ」
鬼の言葉に圭史は眉をひそめると、鬼はまたクツクツと静かに笑い、木のような背中から翼を出すと、風をおこしながら飛んだ。
「今日は気分がいい、だから誰も殺さないでおこう。少年、縁があったらまた会おう」
「まて!」
晴人がそう言い、澪も刀を構え炎で鬼に奇襲をかけようとしたが、鬼のおこした風があまりにも強く、皆吹き飛ばされそうになりながら顔を覆った。
風が止んだ頃には、鬼は遥か遠くに飛び立った後で後を追う事は出来なかった。
「何だったんだあの鬼…。」
晴人がそう言うと、皆黙ったままとりあえずケガ人を学校の保健室に運んだ。
✴︎✴︎✴︎
夜、鬼を狩に出ようとすると、いつも通り大貴が玄関で待ち伏せており、連れて行くようせがんできた。
「何度も言うが危険なんだ大貴、大人しくお留守番しててくれよ」
「やだ!絶対行く!」
「…困ったなぁ」
そこへ、晴人と鬼丸横丁の管理人、銀治郎がやって来た。
「久しぶりだね澪さんや」
「ご無沙汰しております銀治郎さん」
銀治郎が巻いていたターバンを外すと、そこにはいつもの老人の姿ではなく若々しい若者の姿があった。
「また若返ってる!」
「おぅ坊や、今日も元気だね」
そんな話をしているうちに、圭史と澪は刀を手に取ると、コソコソと大貴の後ろから出て行こうとした。
「そうはいかない!」
大貴はその動きに直ぐ気づくと、圭史の背中にいつもの様にお守りを携えてしがみついた。
「…全くしょうがないな」
圭史はそう言うと、澪や晴人、銀治郎と共に夜の者凄い脚力で、夜の街中ヘと消えた。
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