第6話 桜花山

霧の立ち込める山の朝、桜柄の着物の姿の額から角を生やした女性が石畳の階段を下っていた。


「さぁ…出迎えなければならないね…若い鬼神の卵達を」


そう女性は言うと、霧の中に消えていった。


✴︎✴︎✴︎


昼、圭史と大貴、晴人は電車に乗っていた。


「まぁ…汚染者がなぜこんな所にいるのかしら」


車内でヒソヒソと言われながら、まったく角を隠そうとしない、派手な着物姿の晴人に注目が集まっていた。


「だから角くらい隠せって言ったのに…。」


「動物園のパンダになった気分だよ」


圭史と大貴がそう言うと、晴人は愉快そうに笑いながらジロジロ見てくる一般人に言った。


「なんだよ、どこにいようが何をしてようが俺の勝手だろーが、それよりお姉ちゃん、なんか飲み物くれよ」


「お客様、勝手に触られては困ります!」


車内販売のお姉さんに絡みながら、傍若無人な晴人に一緒にいるのが恥ずかしくなりながら圭史と大貴は顔を合わせて苦笑いした。

そもそもなぜこんな所にいるのかというと、一通の手紙を受け取った事に遡る。


✴︎✴︎✴︎


「何か手紙来てるよー圭史!」


大貴がそう言いながら、とてとてと玄関から走って来ると、圭史は手紙を受け取りながら不思議そうな顔をした。


「誰だろう…知らない宛名だな」


封筒にはお染とだけ書かれており、中を見ると「桜花山にご招待、桜がオールシーズン見渡せる絶景を貴方に」とキャッチコピーが書いてあった。


✴︎✴︎✴︎


「まぁ誰かはわからないけど、貰ったら行くしかないよな」


「うん!楽しみ!」


圭史と大貴がそう言っていると、晴人は扇を片手にパタパタと仰ぎながら割り込んで座って来た。


「なんだよなんだよ。俺も仲間に入れてくれよ、いいだろ?」


「馴れ馴れしいな、俺は圭史と来たかったんであってお前はおまけだからな!」


「はぁ?おいおいそりゃないだろ?圭史からもこのガキに何か言ってやってくれよ」


そう晴人が言うが、圭史は封筒と中にあった手紙を見返しながら何か考えているようだった。


「おい!圭史!」


「…ん?なんだ?」


「だから、お前の口からもこのガキにだな…。」


「あぁ、もう着くな。降りようか二人とも」


圭史がさらりとそう言うと、晴人はカクッとこけ、大貴は圭史の手を握り元気よく電車を降りた。


✴︎✴︎✴︎


「ようこそおこしくださいました。ここ桜花山のガイド兼管理人です、今日はよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


圭史達は帽子を深く被った女性のガイドの人にそう言うと、山の登山口から咲き乱れる桜を見て「おぉ」と声を上げた。


「凄いな…桜が夏にこんなに咲いて…。」


「ここの桜は一年中狂い咲いております、…なぜかはわかりませんが…。」


ガイドさんがそう言うと、なんだか不思議を通り越して不気味な気がし、皆黙った。


「では、宿をご紹介します」


ガイドさんに連れられ、三人は山の奥に入って行く。

あたりが暗くなって来ると、石畳に灯籠が灯り、桜もあいまってなんとも言えない絶景が広がった。


「着きました、それでは私は食事の支度があるので…。」


「道案内ありがとうございました」


圭史がそう言うと、ガイドさんは一つお辞儀をし、宿の奥へと消えて行った。


「ごゆっくり、お寛ぎ下さい…。」


そう言い残して。


✴︎✴︎✴︎


宿の中は日本人形やこけし、翁のお面などが飾られ、古民家の雰囲気が漂っていた。


「ねぇ…なんか不気味じゃない?」


大貴がそう言うと、何も言わずにいた二人も咳払いをしたりしながら口を開いた。


「不気味じゃないって言ったら嘘になるけど、あまり大きな声で言うのはどうかと思うぞ?」


「はっ!こんなの不気味のうちに入らねーよ!おい!飯はまだか!?」


そんな事を言っていると、食事が運ばれて来た。


「ごゆっくりどうぞ」


ガイド兼管理人さんは食事を用意すると、そう一言だけ言ってまた宿の奥に消えた。


「何か変だなこの山…。」


「お前も気づいたか圭史。あちこちから鬼の気配がしやがる…。」


「えぇ!?」


大貴が驚くと、二人は食事を口にせずに立ち上がり、晴人はケースに折り畳をで入れていた槍を組み立て、圭史は袋に入れていた刀を取り出した。

そしてそのまま二人は日本庭園が広がる庭に出た。

すると、桜の花弁を纏った鬼が複数、圭史達の前に現れた。


「桜の花弁を纏った鬼、花鬼といったところか?」


圭史はそう言うと、何匹かを切りつけ凍らせたが、ウヨウヨとまたその倍以上の花鬼と猿鬼が屋根や塀の上から彼らを見下ろした。


「このままじゃ埒があかねーぞ!こんだけの数がわくって事はどこかに大ボスがいるはずだ!圭史、お前はそっちを探せ!雑魚は俺が引き受ける!」


猿鬼や花鬼達を槍で吹き飛ばしながら晴人がそう言うと、圭史は一つ頷き大貴をかつぎながら、屋根へ飛び上がった。


「頼んだぞ晴人!」


「おうよ!」


晴人はそう言うと槍に雷を纏わせながら、鬼達を薙ぎ払った。

そんな様子を尻目に、圭史は鬼達をあしらいながら屋根の上を駆けて行った。


✴︎✴︎✴︎


宿の奥の暗い部屋で、三味線が鳴り響く。


「さて…いつまでもつかね…。」


桜鬼はそう言うと、また三味線を鳴らす。

圭史達はまだ、桜鬼に気づいてはいない。



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