第7話 桜鬼

どこかで三味線が鳴っている。

その音に呼応するように、花鬼や猿鬼達が現れる事に気づき始めた圭史は、屋根の上から飛び降りると、広い庭を突っ切り、三味線が鳴る方へと駆け抜ける。


「圭史!ガイドさん大丈夫かな!?」


大貴がそう言うと、圭史は足を止めて、花鬼や猿鬼から距離を取り言った。


「そうだな大貴、人命が先…だよな」


圭史はそう言うと、ガイド兼管理人の消えた屋敷の奥を目指した。


✴︎✴︎✴︎


その頃、晴人はというと、ひっきりなしに現れる花鬼と猿鬼達に悪戦苦闘していた。


「なんなんだよ!こんなにわきやがって!」


鬼達を吹っ飛ばすのに疲れてきた晴人は、槍を地面に刺し、自らの雷をそこを軸に乱反射させ、鬼達を蹴散らした。


「チッ…この槍ももうダメか…。」


晴人はそう言うと、消し炭になった槍の持ち手を手から滑り落とし、広い庭に置いてあった熊手を手に取った。


「てめーらの相手はこれで十分だ…かかって来な!」


その瞬間、鬼達が一斉に掛かって来た。

しかしその中心にいる晴人が雷光と共に光ると、そのあたり一面の庭石や植物共に消し飛んだ。


「チッ…スタミナ切れか…。」


真ん中で黒焦げになりながら、晴人は消し飛んだ花鬼や猿鬼に手を合わせた後、自分もその場に倒れ込んだ。


✴︎✴︎✴︎


「ガイドさん!大丈夫ですか!?」


圭史と大貴が厨房に入り込むと、そこにはガイド兼管理人の姿は無く、代わりに鬼が三体厨房の上に乗ってこちらを光る目で見ていた。


「下がれ大貴!」


圭史はそう言うと、氷の結晶の形をした手裏剣を作り出し、鬼達に投げた。

それに当たった鬼達は、すぐに凍りつき動きを止めた。


「うるさいねぇ…何の騒ぎだい」


そう言いながら、着物を着た女性が厨房に入ってくると、圭史と大貴は一瞬固まった。


「あのう…貴女は?」


美しい女性の登場に少したじろぎながら、大貴がそう言うと、圭史が何かに気づいた。


「まさか…ガイドさん、ですか?」


三味線を持ったその人にそう言うと、女性はなんとも言えない美しい笑みを浮かべた。


「なかなかやるじゃないか…このお染のシマをここまで荒らしたのはアンタらが初めてだよ」


お染はそう言うと、結い上げていた髪の毛を下ろした。

すると、赤い2本の角が現れた。


「冥土の土産に教えてあげるよ、アタシは桜鬼のお染、アンタらにはここで死んで貰うよ!」


お染がそう言い三味線を鳴らすと、桜が吹雪の様に二人の周りを舞った。


「大貴!伏せてろ!」


圭史はそう言うと、吹雪の様に舞う桜の花びらに向け手裏剣を投げた。

それで彼らの周りを舞っていた大まかの花びらは凍ったが、残っていた数枚の花弁が圭史の頬や肩などをカッターの様に切り裂いた。


「圭史!」


大貴が叫ぶと、お染は可笑しそうに笑い、また三味線に手を伸ばした。

すると圭史は大貴を抱えて厨房の窓を突き破ると、桜の咲き誇る外へと躍り出た。


「圭史!何やってんだよ!アイツ桜を操ってるんだろ?外じゃ部が悪いんじゃ…!」


「あんな狭い所で戦うよりマシだ、大丈夫、俺を信じろ大貴」


「…。」


桜の咲き誇る森を少し下ると、お染がゆっくりとそれを追って来た。


「ここなら広くて申し分無い。何故鬼なのに自我があるのか知らないが、相手になるぞ桜鬼」


圭史がそう言うと、お染はまた可笑しそうに手を添えて笑うと彼らに言った。


「自我?何十年も生きてりゃそれくらい目覚めるさ…鬼化病は何も最近流行り出したってしろもんじゃない。馬鹿な人間は気づかなかっただけで昔からあったんだよ。さぁ…アンタも人間と鬼の間で苦しむより、人思いに鬼になっちまったらどうだい?ここにいる花鬼や猿鬼の様に…。歓迎するよ」


「断る、お前みたいな鬼がいるから鬼丸横丁のみんなが苦しむんだ!」


圭史はそう言い、お染に切りかかると、お染は桜の花弁を操り、圭史へとんで行かせると、圭史は刀で防いだが、圭史の赤いパーカーを数カ所切り裂いた。


「そうかい…じゃあ人思いに楽にしてやろうとね!」


お染はそう言うと、三味線を鳴らす。

すると桜の花弁が渦となり圭史を囲むと、鋭利な刃物の様な花弁が圭史の体を引き裂こうとした。

しかし、圭史は目を瞑り集中すると、目を開いた時、その目は青白く光り、ある一定の花弁に乗せられたお染の力が見えた。


「ここだ!」


圭史はある一定の花弁を切ると、舞い上がっていた花弁が一部地に落ち、それを見たお染が花弁を圭史から離した。


「やるじゃないかい…でもね、ここには花弁なんて幾らでもあるんだよ!」


お染がまた三味線を鳴らすと、風が吹き荒れ花弁がまた舞い上がる。

圭史はまた集中し、刀に力を込める。


「死んじまいな!」


お染が叫ぶと、圭史は構えていた刀で空を切る。

すると他の花弁を操っていた花弁がその一体事凍りつく。


「だから無駄無駄!花弁はまだまだあるんだよ!」


圭史はそう言われながらも花弁を切り続ける。

そうしていると、下から自らも氷の中に閉じ込められていき、動きが鈍くなっていく。

それはお染も同じで凍りつけば凍りつくほど、お染の花を操る力が削られていった。

そしてお染に一番近い花弁を見つけると、そこへ圭史は刀を投げた。


「やるじゃ無いかい…本当に…。」


お染はそう言うと、花弁と共に氷の中に閉じ込められた。

そして圭史自身も、力を使いすぎだ代償として、その場の花弁と共に凍りついた。


「そんな…圭史!」


一部始終を見ていた大貴は、何とか圭史を氷から出そうと、奮闘するのだった。


✴︎✴︎✴︎


その頃、倒れて眠っていた晴人は、夜に映える白い手にペチペチと頬を叩かれて目覚めた。


「ん…何だよ…。」


「起きろ晴人。圭史はどこに行った?」


晴人を起こした青いパーカーを来た少女がそう言うと、晴人は次第に覚醒し、飛び起きた。


「澪じゃねーか!どうしてこんな所に…。」


澪こと鎧塚澪(ヨロイズカ・ミオ)は澄ました顔で刀を抜くと、スカートを閃かせながら言った。


「汚染者管理区域、鬼丸横丁から汚染者二人が居なくなったって騒がれてるぞ。それで二人の気配を追ってアタシがここまで来たわけだ」


少女、澪がそう言うとまた風が吹いた。

それは彼女のパーカーやセミロングの髪から隠されていた角2本を月明かりの下であらわにした。

澪の目はその灯りの下で赤く光っていた。

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