第12話 病魔

痩せこけた鬼が雄叫びを上げる。

すると圭史も澪も刀を持って構え、その場に緊張が走った。


「大貴と崎本さん達は下がっててください!」


「わかりました、この場はまかせます!」


圭史に言われ、朱理は大貴と珠那を連れて奥の部屋へと避難を始めた。

その矢先、子供と女性が逃げるのをよしとしない鬼が、拳から流れる血を飛ばしたかと思うとその血は一瞬で固まり、ツブテとなって勢い良く飛び大貴達の行く手をはばむように、社の中を一部破壊した。


「変わった攻撃だな…ツブテの鬼と言ったところか…。」


「来るぞ圭史!」


澪がそう叫ぶと、圭史は澪と共に、飛んできたツブテを後ろへ飛んでかわし、鬼と距離をとった。


「キャー!」


とばっちりを受けた朱理、珠那がそう叫ぶと、大貴は二人を先に行かせながらいつツブテが飛んで来てもいいように注意を払いながら走って行った。

そして分厚い木の衝立の裏に隠れると、圭史達の様子を伺った。


「間合に入れない…どうする?」


「そうだな…とりあえずこの傘を借りようかな」


圭史はそう言うと、刀を鞘に収め、番傘を手に取った。

するとその傘を開き、くるくると回しながら冷気を纏わせながら凍らせると、飛んでくるツブテを防いだ。

それを見て、鬼は自らの傷を広げると、更に多くのツブテを圭史達の方へ飛ばした。

しかし圭史はそれを傘を開いて防ぐと徐に傘を閉じた。

そこには先ほどまで隣に居たはずの澪の姿は無かった。


「こっちだ!」


鬼が上を見上げると、そこには刀を構えた澪の姿があった。

澪が鬼を切ると、鬼は大量のツブテを吹き出しながら事切れ燃え上がって消し屑も残さずに消えた。


「澪、ケガはないか?」


「それはこっちのセリフだ。あんなにツブテを受け止めて手首を捻ってはいないか?」


「大丈夫だって」


すっかり二人の世界に入っている二人を見ながら、大貴達はなんとも言えない顔をしていた。


「これだから苑田君達は苦手なのよね、学校でもいつもあぁなのよ」


「えぇ!朱理さん同じ学校に行ってたの!?」


「えぇ、これでも座学は鎧塚さんの次にいいのよ」


大貴が驚くと、朱理は当然といった様子で鼻高々だった。


「てゆーか澪さん座学も一位なの!?体育もずば抜けて凄かったのに!?」


「当たり前よ?鎧塚さんは校長先生の弟子でもあるんだから」


「へー…そうなんだ」


大貴は感心しながら前に出会ったあの不思議な雰囲気の校長、鹿島暁彦を思い出す。

立ち振る舞いに微塵も隙が無いのは大貴にもわかった。


「あんなに凄い人でも、まだ鬼神になれないんだな…。」


そう言いながら、大貴は壊れてしまった屋敷の中の花瓶などの片付けを手伝った。


✴︎✴︎✴︎


片付けをしている最中、先程の大貴の言葉を思い出して朱理はボソリとつぶやいた。


「鬼神…何人もの鬼になってしまった人の犠牲の上に成り立つのよね…私達みたいに…。」


朱理はそう言うと、ゴホゴホと急に咳き込み始め、珠那に支えてもらいながら座った。


「ごめんなさい、変なとこ見せて…私達雨降の巫女は慈愛の雨を降らせられる代わりに、病気の進行が早いのよ」


「えっ…。」


大貴が思わず口籠ると、朱理と珠那は心配する大貴に笑いかけた。


「心配しなくても大丈夫よ、今すぐに鬼になるわけじゃないし、鬼を倒せないわけでも無いからね」


朱理がそう言うと、大貴は前に同じような事を圭史にも言われた事を思い出す。


「強力な力があればある程、病魔の進行は早いわ、苑田君達も例外なく鬼化病の病魔に蝕まれているはずよ。だから大貴君、君は普通の人間として相応しい場所にいた方がいいんじゃないかしら」


それを聞き、大貴は圭史と澪の方を見た。

二人共、その力はとても強力だ。

だから夜な夜な出かけて鬼を狩っているのだろうか、それならなおさら着いて行って二人の事を手伝えたらと大貴は思う。


「ごめんなさい朱理さん、俺は…。」


「そう…鬼丸横丁を出る気はないのね、危ない目にあえばこりるかと思ったけどダメのようね…。」


「心配してくれるのはわかります、この鬼丸横丁の人は皆そうだから…でも俺、もっと知りたいんです汚染者の人達の事、自分の目や肌で感じて」


「そう…難儀な子ね」


笑顔で朱理に一度小突かれながら大貴はなんとも言えない顔をしていた。


「そこまで言うなら二人にちゃんと守ってもらいなさいよ、守る者がいると人は強くなるらしいから」


「そうなんだ、俺は役に立つならなんでもするよ!」


大貴は二人を再び見ると、圭史も澪もそれに気づいて手を振ってくれた。

大貴は手を振り返すと、朱理に向き直り言った。


「もし二人に慈愛の雨が必要になった時はよろしくお願いします」


「えぇ、もちろんよ。その為に私達はいるからね、任せなさい!」


朱理が胸に拳を当てると、珠那も真似して拳を当てて得意そうな顔をした。

迫り来る病魔に怯えるのではなく、立ち向かう勇気を持っている鬼丸横丁の人々に、大貴は心を打たれていた。

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