第9話 学校
「じゃあ行って来ます!」
「行ってらっしゃい」
大貴が小学校へ向かう時、澪が笑って見送ってくれた。
圭史はその後ろでまだ食事を取りながら、軽く手を振ってくれた。
しかし、学校へ向かう通学路で、大貴は一つの疑問を浮かべた。
「あの二人って…学校行ってるんだよな…。」
いつも制服を着ている上に生徒手帳を持っているところを見ると、間違いなく行っている。
だが、学校へ行くところを見た事がない。
そもそも汚染者達の学校とはどんなところなのか、非常に興味がわいた。
「よし!ついて行ってみるか!」
そう思い立ち、大貴は来た道を戻り、鬼丸横丁へ向かった。
✴︎✴︎✴︎
「よし、出てきた出てきた」
物陰に隠れながら、圭史と澪が鞄を携えて長屋から出てくるのを見ると、大貴はこっそりその後を追う。
鬼は夜行性のため昼間はでないが、彼らはしっかりと刀を携えている。
そこを妙に思いながら、大貴は後方から様子を伺った。
そしてそうしているうちに、学校らしき所に着いたようだった。
「へー…大きいな」
目の前に現れた立派な建物を見上げて思わずそうもらし、大貴は立ち尽くした。
そうしていると、いつもの着物姿じゃない晴人も、圭史達に合流したようだった。
「お前ら仲良く登校かよ、お熱いねぇ!」
「茶化すなよ晴人、いつもの事だろ?」
「違いねぇ!」
晴人が圭史の肩に手を回しながら、元気よくそう言うと、澪は照れたように俯いた。
そして三人はそのまま校舎に入って行った。
大貴はチャイムが鳴り人がいなくなるのを確認してから学校の敷地内に入った。
✴︎✴︎✴︎
やたらと広い校内に苦戦しながら大貴が歩いていると、ジャージを着た生徒達が武器を持って校庭に出てくるのを見て、水飲み場の陰に隠れた。
「体育かな?でもあんな武器どうするんだ?」
気になって観察していると、生徒の中に圭史と澪、晴人の姿を見つけ、様子を伺った。
すると、藁人形を出して何かの準備を始めている様だった。
そして先生らしき人が笛を鳴らすと、生徒達はその人に注目した。
「ではこれより、対鬼討伐訓練を行う!始め!」
先生がそう言うと、生徒達は一斉に藁人形に切りつけ始めた。
皆すごい気迫であったが、中でも凄かったのは澪だった。
彼女は抜刀すると炎を纏わせて藁人形に切りつけ、一瞬で消し炭にした。
次いである意味凄かったのは晴人で藁人形に切りつける前に強すぎる力で武器を消し炭にしてしまっていた。
そして圭史はと言うと、藁人形を氷漬けにし砕いていたが、物凄いクラスの生徒達と比べると十番目くらいに凄いと言ったところであった。
「圭史より凄い奴が結構いるんだな…。」
感心しながらも少し残念そうにそう言い、大貴はそのまま訓練を見守った。
「次に捕縛訓練を行う!鬼を捕らえよ!」
そう先生が言うと鶏が、鬼のお面をつけて放たれた。
そこへ生徒達が一羽づつ捕まえて出した。
そこでも目を見張ったのは澪の炎だった。
澪は鶏の周りを炎で包み、焼き鳥にする勢いで瞬時に捕まえた。
しかしこれは圭史も負けていなかった。
それもまた瞬く間に氷で鶏の周りを包囲し、何羽も捕まえていた。
だが、豪快だったのは晴人だ。
晴人は鶏を一撃で痺れさせ、素手で捕まえていた。
それらの浮世離れした訓練を見て、大貴は自分の行っている学校がいかに平和か思い知らされた。
「でもこの中の何人が鬼神になれるんだろう…。」
そう呟くと後ろから、風格のある、赤毛の髪の長い御人が話しかけてきた。
「いずれかは鬼になってしまうかもしれない。しかし皆、鬼神になる事を諦めはしないだろう。いや、急に失礼した。あまりにも考え深い一言だったのでつい声をかけてしまった…。」
「誰…?」
御人は低い声で笑いながら大貴の隣に座り、圭史達が訓練を行う様子を眺めた。
「私は鹿島暁彦(カシマ・アキヒコ)といい、この学校の校長をしている。少年、君は汚染者ではないだろう?なぜここにいる?」
「それは…。」
大貴が言葉に詰まると、暁彦は大貴の背中を二度ほど叩いた。
「答えは今でなくても良い、また来るのだろう?」
「はい…。」
小さくそう返事をすると、暁彦はまた大貴の背中を叩いて、立ち上がった。
「いつでも来るといい…と言いたいところだが、次は君の学校が終わってから来なさい。いいね」
暁彦はそう言うと、そのまま笑いながら去って行った。
「何だったんだろう?」
大貴がそう立ち尽くしていると、圭史達が訓練を終えてこちらに歩いて来た。
「大貴!なんでここにいるんだ?学校は!?」
「いや…その…だって…。」
圭史にそう言い足で砂をかきながら、大貴はいじけた様に俯いた。
「大貴、サボったのか…?」
澪がそう尋ねると、大貴は先程の澪の容赦のない斬撃を思い出し、冷や汗をかき、絶対に逆らってはいけないと恐れおののいた。
「ごめんなさい!もうしません!」
「…わかればいい」
圧力に屈した大貴は、まだ若いが寿命が縮まる思いであった。
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